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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第6章 電撃作戦
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178話 スフィアリヒト

 一瞬の闇の後、すぐに瞼を光がつんざした。妙に残る浮遊感と相まって顔をしかめ、ウィルはしばらくして瞼を開いた。一瞬だったはずだが、妙に体に違和感を覚えたが、転移の影響だと判断した。荒野ではなく林の中に出たことから、ノグニスの場所からは遠く離れたのだと分かる。


「大丈夫か?」


 よろけたとところをダーナスに支えられる。結構体重をかけてしまったもののダーナスはよろけもしなかった。


「わるい」


 ウィルはダーナスの肩に手をかけると、なぜかダーナスは少しよろめいた。


「あ、す、すまない」


 心なしか顔が赤い気がするが、ウィルは傾いてきた西日のせいだろうと納得するようにした。無意識に向き合うことを恐れていた。それが何にとは不明だった。


 ほどなくしてルイノルドも最後に集合した。物言わぬルイノルドはいつも通りなのだが、それでも纏う雰囲気は覚悟を漂わせていた。そのおかげか、皆も緊張感はまだ保ったままだった。


「異常はないか」


 ルイノルドは珍しくウィルの調子を伺った。それはそれで不思議なのだが、親であることを考えると当たり前のことだった。ウィルは妙な違和感が残ったままだったが薄らいでいることもあり、とりあえずは頷いた。

 気づけばニーアは空を眺めたまま静止している。それを追うようにして視線を合わせる。何もない空間、いや、すぐにそれは変わった。空の景色が歪み、渦が生じる。光と闇が明滅するようにして姿を現した。


「なんです、あれ」


 ティアが漏らした一言には震えがあった。それは円であり、球体であり、そして半透明で空を透かしていた。朧のように光と闇が取り巻きうごめいている。


「あれが光と闇の楔、スフィアリヒト、みたい」


 ニーアが答える。他の楔達に聞いたのだろう。それが指すことはつまり、ノグニスが言った通りナルガ達が風を解放した、ということだ。


「ということは、急がないと!」


 オルキスが急いで荷物を抱える。既に次の楔が現出した以上、ナルガ達はそれの解放に急ぐはずだ。ウィルも頷き休むことはあきらめ、歩みを進める。


「そんなに急ぐことはないぞ、あれはエヴィヒカイトが起動していない今、認識不足だからな」


 一人、落ち着けと言うのはルイノルドだった。いや、彼の頭に乗ったプルルもしきりに頷いていた。スフィアリヒトはゆっくりとエヴィヒカイトの周囲を廻っていた。まるで降り立つ場所を探し求めるように。


「相変わらず説明不足なんだから。ルイネエンデの側に飛ばしてくれたみたいだから、取りあえず街に行こう。それで状況は分かるから」


 ニーアは呆れ顔をしながら、足を進めた。エヴィヒカイトの距離は近く、ニーアの言うとおりルイネエンデ側に転移したらしかった。ウィルも疲労感から聞きだすことも諦め、後ろについた。その隣をレインシエルが肩を並べる。ウィルを中心に仲間が歩き出す。その輪の外れからルイノルドは物言わず静かについて行くのだった。



ーーーー

 アストレムリ聖帝国首都ルイネエンデに到着。街は相変わらず騒がしく、あの日とあまり変わらなかった。戦時下であることは町中に張られた張り紙や、建物に下げられた巨大なポスターで戦意向上が図られていることだけは違った。町中のモニターも終始、聖帝グレイの演説が流れており、民衆はそれを囲み、打倒イストエイジア、打倒敵性国家、偽エファンジュリアに鉄槌を、と口々に叫んでいた。

 そんな中でその主たるウィル達は堂々と歩けないか、と言われるとそうではなく、妙な一団という認識しかもたれず、人々は普通に接していた。どうにも街中に増えた傭兵団と見られているらしかった。さすがにニーアとウィルはフードで顔を隠していたが。


「ま、こんなもんなんだよ、こいつらは戦争が起きているとは知っているが、それが身近にあるとは思っていない。ただのイベントに近い。今まで負けたことがないからな、なんかのイベントくらいしか思っていない」


 ルイノルドは出店で買った、パンを器用にかじっていた。確かにこの警戒度の薄さは敵国ながら心配になるほどだった。このルイネエンデに攻め込まれることはない。どこか遠い都市の話だというように、人々は活気づいている。そしてエヴィヒカイトに起きた異変も誰も気づいておらず、スフィアリヒトに焦点を合わせる人間は皆無だった。


「ほんとに誰も気づいてないの……?」


 レインシエルがエヴィヒカイトを周回する巨大な球体を恐れるように眺める。近づけば近づくほどに機空挺を軽く飲み込むほどの巨体さに驚愕していた。


「今後のこともある、どこかに隠れよう」


「どこかってサラのところしかないでしょう?」


 メレネイアが訝しげにルイノルドを見やった。


「……ああ、そうだったな」


 歯切れが悪い返事に、メレネイアは何か思うところがあったようだが、口にせずサラの宿へと向かった。


「大丈夫ぷる?」


 少し列から離れたところでプルルがルイノルドに話しかける。


「たぶんな……少し気が緩んでいた」


「今日はとにかく休むぷる。それの調整も必要ぷ」


「でもな……今切っちまうと」


 悩むルイノルドにプルルは頭の上で跳ねる。


「問答無用ぷ。このままじゃ君が先に壊れるぷ。それにもうメレネイアは気づき始めてるぷ。いい加減メルには話しておくほうがいいぷるよ。全部話さないにしても、きっと協力してくれるぷ」


「……わかった。今夜、話すよ。一発は覚悟しなきゃな」


「それは仕方ないぷ。しっかり受け止めるぷよ」


「お前もだぞ」


「ぷるっ!? それはいやぷ。やっぱりやめとこうぷ」


「あほか、もう決めた。覚悟しろい」


 宿に入るまでプルルは小刻みに震えていたが、ルイノルドは気にせず、ふらつきそうな足を気取られないようにしてサラに迎えられた。


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