134話 突入
砂が舞う中、両者はにらみ合っていた。
「敵両翼の後退を確認。城前面の旗艦と見られる戦艦を中心に円形を成しています」
別モニターでは部隊を現したコマの絵が映し出され、赤く色づいた敵船団が円形に布陣していた。
「方円の陣か。やはり仕掛けては来ないようだ。まずこちらの主砲を敵中央に放て」
長であるジェイルの姿は未だ見えないが、コンラッドは気にせず命令を下す。マナを利用したエネルギー砲を放ち様子見を計るつもりだが、相手のダメージによっては突破も難しいことも想定していた。
「充填完了しています!」
「よし、交戦開始……撃て!」
武装システムの担当員がパネルを操作し、最後に力強くその一撃のボタンを押した。
蒼穹の前面下部が開き巨大な砲身が姿を現す。光の粒子が収束し何重にも術式が展開されると術式の中心を突き抜けるように砲口から光線が射出された。耳をつんざく雷撃のような音は船外はおろか船内にも轟いた。
光線は衝撃波を作り敵船団中央に直撃、いや、その瞬間に敵前面に巨大な術式が出現し盾のようにその光線を受け止め、そして、拡散した光線を多少逸らした。
炸裂した爆発に遅れてくる衝撃音が少なからず着弾したことは予想できた。
「敵船の被弾を確認。一隻だけです! 敵の陣形が変わります!」
アストレムリ軍の防御術式により拡散し逸らされた光線は貫通することはなく、前方の一隻だけを落とすにとどまった。
「……あれを防ぐ術式とは、やはり一筋縄では行かないようだ。両翼を前進、鶴翼の陣へ移行しろ。弾幕を張れ! 引きずり出すぞ! 連絡があるまで砲撃を緩めるな!」
「各船団に通達。両翼は前方に布陣し砲撃継続」
空で始まった砲撃の応酬に砂漠の地上では、余計に砂が舞い煙りも相まって地上を隠していた。
「始まったぞ! 見とれてんじゃねえぞ!」
地上すれすれを這うように高速で飛び抜けていたのは小型船だった。
操縦桿を握るジェイルはニーアを初めとする仲間達を乗せ、速度を更に上げる。
「ねえ、なんか剥がれてってるんだけど!?」
レインシエルが窓から見える翼の一部が弾け飛んであっと言う間に骨組みになっていく状況に身が震えた。
「気にしたら終わりだ! どうせ片道切符だからな……見えた! メル、着地は任せたぞ!」
船の状態を気にしている時間などなかった。遠かった城は既に眼前に迫っていた。
「まさかこんな使い方をするなんて……」
メルは両手のグローブにマナを込める。めきめきと音が鳴ると天井が空の彼方へと飛んでいった。
容赦なく空気の固まりと砂粒が皆の体を打ち付ける。
「手間が省けたな! 飛べ!!」
ジェイルの合図で一斉に空に飛んだ。一瞬の浮遊感の後、メレネイアによる力場が発生し、全員をひとまとめに確保した後、透明なそりで滑るように砂山を勢いよく降りていく。
「ベルト外してねええええ!」
その叫びは勢いを弱め始めたメレネイア達ではなく、一人操縦桿を握ったままのジェイルのものだった。
船に乗ったままのジェイルの姿は既に遠く、メレネイアの力場の範囲外だった。
「あの馬鹿!」
メレネイアは届かないとその行方を見守るしかなかった。
城壁の影に消えた後、衝撃音と共に煙が立ち上った。
「ごめん、さっそくイリアさんとの約束破ってしまった」
大して心配していないのかニーアは手を合わせ、国にいるイリアに謝った。
「まあ悪運だけは強い男です。多分大丈夫でしょう」
メレネイアも同じで苦笑いを浮かべるだけだった。
「どうして皆、そんな冷静なのだ? 仮にもお前達の王だぞ」
ダーナスが砂を払いながら自分との温度差に驚いていた。さすがにヨネアは回復用のミディの瓶を片手に持って直ぐに墜落現場へと砂に足を取られながら走っていった。
「どうやらヨネアだけはまともなようだ。私達も続くぞ!」
ダーナスも続き、後ろを追いかけていく。
「ああ、姉様はもっと別の理由で……」
ティアはつぶやきながらダーナスに続いていく。
「王様のツケ精算してから死んでくださーい!」
先頭を走るヨネアから聞こえてきた理由にダーナスはずっこけ顔面から砂に突っ込んだ。
「置いていきますよ!」
ティアがダーナスを抜き、遅れた面々もダーナスを置いてため息まじりにジェイルの元へ駆けていった。
「ぷるる!!」
プルルはダーナスを足蹴に転がっていった。
「このパーティーはなんなんだ……」
顔を上げ意気消沈しているダーナスに答える者は誰もいなかった。張り付いた砂を落とすことも諦め後ろを追いかけていく。