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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第5章 蒼失、楔の慟哭、真実に哭け
131/197

131話 影を追って

 盗人という言葉と突然、入ってきたジェイルに一同は反応に困った。眉間にしわを寄せ、さも犯人探しでもしている探偵のように手を顎に当て悩んでいる素振りを見せる。


「……盗人がいる!」


 反応が悪いと感じたのかもう一度、仕切り直す。


「いや、さっきも聞いた」


 冷めた反応をニーアは返す。他の皆も同様だった。少なからず王であると認めている者は誰もいなかった。


「なんだよ。驚けよ」


「あんたが言うとわざとらしくて驚けない。で、なにが?」


 呆れて顔を振るニーア’は、仕方なしにジェイルにつき合うことにした。


「よく聞いてくれた。ふと思い出してな。たぶんニーア用だと思ってメルと同じ外套を渡そうと、大事に大事に俺のベッドの下に置いていたのだ。ほら」


 ベッドの下にという言葉に不快感が出たニーアだったが投げられたそれを反射的に受け取ってしまった。汚い物でも触るように端を持つ。


「私の?」


「ああ、以前、ザラクのおっちゃんが抱えてきたんだよ。俺たちとお前の分とウィルの分な」


 ジェイルはオルキスに目配せするとオルキスは聞いていなかったのか首を傾げる。ザラクが忘れていたのか聞かされていないようだ。


「はあ……。で盗人って、これのこと? あるじゃん」


「それはな。問題はウィルの分だ。朝、見てみたら一着なくなっていた。あろうことか俺の自室だぞ?」


「盗人かただ陛下がずぼらなのかは確証はないですが、王の自室に無断で立ち入ることはおろか痕跡を残さずに侵入するなどあり得ません」


 イリアは既に報告を受けていたようで、ひとしきりの調査は行っていた。それは万が一暗殺者やら害を及ぼす者の犯行である可能性もあったからだ。ただそれでも被害といえばその一着だけで他に不審なところはなかったのだった。


「断じて俺がどっかにやったことはない。何故なら存在すら忘れていたからな!」


 何故か自信たっぷりに胸を張るジェイルをイリアは反応すらしなかった。


「で、盗まれた外套が今、ウィル兄が着ているやつって言いたいの?」


「多分な。よく勝手に忍び込んで人のベッドでいびきかいていたルイの奴の犯行と断定した。その証拠に―――ー」

 ジェイルは内ポケットから折り畳まれた紙をつまみ出した。


「陛下? 聞いてませんよそれは」


 イリアの眼鏡が光る。ジェイルは慌てた様子で弁解の言葉を述べる。


「さっき気づいたんだって。仕方ねえだろ!」


 大きなため息の後、イリアは紙をふんだくり無駄に小さくおられた紙に苛つきながらも綺麗に広げることができた。それをニーアがのぞき込む。


「貰ってくぜ。警備見直したらどうだ? それとさすがに目の前ですやすや寝たまんまなのはないわ。じゃあな。だって」


「つまり容疑者ルイノルドは不徳にも俺が夢の中にいる時に犯行に及んだようだな」


「待って、端っこにまだある」


 それはジェイルも気づいていなかったのか、一緒になってのぞき込む。


「ああ? 追記、昼寝長いぞ……おっとお?」


 イリアの持つ紙の中心に亀裂が入る。両手に力が入り紙に皺が織り込まれていく。


「陛下、ここ最近は多忙のためあまり付き添うこともできず、陛下の負担軽減のため私とヘクトリーセ様で代行している仕事もありましたが、よもやそれを良いことに昼寝してました? そんなお暇な時間がおありでしたか? そうですか」


「ご愁傷様」


 ニーアは哀れみの言葉をジェイルに込め、その場を離れていった。


「イリアさん。違うんです。あまりにも多忙でつい意識が飛んでいたのです。言うなれば不可抗力。何卒、慈悲を」


 立場が逆転し、泣きそうな顔でイリアの顔をそっとのぞき込み、ジェイルは瞬時に真顔になり、ゆっくりとイリアに向き合う。


「すみません。さぼってました」


「皆さん、私はこれからヘクトリーセ様を交えて今後の陛下、いえ、陛下じゃなくなるかもしれませんが、運営について話をしてきますので。決定と見て出発は急ですが明日早朝で問題ありませんか?」


「うん。皆もいい?」


 ニーアは皆に振り返り是非を確認する。皆、首を縦に振った。


「ありがとうございます。それでは解散とします。ほら陛下、ヘクトリーセ様のところに行きますよ」


「リーチェ……! それだけはいやだああああああ」


 老人のように老け込んだジェイルはイリアに首根っこを捕まれ、どこにそんな力があるのかジェイルを引きずっていった。

 翌日、どんな顔で合流するかは想像も容易く。一同はあのイリアよりヘクトリーセが一番怖いということを胸に刻み、気をつけようと誓った。


 

 






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