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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
アストレムリにて
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16話 恐怖の花

レインシエルはその光景を眺めることしかできなかった。


「これは・・・」

いつの間にか後ろにメレネイアが来ていた。


「お母さん!」

母が現れた安堵からか、助けに行く決心が生まれ、

踏み出そうとする。


「助けに行ってはいけません。」

メレネイアに手で制される。

きっとメレネイアをにらむ。


「なんで!?あの数はさすがに持たないよ!」


「わかっていますが・・・その時まで邪魔はできません。」


邪魔になる。という言葉がレインシエルには良く理解できた。

再び前方に目を移すとその理由がよくわかる。


助けも要らないほど、兵士を薙いでいる。

皮肉にもレインシエルのマナがこめられた剣で切られ、大半が息絶えているようだ。

既に10人は殺している。


一度も振り返ることもなく、こちらを見ることもなく前に進んでいく。

その立ち回りの光景は美しさと恐怖を感じさせた。

「やはり・・・」

メレネイアは後悔をつのらせる。

違和感はあったのだ。

ただ、驚異的な成長に目を瞑ってしまった。


このままでは、

死ぬ。





順調だ。いける。

敵を倒し(・・・)前に進む。

兵士が途切れた。

一気に階段を駆け上る。

上りきった先にいた。


「ニーア!!」

その声に、ニーアは反応する。

が、その表情は冷めたままだった。


あと少し、

もうすぐ手が届く。


ウィルとニーアの間が遮られる。

瞬間で反応し、寸でのところで頭を後方によじる。

鼻先を剣先が掠める。


体をひねり剣の持主へ横蹴りを放つ。

手ごたえがない。

外したようだ。


まだ相手を認識できていない。

転がりながら距離をとり、すぐさま体制を立て直す。


「そこまでだぜ、ボーズ」

ドスの利いた声が向けられた。

両手剣を構えた筋肉隆々の男。

とっさに王の側にいた兵だと気づいた。


眼光が鋭く、その右目には縦に一筋傷跡が走っている。

どうみても強い。よく避けられたものだ。


「よく避けられた。とでも思っているのか?」

と、にやりと心底楽しそうに笑う。


「な・・・」

額から液体が伝わる。

鼻横を通り、ぽたりと白い床に赤い花が咲く。


袖で額をぬぐう。

あたってはいなかったはずだが、剣速で生まれた風が刃になったのかと

推測した。


「聖王直属『ユーフェリアン・ガード』のライアン・L(リヒト)・ヴァルキスだ。

さあ、こいよ」


相手から動く様子はないようだ。

ウィルはためらうことなく突っ込む。


「いいねえ!」

横なぎの一閃を両手剣で防がれる。

衝撃が右手に返ってくる。

右手を離しそのまま振りぬく、剣が落下を始める。

左手で受け止め一度距離をとり、再度攻撃を仕掛ける。


右手がしびれがまだ取れない。

足技と左手の剣で攻撃を続ける。


うかつに踏み込むとライアンの剣が体を狙う。

まともに受けると体が持たないことはさっきの剣戟で把握した。

受け流すか避けることを第一に考える。


「わざわざぎりぎりで避けてんのか。怖いもの知らずってところかね」


余裕の口ぶりでウィルを批評する。


ウィルは無視を決め込む。

ただただ休みなく攻撃を続ける。


だが、その剣は届かない。

そう時間も内にライアンはまた話し始める。


「お前どうして俺の目を見ない?」

ウィルの動きが一瞬だけ止まる。

その隙に攻撃が来るかと思ったが、来なかった。


「・・・はあ、通りでえらい直線的な動きをすると。そういうことか・・・」


ライアンは攻撃を裁きながらも話すことをやめない。


「何がおかしいんだよ」

たまらず距離をとって話を聞く。

少し息を整える必要もあった。


「なあに、俺の目を見て攻めてこいよ」


「そんな必要はない!」


理由はわからないが、焦ってしまった。

たまらず踏み込み、再度攻撃を仕掛ける。


「おい、こっちを見やがれ!!!」


その怒声に思わず顔を上げる。

「!!」


ウィルは完全に動きを止めてしまった。


「受けろよ」

ライアンの剣が胸元へ迫る。

その声のおかげでどうにか剣を構えた。

だが、剣を伝い胸元に巨大なハンマーで叩きつけられるような衝撃をまともに受けた。


視界が線となり、景色が後ろに飛んでいく。

階段の手前まで吹き飛ばされた。

背中の障害物のおかげで何とか踏みとどまる。


「がはっ・・・」

息ができない。

肺がごっそり持ってかれたかのかと錯覚するほどだった。


まずい、立てない。

早く早く早く。


その思いはむなしく体には反映されない。


「ようやくこっちを見たな」

ライアンは先ほどまでの笑みは消えうせ、怒りに眉間にしわがよっている。


「・・・なんで」


「息はもう回復してるだろ?もう立てるはずなんだよ」

ライアンは、舌打ちをする。


「その手の震えはなんだ?足は?」


そういわれて初めて、手足が震えていることにウィルは気づいた。

剣の衝撃・・・と思おうとしたが、そうではないと無意識が叫んでいた。



「・・・恐怖だよ」


その言葉にびくりと体を震わせた。


「まあある意味恐ろしいっちゃ恐ろしいわ。

自分の命が消える恐怖も相手の命を奪う恐怖から目を背けてここまで来たんだからな」


「相手の命・・・?」



「・・・後ろを見てみな」


ライアンはあきれ果て剣は構えていなかった。


後ろを恐る恐る振り返る。

その階段から眼下にはおびただしい数の死体が横たわっていた。


どうして、死んで。。。

誰が。。。


ふと背中の感触に気づき目を向ける、

それは最後に切り倒した兵士だった。

兜がはずれそのほほには涙の後がくっきりと残っていた。


「お、俺が・・・俺が・・・殺した・・・」


そんなつもりはなかった。

ただ倒しただけ、邪魔だったから、


どうして俺はこんな簡単に人を切ったのか、

どうして目を見なかったのか、


命を奪うという行為を認めたくなかったからだ。


ふと兵士の横たわる手の側に落ちているものを見る。

最後の最後で取り出したのであろうそれは、

仲良く並ぶ、女性と少女だった。


「あ・・・」

おそらくそれは彼の家族だ。


その時、初めて殺した感触が脳裏によみがえった。


「お前がこいつらの命を奪った。一生を奪う覚悟のない奴が一人前に武器なんて持つんじゃねえ!」


「俺・・・おれ・・・俺は・・・・」


「興が削がれたぜ、楽しめると思ったのによ。

真剣勝負だからこそやってもやられても後悔はのこらねえ」


ライアンはウィルへ歩み始める。


ウィルの手から剣は落ちマナ切れか、ナイフへと戻った。


両膝をついたままのウィルはぼやけた焦点でライアンを見つめていた。


「俺は・・・」




もう戦えない。

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