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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
アストレムリにて
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14話 聖殿

 うなだれるウィルに、レインシエルが代わりにナイフにマナを込める。これで、必要なときは使用できるはずだ。

 ウィルとレインシエルは参列者として長い列に参加している。列の向かう先はもちろんエヴィヒカイトである。

 アルフレドとメレネイアは別行動だ。彼らは内部のセキュリティ操作を担当する。それと発見された場合のリスク回避である。

 門にはアーティファクトを検知する機能が搭載されている。一般人が通る門は決まっており、アーティファクトは持ち込みできない。来賓などは別の門のようだが。

 アルフレドたちはそのあたりを操作し、一時的に検知をごまかす処理を行う。

 ますますアルフレドの商人という肩書きには疑問符が残るが、それでも過去を考えればそんなものなのかもしれない。


 エファンジュリアの護衛をして、その巡礼の中で一人の運命に縛られた少女がすべてを捨てて世界のために生きる、いや生かされる。

 そして、それを道具として扱うアストレムリは、大陸北東部のミリアン王国、南東部の小国イストエイジア王国ににらみを利かせる。結界とアーティファクト兵器の大量生産、それによる武力を背景に高圧的な外交がまかり通っている。

 それでも戦争は起きる、先代エファンジュリアの時ミリアン王国はアストレムリに戦争を仕掛けた。だが、その戦争は2週間で終結した。エファンジュリアの唄によって。

 マナを直接操作する彼女の唄は陸をえぐりそこには海水が流入する巨大な湾へと変貌した。大量の戦死者を一瞬にして出したミリアン側は降伏するほかなかった。その代償が領地の譲渡でありミリアンはさらに北東へと追いやられる結果となった。


 アルフレドたちはその力とエファンジュリア本人への反動を前に考えたのだ、彼女の解放を、その時彼らは反逆者となった。

 その決意の経過にどんな想いがあってエファンジュリアとの旅がどんなものだったかは知らないがそれだけエファンジュリアであった彼女本人への決意させるだけの経験、思い出があったのだろう。

 街の人間も先代について触れないのは彼らにとっては自らの生命を脅かす事件が起きたからなのだ。彼らから見ればテロリストと変わらない。

 そして、アルフレド達の仲間の蒼い瞳の男という仲間が一番エファンジュリアの現実に激昂していたことを聞いた。アルフレドもなぜか思い出せないようだったが。

 反逆者、それと同じことを行う。ウィルはそれでもニーアを助ける決意はできていた。

 それが世界の終焉を招いたとしても、それは本当にエファンジュリアを失うことによって起きることかは正直、ウィルにはわからない。ただ、どこか楽観視している部分を少なからず感じていた。


「まあ、そもそも反逆者になってたっけ」

 

 ウィルはミュトスとの一件を思い出し、つぶやいた。


「ねえ、そろそろだよ」


 考えにふけっていたらいつの間にか列が前進して、門、ゲートが目前に来ていた。

 物思いをやめ前方に集中する。ウィルたちのローブの下にはアーティファクトの武器が隠れている。


「大丈夫なんだろうな……」


「信じようよ。ほら、私たちは一般参拝の兄妹だよ!」


「お、おう」


 あくまで普通を演じなければならない。


「ねえ、お兄ちゃん! どんな人かな?」


「お、おう、きっとかわいくて美人で笑顔が素敵な子なんだろうなあ、でも頑固だろうな」


 ニーアを思い出しながらふとつぶやくと、レインシエルにひじ打ちされる。周囲の参拝客が何を勘違いしたのか微笑みながらその様子を眺めていた。


「いってえな、なんだよ」


「いや、心底、気持ち悪いと思って」

 

目を細め軽蔑した目でウィルを一瞥する。


「あ、そうですか」

 

 会えていないからだろうか、ニーアとの思い出があふれ口にでてしまったようだ。この兄弟というシチュエーションもそうだが、ニーアではない謎の違和感がウィルを襲っていた。

 程なくしてウィル達の番となった。ゲートの前に2人の兵士、先には一人の兵士が警護している。


 流れに沿ってゲートを越える。


「……」


 何も起こらない。


「ふう……」


 思わず溜息が漏れた。その刹那、ピーと甲高い音が響いた。


「おい、そこの二人!」

 

 しまった、と思い振り返る。が、そこにはウィルの後ろにいた別の二人組が兵士に止められていた。


「え? なになに、なんも持ってないって!」

 

 二人組は否定しているが、列からはずされ身体検査となるようだ。


「早く行こう?」


 レインシエルが袖を引っ張る。あわてて正面に向き直り列へ続いた。もう首を上げても痛くなるほど塔は目前にそびえたっていた。塔内に直接入るのではなく塔外周に巻かれた階段を上ってゆく。


「すいません、神託祭はどこで?」


 思わず前方の老夫婦に話しかける。夫は嫌がることなく応じてくれた。


「この先しばらく登れば神託の儀を行う聖殿と呼ばれる場所があるのだよ。若いのだから遅れずにな。彼女さんを気遣ってやりな?」


「いや、そんな関係じゃないし!」

 

 ウィルとレインシエルは仲良く叫ぶ。その様子を見て優しく微笑む老夫婦は登っていく。階段の途中で列が塔内部へと曲がる。ウィルもそこに差し掛かるとその光景に目を見開く。外からは見えなかったが、階段側の壁が大きく開いており、外が見渡せる。中は広く、大きな長方形の広間に人々が集まっている。

両壁に沿うように柱が何本も天井を支えており、天井には手前からエヴィヒカイトそのものだろうか塔をあらわす絵が奥へと続いている。

 また、広間の奥には中央に装飾が施された階段、その先は腰ほどの柵のある舞台のようにせりあがっており、奥には巨大な扉が見える。おそらくあそこから登場するのだろう。扉もそうだが壁の装飾は白銀の細工が張り巡らされ壁が発光しているのか淡く輝き目を奪われる。

 扉も基本は同じだがその頂点にはエヴィヒカイトの紋章であろう、十字印と中心に円形の印が組み合わさっており、円には両斜めから帯状の線がかかっている。どういう仕掛けか帯には光の粒が流れ循環している。

 二階席にはその態度や容姿から位の高い人物達が扉の向きで席に座っていた。階段の始まりを境に兵士が一列に並んで、行儀良く微動たりともしない。見とれている場合じゃなかったが、妙に心臓が、胸が熱く騒いでいた。


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