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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第5章 蒼失、楔の慟哭、真実に哭け
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133話 蒼穹船団

 ようやく司令室へと腰を落ち着けたジェイルは涙の後を拭きながら状況報告を待った。


「陛下、どうしました」

 隣に控える副司令コンラッドは袖で拭う様子を訝しげに眺めた。目つきは鋭く口をきつく結んだジェイルよりも相当年上の男。細身でありながらも漂う雰囲気は油断ならず、その声をかけている間もモニターへの注意を逸らしていなかった。


「いや、望郷のなんたらってやつ」


「なるほど」


 コンラッドの返事は平坦で思うところなどなさそうだった。


「各員、報告!」


 案の定、コンラッドは姿勢を正し手を後ろ手に回して船員に命令を飛ばす。

 その瞬間、その場の雰囲気が引き締まった。


「システムに異常なし。推進エネルギー安定。各種センサー異常なし」


「規定高度に到達。水平軌道に移行しました。ポイントαまで大気マナによる変換を続けます」


「蒼穹二番から二十番、リンクアップ完了」


 それぞれの担当が報告を重ねる。


「よし、定期連絡を怠るな」


 コンラッドは頷き、足を広げ休めの姿勢を取る。


「じゃあ、取りあえずここは任せた」


 ジェイルが腰を上げ司令室を後にしようとする。


「どちらへ?」


「散歩だよ散歩」


 ジェイルは手をひらひらとしながら司令室を出て行った。


「なるほど」


 やはりその反応は平坦なものでコンラッドは直ぐに視線を正面に戻した。




――――


 しばらくの時間を置き、スルハ砂漠に駐留するアストレムリ軍、騎士団の冠を戴く旗艦【オルゲン】、モニターを注視していた船員はアラートの感知を受け報告する。


「船団の接近を感知。計画通りに各船団展開しろ」


 その司令室にはグレイとサーヴェは不在だった。

 モニターには降りたった軍人が守りを固め、誰一人として城への侵入を許さないと守りを固めていた。



 城の中は薄暗く、所々に開いた穴から差し込む光と流れ落ちる砂が溜まっていた。服についた砂を払いグレイとサーヴェは薄暗がりに目を慣らす。


「報告します。イストエイジア軍と見られる船団の接近を確認しました」


 兵が持っていた端末を確認し報告した。

 

「予定より早いな。変わりはないが。ご苦労、先遣の騎士団に続くぞ。恐らくこの先は通信が届かない。後は予定通りに動け」


「はっ!」


 グレイとサーヴェは先に奥へと入っていった先遣隊の後を急ぐでもなく歩いていった。


「蒼の小僧はいないみてえだが」


 道中、サーヴェが周りに気を払いながら突入前に捉えた画像の少年を思い出していた。そのせいもあってか剣の柄を握り、離すことはない。


「私達の計画を止めに来たのか、はたまた、目的は同じか。どちらにしても相対するのは目に見えている。その時はわかっているな」


「ああ、緋眼の坊主みたいにはいかねえよ」


 先遣隊の騎士が甲冑を鳴らしながら前方から走ってきた。敬礼もグレイに止められ報告を先にと告げる。


「玉座後部にて地下へと続く道とその先に扉を発見しました。形状からして目標物と見られます」


「分かった。周りを固めておけ蒼の外套を羽織った奴との交戦に備えろ」


 兵は返事をした後、奥へと戻っていった。

 グレイの手には汗が滲み、その瞬間を待ち望み、無意識の内に足を早めていた。


「子どもだねえ」


 その背中を眺めながらサーヴェは一言呟くがそれも聞こえていないのかどんどんと先に進んでいった。


 玉座は王を失い、変わりに上に開いた窓が割れ、そこから流れた砂が薄く積もっていた。一条の光に照らされた玉座は寂しげに光を讃えるべき存在を待ち続けていた。


「王を失った玉座とは物悲しいな。その一端は我ら、いやミュトスか……」


 玉座の背についた赤黒い染みに触れ、その後ろへ視線を移す。


「猊下、こちらです」


 待っていた騎士の一人が先を案内する。

 そこは乱暴に明けられた地下への階段を伸びており、騎士は光石の柔らかな光を道しるべに下へと潜っていく。

 

「蒼眼は?」


「いえ、確認できておりません。玉座には兵を配置しております」


 サーヴェはその回答に少し残念そうだった。

 階段を降りきると玉座の間がもう一つあったかのような大きな空間に出た。

 紋章を刻んだ柱に支えられ、その奥には微かに発光する巨大な扉が数人の騎士の前に沈黙していた。


「これが……」


 グレイは懐から古ぼけた手記を取り出しページを捲る。その手は目的のページで止まり、それと扉を見比べて目的の物と確信して、喜ぶ姿はただの少年のように無邪気だった。


「サーヴェ! 正解だ!」


「はしゃいじゃってまあ。良かったな」


 サーヴェは思わず笑ってしまい、扉へと近づく。だが、その喜びとは裏腹に柄を握る手にはさらに力がこもっていた。


「古の技術に頼るのは勺だが、これで戦争は変わる」


「ああ、そうだな。その前に……おい。お前」


 扉に手を触れようとしていた騎士の一人をサーヴェは呼び止める。騎士は手を止め、兜のまま振り向く。


「失礼しました。あまりにも綺麗だったもので」


 騎士は手を引っ込め、扉から距離を離そうとする。騎士が少し名残惜しそうに扉に目を向けた瞬間だった。


「そいつはご苦労なことで!!」


 サーヴェの動きは余りにも早かった。目に留まらぬ速さで剣を抜き放ち、騎士を切りつける。

 グレイでさえその行動に疑問を持つ前に、その騎士の死を直感した。しかし、騎士は後手になりながらも剣の間合いから遠ざかるように仰け反り、その衝撃は兜を直撃した。


「ちっ、合わせられたか」


 想像していた手応えではなくサーヴェは悪態をつく。騎士の兜は一拍置いたあと砕け割れ、素顔を晒した。


「避けたと思ったけどなあ」


 間の抜けた声が漏れる。割れた兜が床で跳ねる。

 朧気な扉の光に照らされたのは宝石のように美しい蒼の瞳だった。

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