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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第6章 電撃作戦
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181話 障壁突破

 予想外と言っていい。それほどうまく運んでいる。眼下では黒に近い雲海が広がり敵の目を遮っている。下では嵐というところで、嵐の前の、いや嵐に飛び込む前の静けさと言ったところだった。満月に照らされる雲海の上にイストエイジアの蒼穹船団を主としたリーベメタリカの大船団は突入を前にしていた。


「報告します。報道施設、並び、魔素変換炉施設への工兵配置完了したとのことです。蒼の一行も一部陽動にに加わり、その後、合流する予定に変更ありません」


 情報担当が管制室中央に座る国王ジェイルとその傍らに立つアルフレドに報告する。


「報告ご苦労。さて、それはそれで警戒すべきでしょうね」


 アルフレドは神妙な面持ちでジェイルに告げる。


「あんまり考えたくねえが、そんな抜けてはないだろうな。奴さんは」


 ジェイルは指輪に手を添え、やれやれと背中を丸める。


「かといって止まるわけには行きません」


「ああ、取り戻すぞ自由を」


 ジェイルは拳を握りしめゆっくりと立ち上がった。


「それでは諸君、今よりルイネエンデ電撃作戦を開始する! 工兵に実行を通達しろ! 防御壁をまず打ち破り、一気に仕掛ける!」


「作戦決行! 防御壁を確認後、砲撃を開始する!」


 アルフレドが再び繰り返す。


「了! 各船団にならび地上工兵に実行を通達! 砲撃準備!」


 雲の上は騒がしく、それは嵐の音となって地上には未だ届かないのだった。



 地上で待機していたウィル達は雨は降り出し雷鳴が轟く最中で、合図を待った。夜明けが近いはずだが陽の光は遮られまだ夜は続いている。一際眩しい雷鳴が輝いた瞬間、雲を切り裂き光が上空に衝突した。


「来た!」


 ウィルは上空を見上げ、上空を纏う防御壁に衝突する光の帯を見つめた。やがて光が収束すると同時に防御壁が硝子を割ったように粉々になる音が轟いた。数瞬の後砲撃の雨と船団の影が雲から顔をいくつも出してきていた。


「よし、俺たちは王城へ急ぐ。お前たちは小型船が来るまで待機していろ。後で会おう」


「それでは皆さん、レイ、後で会いましょう」


「私の分も残しておいてくださいね!」


 ルイノルド、メレネイア、ティアがそれぞれ言葉を残す。去り際にウィル達と拳を合わせ健闘と無事を祈った。彼らの姿を暗がりに溶けるまで見送った後、一斉に地上から空へと光が伸びた。索敵用のサーチライト。それらの帯が上空の船団を照らす。同時に光が炸裂をはじめ、地上からの応戦が始まった。彼らの姿が時折、砲撃の明かりで照らされることもなくなった頃、弾幕を縫うようにして船影がウィルのもとに近づいてきていた。


 城内は落ち着いていた。それぞれが与えられた任務を果たすべく、持ち場にて待機していた。轟く音は振動だけ、未だ城とは距離があった。


「報告します。リーベメタリカ共同体、つまり敵軍が第一障壁を突破しました」


 伝令役が王の間で膝を付き、その壇上に深々と座る聖帝グレイに敵軍の侵攻状況を告げる。


「ふむ、予想通りだ、いや予定通りというところか。蒼穹がエリア25に到達を確認後、作戦はアニマに移行しろ」


「はっ」


 グレイは焦った様子もなく、淡々と次の命令を下す。予定通りとした彼の口元には笑みすら浮かんでいた。伝令役が姿を消す。幾分か振動が大きくなっていた。


「しっかし、信用していいのか? あいつをさ」


 隣にはリーヴェが控えており、しかめっ面を浮かべ、あいつを思い出す。


「オルリなど信用していない、信用するのは結果であり、それをもたらしたアーカーシャだ。不満がないこともないが、使えるものは使う。結果が全てだ。それに文句はつけられない。この城など象徴にすぎんからな」


「お前がそういうなら、俺はお前を信頼するさ。ユーフェリアン・ガードにはそのためにもそれなりに削ってもらわなきゃな」


 ユーフェリアン・ガードは既に城から出立し防衛任務についている。全ては結果を現実化するための配置だった。


 ウィル達、楔攻略組は降り立った小型飛空艇に乗り込む。


「よう、久しぶりだな」


 操縦席に座り体をこちらに向けている人物にウィルは目を丸くした。そしてダーナスが代わりに驚きの声を上げる。


「あ、アドル兄ち……兄さん!? どうしてここに!」


 ダーナスの兄、アドルだった。アドルは人数を数えた後、正面へ向きなおした。


「ちょうど快復したからな。そしたら作戦があるっていうんで志願したってわけだ妹よ」


「志願って、また勝手に決めて……」


 ダーナスは諦めた様子でぼやきながら席につく。勝手にとはアドルがイストエイジアの内通者だったことを指しており、それを知らなかったことを未だに根に持っているということだ。


「何言ってんだ。ダーナス、お前こそ、勝手に選んだ結果だろ。俺が文句を言ったところで変えないだろう?」


「それはそうだが……」


 バツが悪くなりダーナスの声は小さくなっていく。


「なあ、似た者同士ってのはわかったけど、そろそろ行かねえと、ほら」


 身を乗りだしたウィルが前方を指すと、そこには異変を察知した敵兵士が駆けてきて、小型魔砲を放ってくる。


「おっと、そんじゃ行くぞ! 捕まってろ! 一応イージス壁は稼働してるからあんなんじゃ蚊にも刺されないぞっと」


 小型艇が宙に舞いあがる。敵の魔砲は着弾することなくその手前で四散していた。それに感動する間もなくウィル達は急加速したことで座席に体を押し付けられ口を開くことは叶わなかった。


「上空に出るのはさすがに対空砲に見つかっちまうからな、暫くは低空で行く! さあ、相棒エイド! 風になるぞ!」


 ただ一人アドルだけは興奮した様子で建造物の隙間を縫うようにして躱し、その度に言葉にならない雄叫びを上げていた。既に涙目のオルキス、見るからに耐えるようにして手すりに捕まるニーア、ウィルはかろうじて開いた目でダーナスの兄の豹変っぷりを訴えるが、彼女はあきらめろと目で答えた後、瞼を閉じた。


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