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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第5章 蒼失、楔の慟哭、真実に哭け
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174話 脱鱗

 回避もできないことはない。だがそれは後方のニーアとオルキスへの壁をなくすことになる。それはできない。ウィルと同じことを皆考えていた。メレネイアとルイノルドはメレネイアの力場で防御できることだろう。

 だがウィル達には壁を作る手段がない。ましてやウィルは完全に丸腰で、それこそ自分が壁になることも頭に過ぎった。


「「伏せて!!」」


 それは守ろうとしていた後方からの合わさった声だった。暖かい水滴が通り雨のように頭を濡らす。それはただのこぼれ落ちた水で、それの本体は、凪払うようにして岩石の雨を粉々に粉砕していった。リヴァイアスの水刃であることはすぐに分かった。ただ威力があの小さな竜から吐き出されているとは到底思えないほどの広範囲、高威力で切り裂き、地に落とした。しかし、安心もつかの間、弾けた雨を切り裂く音が突き抜けてきていた。第二波だ。連続使用はできなかったのか水刃の切り返しはなく、変わりに聞き覚えのある射出音が後方から迎え出た。

 クマミーだ。だが、それはすぐに崩壊し粉々となる。黒い粒達が視界を覆う。不発かと最悪の事態が過ぎるが、そうではなかった。粉々になった残骸が速度を保ったまま、突き抜けてきた岩石に接触するとそれぞれが爆発し、次々と岩石を打ち落としていく。黒いカーテンが薄れる頃には岩石の飛来は収束し、その熱によって蒸発した水蒸気がねっとりとウィル達に張り付いた。

 それが危険を前にした汗とまざり気持ち悪さをかき立てるが、すぐに爽快な冷たさへと変えてくれた。リヴァイアスがもたらした雨、シャワーのおかげだ。頭上を大きな陰が通り抜ける。それは可愛らしい姿から脱した、本来のリヴァイアス。広がった空間であれば水神竜の姿に戻っても充分に立ち回れると踏んだのだろう。


『はあ、もう戻れないかと思ったわ』


 ウィル達の前の空中で制止したリヴァイアスはその尾の水滴を振るって落とす。どうやら本来の姿に戻るのに苦労したようだった。それが奇しくもベストタイミングとなったのだから悪くはない。


 ウィルは後ろを振り返る。並んだニーアとオルキスは腕を合わせるようにして親指を上げて、どうだと言わんばかりに胸を張っていた。


「やっぱいいもんだな……」


「そうだよ。一人じゃない」


 仲間という言葉が心強い絆という意味も含み、胸が暖かくなる。レインシエルも諭すようにウィルに告げた。もう一方を見ればダーナスが力強く頷き肯定する。メレネイアとルイノルドも無事のようだった。


「さて、仕切り直しと行きますか!」


「うん!」


「ああ!」


 仕切り直しという言葉はノグニスにとっても同意だった。鈍重な動きはそもそもなかったように身軽で、サイズが一回りも二回りも小さくはなったが、その分、速度が増していた。鱗を脱ぎ去ったノグニスは驚異をリヴァイアスを標的と捉え、リヴァイアスに飛びかかった。水刃を吐き出し接近をとどめようとするが効いていないようで直撃はしているはずだが、弾かれるようにして水刃は方向を変え壁に直撃する。


『やっぱり相性最悪』

 

 リヴァイアスは忌々しそうに文句を垂れるとそのまま組み付かれ、地に組み伏された。


『あら、リヴァイアス? その姿になってもムカつかせるって、ある種才能ですわね』


 今度は無機質な音ではなかった。逆撫でするような話し方はノグニスそのもので、眼前のリヴァイアスを愉快そうに見下ろしていた。


『そこは変わんないのね!』


 リヴァイアスが呆れと怒りを交え、押さえつけられている両羽を水へと変える。束縛を抜けて再び宙へ体勢を整える。


『あーら、だから相性悪いって自分で言ってたじゃない』


 抜けられたにも関わらずノグニスは余裕そのものだった。それが正しいと宙に浮かんだはずのリヴァイアスはバランスを崩し地に落ちた。大粒の水飛沫が弾ける。見ればリヴァイアスの両翼が再現できず付け根が乾ききったように固まっていた。水中や空中を泳ぐことに特化していたリヴァイアスには後ろ足がなく、腕、つまり前足だけで体を支えざるを得なくなり、尾がいらだちを募らせたように激しく地を打つ。背に連なる鰭が怒りからか赤く染まる。


『こんの……!』


 体を起こすやいなやノグニスの前足でリヴァイアスの頭が地に押しつけられる。助けに入ろうとするウィル達であったが、周囲を囲むように地面から突き出した棘の壁に阻まれる。


『おとなしく下がってるといいわ。この場においてはあなたという存在は邪魔でしかないのよ』


 その言い回しに、リヴァイアスは睨みつけた目を一瞬、戸惑ったかのように丸くした。


『あんた……、なるほど。あんたがそんな考えができるようになるなんてね。行動はまだまだ子どもだけど』


 棘に阻まれその会話は周囲には漏れなかった。ただ一人、つながっているニーアを除いては。


 棘の壁が崩れ去る。開けたウィル達の目線の先には輝く水の霧となってニーアに戻っていく瞬間だった。


「リヴァイアス!!」


 大きな戦力を失ってしまったが、それを嘆いたのは一瞬で、ウィルはすぐにノグニスへと剣を向ける。


「リヴァイアス……?」


 ニーアの内に戻っていくリヴァイアスにニーアは自らの意志で戻ったことを悟る。


『ごめんなさい、ニーア。聞いての通りよ』


「そう……なんだね」


 意図を察したニーアは唄を再び紡ぐ、それは召喚の唄ではなく、皆を強化する唄だ。


「ニーアさん! 他の竜は呼べないんですか!?」


 ティアが確かめるとニーアは首を横に振った。それに落胆する様子はなくむしろ戦う覚悟ができたのかその顔は凛々しく引き締まった。


「ふふ、人対竜ってのも物語には必要ですね。ディアヴァロの時は任せてしまいましたが、やりますよー?」


 その笑みは恐怖ではなく純粋に強敵を前に笑っていた。それに感化されたのか他の仲間も再度、気を引き締める。


「また、おいしいとこ持ってくなよ?」


「ティアの言うことに賛同することになるとは……」


「ちゃっちゃと終わらそう!」


「懐かしいですね。この高揚感も、ねえ、ルイノルド」


「ま……そうだな」


「では、クマミー再発射です!」


「言うことがないぷる!!」


 クマミーの爆発を合図にして二戦目が始まる。

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