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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第6章 電撃作戦
182/197

182話 檻の中の鳥

 ウィル達が風になる中、侵攻は順調に進んでいた。


「ポイントノース、並び、サウス、障壁内に侵入成功! 地上部隊の展開を開始!」


 旗艦、蒼穹内にて戦況が報告される。


「不気味ですが、ここで様子見は余計な時間稼ぎになりますね……。我ら蒼穹も続く障壁内侵入後、一気に城を抑える! 繰り返すが軍事施設のみ鎮圧だ! 民間施設に構う理由も時間もありません!」


 アルフレドが語気を強める。国営の報道施設と魔素変換炉の続報がまだないことが気がかりだったが、作戦の特性上、時間をかけるわけにはいかなかった。



「報告、敵旗艦予定エリアを通過しました!」


「焦ったか…やはり、既に内部に侵入している奴がいるということ。よし、魔素変換炉、再起動」


 グレイは立ち上がり右手を前方に突き出した。


「魔素変換炉、再起動開始! 出力最大! アルテナ展開します!」


「これで檻に閉ざしたも同然だ」



 蒼穹が解除された障壁内に入り込んだ後、警報音がけたたましくなった。


「なっ……魔素変換炉の再稼働を確認、これは、作戦前の出力以上です!」


 アルフレドは一瞬で察した。全ては罠だったのだ。引き返すことは到底無理だった。


「船速最大、地上に衝突しても構いません! 下部にイージス最大展開! 周囲の護衛艦にも伝達しなさい! 障壁外の船団は急いで引き返すように!」


「了! 船速最大! イージス展開、周辺護衛艦に伝達! 敵障壁、再展開します!!」


「ちっ、各員、衝撃に備えろ!」


 ジェイルが全乗組員に向けマイクを通して叫ぶ。言い終わったなりに衝撃が襲った。艦内に警報音が鳴り響きモニターが著しく乱れる。

 障壁は再展開された。上空を再度覆い始めた障壁は、容赦なく突入中の船団を分断した。蒼穹の後部機関をも削り取った。


「う、うわあああ!!」


 後部機関部に従事していた船員は生じた爆発に巻き込まれ光に包まれた。各船団も両断され、内側に入った残りが地上に墜落して炎上し流星のように降り注いだ。最大船速で潜り込んだ蒼穹ならびにいくつかの船団は船速を戻せず地上に突っ込む。ぎりぎりで持ち直した蒼穹は建造物をクッション代わりになんとか地上への激突は免れた。


「うっ……被害状況は」


 アルフレドは頭をどこかに打ったようで朦朧とした意識の中でかろうじて立ち上がった。


「後部機関部……消失! 出力低下、高度を保てません……このままでは落ちます!」


「障壁内部の現存戦力3割、いや2割が航行可能……、障壁外の友軍との連絡不能、障壁によって通信が阻害されているかと」


「2割……これでは立て直しも絶望的ですね。墜落までの時間は?」


「1分持てば良い方かと……敵軍の砲撃も数を増しています。今はイージスにエネルギーを回していますがそれもいつまで持つか」


 墜落まで1分でできることはほぼない。つまり蒼穹は捨てざるを得ないということだ。旗艦の墜落が何を意味するかは明白だった。


「すみません。ジェイル、蒼穹はここまでのようです」


 アルフレドは傍らに座ったままのジェイルを覗き見る。だが予想に反しジェイルの顔は悲観的ではなkった。


「はっ、いいじゃねえか、やることが明白でよ。イージスを前面に集中させろ。姿勢制御はまだいけるか?」


「は、はい。それはなんとかなっていますが……?」


 船員はジェイルの表情に困惑していた。彼の顔はまだ生きていたからだ。眼に光が強く灯り、そして立ち上がった。


「滑空状態を維持しろ、このまま城へ突っ込む!」


「なっジェイル、本気ですか!?」


 自信満々に唱えた言葉にアルフレドの頭痛も吹っ飛び、思わず正気を疑った。


「この状況で嘯くほどふてえ奴じゃねえよ。大真面目のマジのマジだ。このまま落ちれば上の奴らにも敗北に映る。だが、このまま突っ込む動きをすればまだあきらめてねえ、死んでねえって証拠だ。大事なのはあきらめねえことだ。ほら、はよしろ。愚痴なら後で聞くからよ」


 アルフレドは一瞬、頭が真っ白になった。それはあきらめからではない。余計な心配も悩みも消し去ったからだ。それほどジェイルの言い分はどうしようもなく馬鹿げていて、面白かった。


「ふっ、諦めの悪いお人だ。聞いたなお前達、目指すは敵王城! これは無謀でも蛮勇でもない! 生きるための、再び国に帰るための一手に過ぎない! 我らの王と共に勝利を勝ち取るぞ!」


「……だあああ!! 王女がいないとこうなんだから! もう分かりましたよ! 了! 王と共に勝利を!!」


 船員は頭をかきむしりながら席に着く。それを見た他もそれぞれ愚痴を大声で言いながら、笑いながら前を向いた。


「後で愚痴れっつったよな……王様だぞ?」


 ジェイルのぼやきはもう誰も聞かず、艦体の向きを修正し他船団に作戦を手短に通達する。スピーカーからは怒号と笑い声が轟いたが、拒否するものはいなかった。航行が比較的可能な船団は蒼穹の突入後、可能な限り地上戦力を降下させた後、船体を城を取り囲むように外周に配置し増援を迎え撃つ。挟み撃ちまでの時間を稼ぐ算段だった。時間勝負は変わらず、勝利のために皆、一層の覚悟を決めた。後で王を一発殴ると心に決めて。






 

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