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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第6章 電撃作戦
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179話 それぞれの選択

 イストエイジア本国との連絡が付き、首都ルイネエンデ奇襲は既に三日後と迫っていた。ノグニスの言い分によると重力と次元の問題としていたが、つまり、ノグニスのあの空間で予想以上に時間が経過したことが事実だった。

「それで、疲労回復に明日はフリーってのはわかった。で、奇襲作戦はどうすんだ?」


 ウィルは用意された円卓に両肘をついて組んだ手を前にして気難しそうな顔でルイノルドに答えを求めた。


「ウィルとニーアはそのままスフィアリヒトに向かえ、その前にエヴィヒカイトをどうするかだが、奇襲作戦と同時にこちらに小型船をまわす。それで直接スフィアリヒトに向かえ。俺とメルは奇襲作戦側に参加する。他の面々はウィル達と共に向かうといい」


 ルイノルドは立ったままで腕組みを解かず、今後の編成を伝える。


「え、お父さんまた離れちゃうってこと?」


 それに寂しそうにするのはニーアだった。やっと会えたのにまた離れることになることがやはり思うところがあるようだ。


「これが終わればすぐそちらに合流する。そんなに長くはならないさ」


 珍しくニーアに寄り添うような発言はウィルを驚かせた。思わず肘を机からすべり落とすところだった。


「でも……!」


 思わず感極まり立ち上がりそうなニーアを抑えるように一歩進んだのはメレネイアだった。


「これに関しては、許してほしいとは、さすがに言えないですが、どうか分かってほしいです。レイもお願い」


 レインシエルは口を堅く結んだが、メレネイアの瞳に力強く頷いた。彼女は自分自身の役割を真っ当することを決意した。

「メルの言うとおりだ。ま、俺らの責任はちゃんと果たさねえといけねえんだわ。十年前から始まった俺たちの物語に一旦決着をつけなきゃならねえ。その後、全力でお前達を追うからよ。なに、どうせピンチだろうからな。ヒーローの登場を待ってろよ。物語ってのはそういう決まりだからな」


 十年前からの物語、ルイノルドの言い分に文句をつけようがなかった。その間に何があったのかは詳しくは知らないもののニーアは押し黙るほかなかった。


「……親父達が来るころには終わらせてやるよ」


 ウィルは背もたれに寄りかかり横目でルイノルドに答えた。彼らには彼らの決着をきちんとつけてもらうのだ。途中で割り込んだウィルの物語にはそれ相応の役割があると踏まえ、承諾した。


「そういうことでしたら、私も電撃作戦を優先しようかと思います!」


 追随するようにはっきりと表明したのはティアだった。ウィル達は一瞬驚いたものの、何故かはすぐに察した。


「私もイストエイジアの国民ですし、たぶんディファルト様もヨネア姉様も前線に向かうはずです。今度こそ家族を守りたいのです」


 ティアの決意は固いようで皆の顔を一人一人見つめ、気持ちを伝える。


「そうだよな。わかったよってか別に止める権利なんかないしな」


 ウィルがそう伝えるとティアは一瞬だけ寂しそうな顔をしたが、すぐに頭を下げた。上げた時には晴れ晴れしい顔へと変わっていた。


「よし、いい機会だ。親父はああ言ったけど、それぞれ皆想いがあるだろうし、どっちを優先するかは任せるよ」


 他人任せというわけではないが、自分で納得した選択のほうが踏ん切りがつきやすいと判断した。


「あたしはさっきの通り、ウィルについてくよ」


 レインシエルは考えを変えることはなかった。メレネイアからの願いがなくても初めからそのつもりだった。


「私は、そうだな。ウィルについていこう。ガ―ライルはエヴィヒカイトの防衛につくだろう。私の決着はそこにある」


 ダーナスは口を堅く結んだ。ミュトスと決別した彼女にとってはガーライルとの因縁を断ち切る必要があった。ガーライルはミュトスとして国の防衛ではなくエヴィヒカイト防衛を優先することは想像しやすかった。

 そして、もう一人、オルキシェス、オルキスは皆の視線が注がれていることに気づき伏し目がちになる。


「わたしは……」


 彼女は考えあぐねていた。ティアが言ったイストエイジアの国民、とはオルキスも一緒だった。その言葉を聞いてから、祖父の顔や両親の顔が浮かび、街の人々が次々と浮かんだ。だとしたら自分も国のために戦うべきじゃないかと迷い始めていた。


「……オルティからの伝言だ」


 いつから持っていたのかルイノルドは手紙をオルキスに差し出した。それを受け取り震えそうな手を誤魔化しながら中を頭の中で読みあげる。上から下まで目を通した後、手紙を折りたたみ仕舞う。その手には既に震えはなかった。


「ううん、ウィルさん達と行きます。行かせてください!」


 頭を横に振って気持ちをそのまま口に出した。


「いいのか?」


 ウィルは意地悪と思いながらも聞かざるを得なかった。


「……はい!」


「ありがとう。正直オルキスが来てくれないとどうしようかと思ってた」


 ウィルは安堵の表情を浮かべる。正直なところ口には出さないが、後衛として必要だったし、何より一番人間らしい彼女の存在をそばに置いておきたかったという曖昧な理由もあったのだ。オルキスとしては自分の気持ちを優先させただけだが、それがウィルには不思議な安心感をもたらしていた。


「よろしくです!」


 オルキスは認められたことに素直に喜んだ。ウィルの思惑の真意はつかめなかったが、言葉通りに彼女は受け取った。


 父さんも母さんも前線に出るわ。私たちの物語のために。あなたは一人前の練成士。自分の行きたい道に行きなさい。これはあなただけの物語なのだから。


 手紙にはそう書かれていた。両親は自分で決めたのだ。ならば自分もそうしよう。守りたい人たちを守るために。




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