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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第5章 蒼失、楔の慟哭、真実に哭け
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155話 第三階層 洞

 洞窟の中は意外にも明るく照らされていた。そこは地素の楔である塔と納得するほど鉱石が埋まっていた。オルキスは錬成素材のため、ティアは宝石素材のためと目的の違う二人はそれぞれ鉱石を掘り出しては、オルキスの空間拡張された鞄に放り込んでいった。


「高強度と伝導率の高さを誇る金剛石に炎熱加工用のフレム鉱石、やや、重力制御に使えるグデラ鉱石、鉱物がこんなにも」


「サファイア原石、ルビー原石、おっとスターイシューの原石! 宝石の原石がこんなにも……!」


 繰り返すが、二人の目的は別である。ただ手段は一緒で、魔物のゴーレムが現れ、それを倒すと彼らのコアとなっていた魔石が、かなりレアな鉱石や原石だと気づけば、下層への入り口探しなどそっちのけで、わざわざ魔石を壊さずに徹底的に破壊して回っていた。どれだけそうしていただろうか、気づけばゴーレム達は二人を見つけると、一目散に逃げていくのだった。これではどっちが魔物かわからないが、そのおかげで道中は快適でもあったので、止めることはなかった。そもそも止まることなどなさそうだった。

 狩り尽くしたわけではないが、周囲にゴーレムの気配がなくなると、満足げにオルキスは鞄を叩くのであった。


「うーん。もうちょっと種類がほしかったですが、欲はいけませんね」


「確かに、種類がね。まあ欲張りすぎるのもね」


 繰り返すが、二人の目的は別である。ほどなくして広い空間に出た。奥にはやめておけばいいのにゴーレムが奥の出口を遮ろうと集団で溜まっていた。満足していたはずのオルキスとティアはまた目を輝かせ始めた。

 何個投げたかわからない爆弾を錬成しては投げつけ、ゴーレムは爆散していく。転がった鉱石をティアが戦闘そっちのけで回収していく。ウィルは一方的な虐殺に嫌気が差していたが、未だどこうとしないゴーレム達だったので、それを止めることはできなかった。


「ウィル、二人もきっと疲れたんだよ。だから許してあげよう?」


 レインシエルがウィルに並んで、謎のフォローを入れる。その瞳は諦めで満たされ遠巻きで眺めているだけだった。ニーアといえば鼻歌を歌う始末で、ダーナスは本当はそこに入りたかったがプライドが邪魔したようで、たまに飛んでくる小さな鉱石をポケットに詰めているのをウィルはあえて見なかった。一方ルイノルドは腕組みをやめて剣の柄に手をかけていた。


「ウィル、そろそろ準備しろ」


 ルイノルドの態度は冷静そのもので、遊びは終わりと一気に決着をつけるつもりのようだった。洞窟の入り口で怒りを表に出したとは思えないほど静かな口調だった。だが、その蒼の瞳はゆらりと静かな怒りの炎があり、どちらかというとストレス発散を早くしたい気持ちを察する。


「確かに時間かけてもしゃあねえわな。俺らも行くぞ。ん……?」


 ウィルとルイノルドが剣を抜く、互いの世界に入り込んでいたニーアとオルキスもようやく戦闘へと心構えを作る。レインシエルも双剣を両手に構え、突撃の姿勢を見せるが、どうにもゴーレム達の様子がおかしい。

鉱石採取に没頭しているティアと爆弾錬成にいそしむオルキスはそれに気づくことはない。ティアが採取に追いつかず放置されたかつての仲間の残骸をゴーレム達は拾っては彼らの中心に運び入れていた。その彼らの表情には焦りと決意が見られ、四肢をもがれてもなお仲間に自分ごと差しだし運ばれていく。


「なにやってんだ? あいつら」


 ウィルは踏み出しかけた足をそのままに訝しげに観察する。オルキスならばぴんとくるかもしれないが、現在、彼女は爆弾錬成機になっている。そうなると頼りになるのはルイノルドだった。


「どうやらストレス発散どころじゃなくなりそうだ」


 やがて目をつむっても取れるほどまだまだあるはずの鉱石がティアの手に収まらなくなると、不思議そうな顔をして地面から顔を上げた。材料がなくなったのかオルキスも錬成をやめて爆弾の小山は隆起をやめた。


「こんな壁ありましたっけ?」


 ティアが目の前にできた洞窟の壁とは色が幾分明るい壁に手を触れる。それはまるで今まで屠ってきたゴーレムの体と同じにも思え、ティアの体に一転して恐怖が迫る。のろのろと後ずさりしていく。壁が落とした影はコマ送りの如く形を整えていく。ティアがようやくてっぺんを見上げられるほどに下がれば、オルキスと二人並んだ。


「ねえ、オルキス、あれはなんですか?」


「えーっと、知ってるけど、まずは……逃げよう!」


 オルキスの合図で壁に背を向けウィル達に向かう。だが、その影はオルキス達を覆ったままで、同時にズシン、ズシンと地響きが洞窟を揺らしていた。一向に影が消えないことにオルキスは振り向く。その瞬間、後悔と懺悔で満たされた。


「グランドゴーレムですううううう! ごめんなさああああい!!」


 オルキスが何を見たのか、その表情で察したティアは振り向くことはせず、圧倒され口を開いたままのウィルに全速力で向かう。


「あ、裏切り者!!」


 正面を向けばティアが既に先に行っていることに気づき、オルキスは泣きながらその裏切りを叫んだ。


 怒りとどうしようもない一方的な虐殺に追いつめられたゴーレム達は防衛を命じられている場所から逃げることもできず、やがて一つの結論に達した。

 このままでは負ける。このままでは殺される。このままでは家族を失う。このままではいけない。ばらばらにされるのなら、一つになろう。そうすれば皆一緒だ。一緒にあの無慈悲な人間達から家族を奪い返そう。

 そうして彼らは互いに抱き合い、その上でまた抱き合い、コアを溶かしてつなぎ一つの魔物へと進化した。グランドゴーレム。本来は長年かかって接合し完成するはずの肉体はその淘汰圧によって急激な進化を促した。何倍何十倍にも膨れ上がった石の肉体。一歩踏み出せば大地を揺るがし、鈍く見える動きはその巨体さ故の錯覚。自らの指一本ほどの大きさになった人間達を高みから見下ろせば、恐怖など消えてなくなった。彼にあるのは家族を取り返す。それだけだった。


「おいおいおい! こっちくんな!」


 涙で顔がくしゃくしゃになりながらウィル達へ走り込んでくるティア達から離れるべく、ウィル、いや遠巻きで眺めていたレインシエル達も一斉に踵を返し、全速力で二人から逃れた。ルイノルドも例外ではない、むしろ一番背中を向けるのが早かった。


「ちょっと仲間ですよね!? この……待てやああああ!!」


 妙なスイッチが入るティアはウィルの背中を追いかける。


「ふっざけんな! お前らがやったことだろ! 諦めるなり戦うなりしやがれ! 土下座でもしてろ! 巻き込むんじゃねえ!」


 それぞれ散り散りに逃げるが、ティアがウィルを追いかけているためにグランドゴーレムはその後ろを追いかけていた。遅れを取っていたオルキスは気づかれることはなく、いつのまにかグランドゴーレムの背中を追いかけていた。グランドゴーレムとしてはティアの顔だけはしっかりと覚えていた。オルキスはその爆弾の晴れない土煙で姿が見えておらず、恍惚な表情をして家族を回収していたティアだけを敵として認識していた。


「あれ、なんで追いかけてるんだろう」


 オルキスはいつの間にか見えているグランドゴーレムの背中に小走りになり、やがて止まる。そして追いかけられているティアと巻き込まれたウィルを視界に入れる。


「ほっ……助かった。じゃない! なんとかしないと」


 一瞬でもほっとした自分が許せなかったが、置いていったティアの天罰、いや地罰に少しせいせいした。だがそうもいっておられずこのままでは二人ともつぶれてしまうのは目に見えていた。現に距離が縮まってきていた。見渡してみればニーアとダーナス、メレネイアは壁のくぼみに身を潜ませていた。唯一追いかけているのはレインシエルだけで、洞窟内をぐるぐる回るグランドゴーレム達に追いつかないと分かれば逆向きに走っていく。正面から迎えるようだった。


「よっ」


 オルキスの背後にルイノルドが息を切らした様子もなく現れた。


「ルイノルドさん……! どうしよう!」


「そうだなあ。まず様子見」


 ルイノルドはそういうとウィル達の正面で構えるレインシエルを見つめていた。その瞳が様子見意外の感情がこもっていることにオルキスは気づくはずがなかった。


「お母さん! 上げて!!」


 レインシエルは近くでニーア達とくぼみに隠れていたメレネイアに声を飛ばす。上げてという言葉を正しく理解したメレネイアはグローブにマナを送り込み、レインシエルとグランドゴーレムの間に飛び石のように力場を設置する。


「レイ! わりい!」


 正面に構えたレインシエルにウィルは気づき、声をかけるとその脇を通り過ぎる。少し遅れてティアも通るが、息も絶え絶えで声をかけることもできなかった。


「いいよ、今度はあたしが守るから!」


 気合いがこもったレインシエルの言葉にニーアは心臓を針でされるような感じを覚える。レインシエルはその力場を一つ、飛び乗り、そして二つ目に跳躍し着地すると、膝を曲げ力を込める。メレネイアは力場に圧力を感じるとタイミングを合わせレインシエルを上へと押し上げた。

 レインシエルは飛び立つ、上方向への力は増大し高い弧を描き、グランドゴーレムの頭へと宙返りを加え、最高到達点で、レインシエルは頭を下に足を上にする。そこで足下で更なる力場が出現し、蹴り出す。落下に勢いが加わり、その頭上の亀裂を見つけると着地と同時に双剣を突き立てた。


 

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