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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第5章 蒼失、楔の慟哭、真実に哭け
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137話 剣翼

 互いににらみ合い一歩を互いに踏みあぐねていた。


「どけ。お前等じゃ話になんねえよ」


 その声に騎士は背後の道をあける。その間を割ってサーヴェは相対する。


「お前がルイノルド、蒼の災厄か……こんな時にいう言葉じゃないが、楽しめそうだ」


 新たな強敵を前にしてサーヴェは舌なめずりする。


「お前、ライアンみたいなこと言うのな」


 サーヴェは眉を上げて反応する。


「へえ、知ってんのか? マッチョと比べられるのは心外だが」


「あいつは強かったぞ」


 ルイノルドの言葉にサーヴェは場を気にせず大笑いする。一頻り笑い切ったのか目尻に涙を浮かばせ剣を構える。


「サーヴェ、本当にそいつがルイノルドなら確実だ」


 サーヴェの横にグレイが並ぶ、戦うつもりなのか長剣を構えていた。


「お、珍しいな。久しぶりに連携と行くか」


「ああ、八つ当たりもかねてな」


 サーヴェは右手に剣を構え、グレイは左手に剣を構える。二人の中心に一本の剣ができあがる。ルイノルドはそれを見て一歩下がる。


「お前達は下をやれ」


 グレイは待機する騎士に命令し、騎士達は他の敵と相対する。


「さあ、遊びはなしだ! 存分にやり合おうぜ!!」


 一対の剣が風を切りルイノルドに迫った。


「ヨネア、腕治せるか」


 フォルテは戦陣を下がり、仲間に戦いを任せヨネアにかろうじて繋がったような腕を見せる。


「は、はい。これくらいなら余裕です」


 ヨネアとウィルの顔と声で呼ばれ、いささか戸惑ったものの直ぐに本来の役割を思いだしミディを取り出す。


「治癒術式エクスキュア」


 ミディが宙を舞いマナを取り込みフォルテの腕に光を纏わせていく。千切れていた骨が肉が繋がっていく。次第に腕に感覚が戻り、鈍い痛みも次第に緩和していった。


「……感謝する」


「でも、神経の再結合で直ぐにはってもう!!」


 ヨネアが元通りに動かせるのは時間がかかると忠告する前に、フォルテは右手に剣を持ち替え一振りすると頷く。


「多少痺れるが問題ない」


 それだけ伝えるとフォルテは戦線に復帰した。


「待った!」


 途中でニーアに呼び止められる。


「すまないが、まだ宿主は――――」


「違う! 唄うよ!」


 ニーアは一瞬、つらそうな顔をしたが、ウィルのことではないと唄を紡ぐ。大気中のマナが唄に呼応しニーアを通してフォルテへと繋がる。


「……すまない」


 剣は蒼を纏い仲間の元へと急いだ。歌いながらその後ろ姿を見守る。それは知っているはずの背中で知らない背中だった。


「ありがとうって言いなさいよ」


 ニーアは皆の為に唄を紡ぐ。一応の再会を繋ぐために。


「こいつらつええぞ!」


 ジェイルは連携のとれた騎士の動きに翻弄されていた。入れ替わり立ち替わり位置を入れ替えて隊列を変える騎士に決定的な一撃を与えるのは困難だった。一対一ならば勝利できただろうが、互いにフォローする動きに攻め倦ねていた。


「死ぬつもりで死なないように!」


 そう声を張る騎士達はその言葉通りに全力で立ち向かってきていた。死ぬ覚悟はあるが死なない覚悟を両立させ、そのバランスは連携で保たれていた。


「ウィル! じゃなかった、フォルテ! 色々言わなきゃいけないから無理しないでよ!」


 レインシエルがフォルテと背中合わせになり声をかける。正面で向き合うことはできず背中越しで会話する。


「承知している!」


 フォルテの筋肉はサーヴェとの戦いで限界に達してきており、右腕の違和感も重なり思うような動きは叶わなかった。それでも仲間達のフォローが入り、戦いを通して連携ができあがってきていた。


「足を止める……」


 進まない戦況を離れた位置で把握していたオルキスは杖にマナを込め、床に突き立てる。地面にめり込まず跳ね上がった杖は倒れることはなく宙で静止した。


「吸熱には冷たき微笑……」


 オルキスは荷物からそれを抜き出す。凍り付いたバラのような植物を杖の上部に展開された術式が回転する半透明の球体に投げ入れる。


「そして、反応を爆発的に起こす触媒、バースティア」


 更に真っ白な粉を取り出し、一緒に取り出した水入りの瓶に振り入れ投げ込む。球体に入ると中の液体だけ抜き取られガラス瓶が抜け飛びオルキスの手に戻る。


「後は適当に範囲調整用にと」


 更に液体のガラス瓶を流し込み球体はゆったりと回転する。


「さあ、後は一気に錬成!」


 マナをそそぎ込むと沸騰するかのように気泡が内部で発生し球体は渦を生む。


「成分抽出……氷素をメインに」


 やがて迸った光は収束していき一つの形を成した。球体を解除しオルキスはそれを手に取る。


「できた! おいしそう……だけどこれは食べ物じゃありません!」


 町で食べた氷菓子のイメージのせいかそれは見た目はおいしそうだった。下部は冷たくない網目状の生地、それに包まれ螺旋上に乗せられたような上部は甘い香り漂う氷の固まりでなんのアクセントかそのてっぺんにはクマさんの顔が乗っていた。


「皆、どいて!!」


「よし、ってもう投げてんじゃねえか!」


 既に上空に放たれたクマ印が舞うのを仰ぎ見てジェイルは地面をぶったたき土煙を上げ下がる。


「なんだ?」


 騎士達は土煙に視界が奪われその隙間から飛んでくる場違いなクマが乗った氷菓子に目を奪われる。それは予想外な異物だったため目を惹いてしまった。


「名付けて、爆散! クマアイス!」


 その命名にフォルテさえも力が抜けそうになったが、床に接地すると足下が急激に寒くなる。


「まずい、退け!」


 騎士がそれが敵の道具だと気づき、号令を出した時には既に遅かった。不気味な笑顔を浮かべるクマが爆散すると冷気が騎士達に吹き付けてくる。


「なっ動かん……っておわあああああ」


 騎士達の足下には氷が析出し足まわりを氷結させていく。無論氷で動くことは叶わずそれどころか足下を登ってくる氷に恐怖へと叫びが変わった。


「あれ……強すぎた?」


 本人も予想していなかったのか足下だけのつもりが腰辺りで氷は止まった。身じろぎする上半身に下半身はついてこず騎士は砂漠の暑さとの差で余計に震える。


「で、続ける?」


 レインシエルが隊長と見られる指示を飛ばしていた騎士の眉間に剣を突きつける。己の負けを察しより目がちになった視線を剣とともに床に落とした。


「剣を持たない者に剣を向けるなってね」


 騎士達の戦意が失せた所で追い打ちをかけるほど非情ではなかった。そして未だ剣をぶつける音が響く壇上へと視線を移した。



「二人がかりで一太刀も通らねえってか、規格外過ぎんだろ」


「だがそれは奴とて同じ!」


 言葉通りに血は一滴も流れず、剣を振る度、受け止める度に上がる飛沫は汗だった。位置を入れ替え追撃を許さない様は騎士達の連携よりも強い。さながら双剣使いを相手にしているようだった。


「そうも言ってらんないだろ?」

 

 ルイノルドは一瞬だけ眼下へと視線をずらす。それが何を意味しているかは二人にも分かっていた。下での戦いの音が立ち消えていたこと、それを視認するまでもなく騎士達が負けたのだと直感した。


「さすがにまずいか……」


 グレイとサーヴェは一旦、距離を取る。ルイノルドはそれを追撃せずその場で止まっていた。


「詰めてこないということは限界か目的を果たしたか……」


 それは後者だった。騎士達を降伏させたフォルテ、ニーア達が合流しそれぞれ武器を構える。


「流石に引くしかねえぞ、グレイ」


 あまりの戦力差からサーヴェは苦笑する。笑いが抑えられないほど不利な状況だった。


「くそ……あれを目の前にして」


 グレイはニーア達をにらみつける。だが、無茶をするほど無謀な王ではなかった。脚に力を込める。サーヴェと目を合わせると互いに頷く。


「最後に派手にやるか」


「ああ……」


「まだやる気ってか」


 ルイノルド達は抜けかけた気持ちを押し上げ迎え撃つ。


「ルイノルド……お前は下がれ。あやつらには毛頭勝つ気はなさそうだ」


 恐らく逃走する時間を捻出するための一撃だ。その間に撤退と行ったところで騎士達が氷から抜け出す時間すら稼ぐ算段だろうと踏んだ。案の定、一時的な氷の凍結は崩れ始めており、騎士達は抜け出ようともがいていた。


「ああ……さすがに頼むわ、フォルテ」


 ルイノルドは一歩下がる。皆の後ろに隠れたその脚は震え初めており、平静を装うので精一杯だった。それを唯一、目で追っていたニーアも共に下がった。


「敵ながら見上げた者だ」


 フォルテは関心した様子で先頭に出る。初撃を受け止められるのは自分だけということと、受けてみたいという気持ちがそうさせていた。


 グレイとサーヴェのつま先に体重が乗る。それを合図にフォルテは息を止めた。それは反射的だった。視界から消えたことを認識する前に感覚的に構えた剣に一対の振り下ろした剣が衝突した。


「……!!」


 声すら出ず、剣もろとも押しつぶされる体、肺すらも収縮し息が強制的に吐き出される。余計な思考をカットし目の前の二人に集中する。加速度的に引き延ばされる知覚、それを持ってしても同時に動く二人を感覚的に追うことしかできなかった。


 押し返した瞬間、急にのしかかっていた重さがなくなる。反撃する前に二人の体がぶれて消えた。直前の足運びから両側へと移動したと判断し、剣を右に、籠手を左に構えてマナを込め、来るであろう衝撃に一瞬で備えた。

 

「左腕くらいもらうぞ」


 グレイは左腕を分断しようと切り上げる。マナによる防御術式が展開仕切る前に剣が到達する。グレイは取ったと確信した。だが、その手に伝わる手応えは肉を切り裂く感覚ではなく、持っていないはずの剣が衝突する衝撃だった。


「なに!」


 予想もしていなかった衝撃に手が痺れる。フォルテの左手に剣は持たれていない。それも籠手が受け止めた訳ではなく、左手に沿うように出現した短剣とは言わないまでも刀身の短い蒼い剣だった。思わずグレイの手が止まる。フォルテの視線はまっすぐ向いたままで右にも左にも向いていなかった。


「奥の手は敵より最後に出すものだ」


 フォルテは左腕を引き、宙に浮いた蒼剣掴み、グレイの剣をはじき返す。


「グレイ!」


 グレイの体勢が崩れたことからサーヴェの注意が逸れる。それを逃すはずもなく右手首を緩め剣を倒していく、サーヴェの剣はフォルテの剣沿わされていく。サーヴェが前にもつれた所で手首を返し逆手に持ち替え、空いた横腹を狙う。

 サーヴェは自ら負けを悟った。死にたくはなかったが綺麗に負けるのも存外嫌ではないと思った。


「サーヴェ!!」


 グレイは体勢が戻らずその行く末から目を離さないことしかできなかった。フォルテは剣を振り抜く。

だが、鎧へ刃が当たる感覚が合ったもののサーヴェが倒れることはなかった。ましてや血が飛ぶこともなく、変わりに待ったのは蒼を失った金属片だった。フォルテは右手を確認し返ってこない手応えに立ち尽くした。切り裂くはずだった刀身は半分先がなくなり、空気を裂いただけだった。

 その状態をサーヴェは察し剣を持ち直す。呆然と立ち尽くす今のフォルテなら子どもでも殺すのは容易い。しかし、サーヴェの向かう先はグレイの元だった。





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