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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第5章 蒼失、楔の慟哭、真実に哭け
125/197

125話 輪

 ミディの完成を待っているその頃。

 ジェイル国王以下、自由解放戦争関係者はエイジア城大会議室のテーブルに座り一同に介していた。


 続く戦勝ではあったが、面々の顔には嬉しさなど皆無であった。


「不気味の一言だ。もちろん順調であるということは喜ぶべきなのだろうが」


 ミリアン方面への警戒を解かれたため召集されたヴェローナ領主ディファルドは重々しく口を開いた。

 険しい表情が一層険しくなりこの場でなければ誰もが反応を返すことを躊躇っただろう。


「幸いにも我々も共通認識できていることに安堵しています。この状況が一番伝わらないのは前線であることが問題です。現に解放された各国民は沸き立つのは良いですが、兵までその余韻を味わってしまっているのです」


 エイジア軍及びリーベメタリカ全軍統括指揮者、アルフレドは表情に起伏を出さず問題点を報告する。


「アルフレド・(フルスト)・イスラ郷、いいですかな」

 

 つい先日解放宣言がなされた元アストレムリ植民地、ファンツベルグ代行代表、ゲイツ・フランツが進言を申し出る。

 他出席者に比べ若い見た目の彼がこの場に出席している彼は急遽独立を果たしたファンツベルグ国の人員不足が理由の一つで平民ながらも解放の戦闘に立った彼の功績からリーベメタリカへの代表として招かれていた。

 そして、既にファンツベルグ国の王家の血筋は絶たれていたことも理由の一つだった。今後の政治主導に関してはリーベメタリカの調整の元、暫定的にイストエイジアとミリアンよる政府によって統治されるが、状況が整えばその手を放れることになっていた。


 もちろんリーベメタリカ内においては平民の彼がこの場に出席していることに異を唱えるものなどいない。

 それほど結束力は高く、解放における意志は固かった。


「フランツ代行、もちろん良いですがアルフレドで結構です。あまり家の名前は好きになれませんので」


 ゲイツを見るアルフレドの表情は一転して柔らかく映り、少し固くなっていたゲイツの肩は強張りを緩めた。


「失礼しました。ではアルフレド郷。郷の仰る通り我が故国では解放に沸き立っております。ならびに大陸二位のミリアン国のリーベメタリカへの参加は大きな前進であると捉えます。そして、その立役者が蒼の再来、もとい、蒼眼の反逆者、ウィルと、エファンジュリアのニーアと言う兄妹達だと噂になっております。それは事実でしょうか? それが事実ならば前線に向け彼を表に出してはいかがでしょうか? 我々の言葉よりも彼の言葉ならば士気もまとまりを見せるかと」


 会議室は色めきたつ。

「蒼眼の?」


「ああ、やはりミリアンの急な方針転換は彼によるもののようだ。内乱の混乱を正したのは蒼眼の」


「しかし、まだ20にも満たない少年だと聞いたぞ」


「だからこそ良いのでは? 若き英雄によって兵は士気を増し一つの塊となる。いつの時代も英雄は必要だろう」


「イストエイジアは彼らの救出にアストレムリへ出兵したほどの深い関係にあるのだ。筋は通るだろう」


 アルフレドとジェイルは騒ぎを暫く静観していた。

 二人の考えは一致していた。

 目だけで二人は考えを確認しあった。


 戦勝に油断している今こそ、更なる前進に目を向けなければならないのも事実だった。

 そのための広告塔、ウィルとニーアが前線に、表立って先頭に立てば兵達は次なる解放へとまとまるだろう。

 しかし、それは諸刃の剣だ。二人へ希望が集まれば他力本願につながる。

 そして、今この状況ではそれも叶わないのだ。ウィルの消息不明は二人しか知らず。

 更にこの状況でエファンジュリアのニーアをリーベメタリカの前に出すわけにもいかなかった。

 彼女はウィルがいたからこそ戦いに参加していたことはよく分かっていた。

 仲間である立場とリーベメタリカ側の立場としては正反対だった。


 そして消息不明ということを二人がこの場で言ってしまえばどうなるかは分かる。

 何故という疑問が猜疑心を生み、イストエイジアが後のアストレムリになるだけではという考えが生まれ、この結束はいとも簡単に解けてしまうだろうからだ。


「さて……」


 どうまとめようか言葉を選んでいると、一人の青年が机を叩き立ち上がった。

 唐突に静けさが訪れ、その青年へ視線は注がれる。


「待ってくれ!」


 そう叫んだのはミリアン国代表のフィドル・リード・ミリアンだった。

 新国王の任を受け、リーベメタリカ構想への代表として急遽、参加していたフィドルは顔を赤く染め、同じく赤くなった右手をゆっくりと腰の後ろによける。

 固く握られた拳を後ろに控えていた補佐役のウォルトだけが心情と覚悟を理解していた。


「フィドル殿、いかがしたかな」


 アルフレドはすかさずフィドルへ発言を求めた。

 そして心の中で感謝と謝罪を思った。

 フィドルはアルフレドと少し視線をかわした後、大きく息を吐いた。


「参加して日の浅い新参者であるが聞いていただきたい。結論から言う、申すと話題に上がっている蒼眼の反逆者、ウィルなる者ですが……行方知らずとなっている」


 フィドルは言葉を選んだ結果、行方知らずと伝えた。

 今度はどよめきが生まれた。


「ど、どういうことですか」


 ゲイツは自らの発言による盛り上がりに水をかけられたことに焦った。


「ウィルは我が国のために立ち上がり、俺たちとの共闘の際に真紅のエファンジュリア、セラとの戦いに置いて行方知らずとなった。責任が俺たちにあるとしてもらって構わない。少なくともあいつの力は借りることはできない」


 静寂が場を包む。

 イストエイジアに向かうはずだった矛先は当然のようにミリアンへ向けられる。


「それは真実か? 内乱に乗じて匿っているなどあるまいな。まさかとは思うが次なるアストレムリにろうと意図したのではないか?」


 他の代表の言葉に一斉に周りは乗っかり糾弾を始める。


「それはない! 信じるのは土台無理かも知らないがあいつとは友人だ! そのような考えなどない!」


 フィドルは言葉を選ぶのをやめ訴えるが、そこは年端もいかない若者だという認識が許さなかった。


「嘘をつくな! ミリアンがアストレムリに寝返った事実もあるだろう! まだつながりがあるのではないか!? 王が変わったのも建前だろう!」


 その言葉にフィドルはこめかみに血管が浮き出し怒りが爆発しそうになるが握りしめた拳から垂れる血で怒りを逃がし耐える。

 その集中した視線の外れでジェイルの側に秘書官イリアが寄り耳打ちする。

 

「わかった。連れてきてくれ」


 イリアにそう告げるとイリアは扉を開ける。

 長髪が歩く度に毛先が軽く揺れる。

 ジェイルの側を通り過ぎる際に、少女は小声でつぶやく。


「お礼はしてよ」


「すまんな」


 そのやりとりは怒号にかき消され聞こえることはなかった。

 その様子にようやく気づいた各代表は入り口へ視線を向け、登場した人物に目を見開き、怒号はなりを潜めた。

 中には誰かもわからない者もいたであろうが彼女の纏う静かで重い雰囲気に圧倒され言葉を失った。

 前に立つアルフレドを一瞥し横に立ち皆に体を向ける。

 アルフレドは一歩横にずれ中心を譲った。


「彼の話は事実です。私の兄、ウィルは行方不明です。ここにはエファンジュリアであるニーア、私しかおりません。彼が消える瞬間もこの目で見ています。罵倒するなら私にしてください。彼に責任を求めるのはお門違いです。兄が決死の覚悟で勝ち取った勝利を……ああ、めんどくさい! つまりあんた達の醜い争いで不意にするな! 恩知らず! この頭でっかち!」


「でっかち……?」


 清廉な様子からは想像できず、見た目との差異にあっけに取られる。

 

「いい!? ウィル兄も私もあんた達の道具じゃない! 助けられた恩はあるけどそれはあんた達じゃない。ただ助けたいと思った人がいたから困っている人がいたからそうしているだけ! 結果的に手助けしていることになっているけどリーベメタリカ? それに属しているからじゃない! 私たちの意志でやっていることよ。しょうもない喧嘩しているあんた達にウィル兄は絶対に力を貸さないし貸させない! 言いたい事はそれだけ! ウィル兄が帰ってくる前に少しは考えたら!? フィドルも畏まってないであの時みたいに前に出なさいよ!」


 急遽、振られたフィドルは間をおいた後、自分に向けた言葉だと気づく。


「お、おう!?」


 結局、大した返事はできず、戸惑った後、不意に笑ってしまった。


「なに!?」


 鬼の形相とまではいかなかったがニーアの表情は少女とは思えないほど表情に感情が溢れ、選ばない言葉が素直に浸透していった。


「はは、そうだよな。やることは変わんねえよな。俺はミリアン国代表として王と掛け合い、今後のアストレムリへの進軍に対し前面に立つ。それによる功績の見返りは求めないし解放地に対してのこちらからの政治干渉の権利一切を放棄することを約束する。これで溜飲を下げていただけないだろうか。ウィル達に救ってもらった恩義は国民全体で感じている。それに報う努力を惜しまないと誓う」


 フィドルは机に頭がつくほどに腰を曲げる。

 ウォルトも同じく並び深々と頭を下げる。


 仮にも王子である身分の者がひたすらに頭を下げる態度に面々は、面食らい誰も異を唱える者は出なかった。


「はい。後は任せた。じゃあね。こんなことしてる場合じゃないのに」


 ニーアは清々しい顔で颯爽と部屋を出ていった。

 ジェイルはニーアが出て行った後、憚らず大笑いした。


「くく、ああ、だめだおもろいなあいつ」


 大笑いするリーベメタリカ代表に皆、あっけに取られる。


「そんなわけだ。俺達はここで分裂してるほど余裕じゃない。ミリアン国の提案に意義はあるか?」


 ジェイルは立ち上がり、一人一人目を配る。


「なんだか気が抜けちゃいましたね。そうですよ。こんなことでもめている場合じゃない。失礼しました。王子」


 ゲイツは姿勢を正しフィドルに頭を下げ、非礼を詫びた。

 若者が頭を下げたことで周りの大人達もプライド故かそれ以上、文句を言うことはなかった。

 それどころか、王子の態度に感心さえ覚え全員が考えを改め直した。上記故、堂々と頭を下げることはなかったが。


「では、ミリアン国との合議には私も同行しましょう。軍に関しては良いですが政治的な調整に関してはこちらからの要請に関してはご協力いただきたいですしね。気持ちが勝るのは若者の特権で見習うところもありますが」


 アルフレドは微笑むと頭を上げたフィドルは立場上、約束は確実にできないことに気づき、アルフレドの助けにまた頭を下げた。


「では、リーベメタリカとしての今後の方針と我々ができる方策をまとめましょう」


 それは、ウィル達の力に頼るのではなく当事者達の責任を果たそうとする意味が込められていた。


 


 



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