表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第5章 蒼失、楔の慟哭、真実に哭け
140/197

140話 それは勝利か敗北か

 言葉自体は軽いものだったが、ルイノルドは肩で息をしておりむち打った体がついに膝をついた。もたれるようにしてニーアに体を預ける。


「ちょっと……重い……!」


 文句をいいながらニーアはルイノルドを支える。よほどの力を使い果たしたのかルイノルドの体重がのしかかってきていた。


「わりい……ちょっと休むわ……」


 ルイノルドはそういうと目を閉じる。仮面がニーアの顔の目の前で寝息をたてていた。その仮面にそろそろと手を伸ばし外そうと試みる、しかし、フォルテがニーアの代わりに担いだためにそれは叶わなかった。


「……とにかく行こう」


 若干、ばつの悪い顔を浮かべながらフォルテは降りてきていた小型船へと深く足跡を残していく。


「早く乗れ! 全軍撤退だ!!」


 既に乗り込んだジェイルが手を仰ぎ、皆を急かしていた。ニーアも浮き上がる考えを頭と共に振り切り、小型船へと足を早めた。




 アーク・エアルス

 前時代の名を戴いた古の大型飛行戦艦。その司令室にオルリとグレイ、サーヴェ、そして連れだった騎士が集まっていた。

 正面の巨大なモニターにはイストエイジアの戦艦から煙を上げる様子が投影されていて、軒並み撤退しているようで小さくなっていった。長い台形を形どった司令室の空間、その中央には床の台から浮き上がった球体が投影され、その前でオルリはグレイ達に背を向け直立していた。


『アークレイシステムに物理的異常発生、マナ収束失敗により拡散しました。至急メンテナンスが必要です。イージス壁の展開率20%に減少。推奨、エンジニアによる早急な修繕』


 感情のない無機質な女の声がどこからともなく響いた。古のシステムにも関わらず言語は今と変わらないようでグレイ達にもその意味は伝わった。


「さすがイレギュラーと言ったところですかね。今は時間を与えましょう。それで良いですか?」


 愉快そうな表情を浮かべオルリはグレイ達に振り返る。フードは外れ、皺が寄った顔に尖った耳が動き、興奮しているようにも見えた。


「……構わない」


 グレイは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ一言だけ言いはなった。それを分かってか大げさに頭を垂れる仕草でオルリは応える。


「心配なさらずともこれはあなた方がお使いになってください。自律統合管制支援システムによって操作はそう難しくないでしょう」


 オルリは横にずれ右手を開き、前方に半円状に位置したパネル群を景勝地でも案内するように視界を開ける。パネル群のそれぞれには席が用意され、通常の飛行戦艦のように船員が乗り込むようにはなっているようだった。サーヴェは小さく舌打ちをした。ここまで来るのにオルリの力を借りてしまったからだ。それはグレイも一緒でオルリに促された司令官の席には座らずに背もたれに手をかける。素材不明な革張りの背もたれは握った手で皺が寄る。


「何が目的だ?」


 オルリには目を向けず、モニター映像を見据える。


「目的など、元より聖帝国に仕えし身分ゆえその助けになればとの一心ですよ」


 年に似つかわしくないオルリの艶やかな銀髪が揺れる。同じく銀の瞳がその笑顔に細くなる。


「減らず口を……だが、今は感謝しよう」


「グレイ……」


 感謝という言葉を口にしたグレイに驚いたサーヴェは思わずグレイの肩に手を乗せた。グレイは顔だけをサーヴェに向け微笑する。


「問題ない。使えるものは使う。もちろん憂いのないようにな」


「……分かった」


 サーヴェはグレイの瞳が笑っていないと分かるとその手を離し隣に立った。その道を共に進もうと肩を並べる。決意するようにグレイは席へ体を預ける。


「……オルゲン騎士団本隊に合流する」


『本隊への合流命令を承認。同時に自動収集プログラムによりデータベースの更新開始。本時点を持ってアーク・エアルス艦長を個体識別名グレイ・ユーフェルに設定。ユーフェル総督でよろしいですか?』


 自律管制支援システムによる音声が響き、呼び方を確認してくる。


「……グレイでいい」


 名前部分で呼ぶようにグレイは訂正させた。オルリは意味深げに人知れず笑った。


『……グレイ総督で登録完了。自律統合管制支援システム【メイリア】、以後メイリアと呼称ください』


「……良いから行け」


 肘掛けに頬杖を付き、若干の苛立ちを含める。


『……了解』


 その間がなんだか残念そうにも思えるがグレイが気にすることはなかった。代わりにサーヴェが吹き出しそうになって堪えていた。

 船は大仰に振動することなく軽く体が押さえつけられる感覚だけが伝わり静かに、それでいて素早く高度を上げていった。

 気づけばオルリは既に姿を消しており、砲撃を続ける本隊に合流した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ