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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第5章 蒼失、楔の慟哭、真実に哭け
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142話 一柱フォルテ・リベリア

 心地よい。ウィルがその浮遊感に気づいたのは今か、それともずっと前からか判断すらつかなかった。それを認識できたのは暖かいと思えた今、この瞬間からだった。

 真っ暗闇だった視界が初めて濁るのを感じた。光の液体が注がれるように暗闇と混ざり合い、黒はやがて白へと変わっていく。それと共にウィルは見えなかっただけなのか、それともなかったのかは分からないが、手元の腕をみる。何も変わらない手だ。両手を顔の部分に当てて自分の存在を確かめる。


「俺……なんで……」


 ようやく思考が始まり、まず何故ここにいるのかという疑問が生じた。それを始まりにして、記憶が注がれ、時を形作っては溶け、その旅にウィルの心に浸透していった。


「俺はフォルテ……いや……」


 同居していた名前がどちらだったかを思いだそうとする。視界に過ぎ去る出会った人は皆、こちらに何かを告げるようだった。


「……ウィル兄」


 一人の髪の長い少女が碧い瞳を悲しげに向けて呟く。よく知っている顔だ、それどころかずっと昔からだ。

幼い彼女は今にも泣きそうにたたずんでいた。


「ニーア……、そうだ。俺は――――」


 ウィル。それを思い出した時、目の前の少女はウィルが思い出せる限りの最後の姿まで成長していた。時が早送りされ景色がウィルの人生をなぞっていく。上へ上へと引っ張られる感覚に抗うことはできない。


「宿主よ、いつでもこの力を貸そう」


 背中を支えるように少年がウィルへ話しかけ、彼は正面に立つ。ウィルに良く似ていたが、年は明らかに上で青年となったウィルを見ているようだった。


「元の姿は思い出せなくてな……だいぶ宿主であるウィルに寄ったようだ。悪気はない」


 なんとなくしかめっ面をする彼は、フォルテ。こういう時の表情の仕方がわからないようで、顔はしかめたままで肩をすくめた。


「……またな」


 言葉はいらなかった。言葉以上に同じ時を過ごしてきたいわば分身、彼が表に出ていた時の記憶もあるにはあった。思い出せない記憶もあり、ルイノルドととの旅は特に朧気だったが、今は特に気にすることはなかった。今はそれが良いのだろうと直感していた。

 ウィルの挨拶にぎこちない笑顔を浮かべ波間へと浮上していくウィルをフォルテは見守った。


「行ったか……」


 フォルテは波紋と共に消えたウィルを見届けると、背後に紋章が浮かび上がる。十二本の剣が互いに意志を誓うように交差した紋様にフォルテは向き合い、そして、その中を潜っていった。


 一歩、踏み出せば水音が奏でられ、波紋が広がった。視界は上下のない空で満たされ、静かな風がフォルテを迎えた。紋章が映る柱を背後に、柱に囲まれた円卓へと進む。既に座している者達が各々、フォルテを迎える。


「久しいな」


 懐かしい面々にフォルテは目を細める。再会を喜ぶことがあるとはフォルテはむずがゆい気持ちに整理がつかなかった。


「これは興味深いね。ウィル君の姿に影響されたままとは」


 眼鏡を光らせ、隣のユグドラウスは背をもたれ顔を上げてフォルテをまじまじと観察する。ウィルが成長した姿のような出で立ちだったが、ウィルにはない部分、フォルテもまた耳が尖っていた。


「まあ、いいんじゃない? 昔の人形みたいな血の通ってない姿よりは、こっちのほうが人らしいわ」


 向かいに座するリヴァイアスを冠するリズは値踏みするように観察した後、軽く笑った。


「随分な物言いだな、リズ」


 フォルテは釈然としないものの静かに椅子に腰を下ろし、もう一人の視線を感じ、顔を合わせる。


「一柱たる剣聖フォルテ・リベリア、我らの同士ゼフォルよ、よく戻った。それに随分人らしい表情をするようになったな」


 ディアヴァロであるヤトが微笑むと、フォルテもといゼフォルは、まだ口角が上がったままだと気づき、なんとなく真っ直ぐに戻した。


「ウィルには全ての記憶を継承しなかったようだな」


 ヤトも口角を戻し両肘を机につき手を組む。


「宿主の体自体は世界に認識されている。彼とも合意した結果だ。問題はない」


「のわりには納得いってない顔ね。表情のバリエーション少ないから分かり易いったら」


「む……」


 また顔に出ていたのかとフォルテは顔を触り整えるように抑える。


「冗談よ、図星みたいだけど」


「リズ……」


 はめられたと分かったフォルテは気持ち肩を落とした。得意げなリズとゼフォルのやりとりにユグドラウスは吹き出してしまう。横目でユグドラウスを睨むと、ごめんごめん、と軽く謝罪しただけだった。


「まあ良い。彼らが真実を知りその上で何を選択するのか。願わくばこれが最初で最後とならんことを」


 ヤトはそう締めると蒼空を眺めた、この先の道に果てのない未来が開くことを祈って。

 


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