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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第5章 蒼失、楔の慟哭、真実に哭け
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124話 ミディエラー

 エリクサー錬成は3日間に及び行われた。

 それは失敗が許されないということを現している。

 一発勝負の錬成には準備が必要で、先に別の高度な錬成から行い感覚を掴む必要があった。


 それらを全て行うのはオルキスの仕事だった。

 オルティは監督に徹し、キャスは錬成台の調整を都度行った。

 オルキスがオルティに頼むことはなかった。

 

 夜中、オルティは錬成台の前に立つ。

 皆寝静まり、オルキスの部屋にニーアとダーナスが一緒に寝ているのを微笑ましく見守った後だった。


「さて……と」


 オルティは小さな鞄から材料を取り出していく。

 見た目の容量を軽く越える内容物がアトリエに溢れかえる。


 そして立てかけられたオルキスの杖を手に取り、台座へと据え置く。

 

「寝ないのかい?」


 キャスが様子を見に来ていた。

 顔だけを向け、オルティは微笑む。


「まあね」


 台座にマナをそそぎ込む。

 オルキスのそれより大きいマナのさざ波が展開する。

 緩衝材としての水はなく、杖が宙に浮く。


「くっ……」


 脂汗が止まらず、キャスが布で額の汗を拭った。


「僕を助けたからかい」


「……」


 オルティは否定しなかった。

 ただ鉱石を次々と浮かべていく。


「記憶かい?」


 ぴくりとオルティの肩が震える。

 図星だった。


「謝ったら許さないから」


 そう言うと光の膜から延びた光の糸が杖と材料をつないでいく。


「それは分かってる、感謝しているよ。ただ聞かせてくれないか? 失ったものを」


「……大したことない、マナの一部と経験の記憶を持ってかれただけ。体は覚えているからすぐに戻せるから」


「そうか」


 オルティの表情を伺うことはできなかった。

 邪魔をするわけにもいかずずっと後ろ姿をキャスは見守っていた。

 

「前みたいに長時間戦うのは無理だから少しでもあの子の助けにならないとね」


 夜は更けていく。

 朝日が顔を出そうとするまで光が消えることはなかった。




ーー


 目が眩むほどの光がようやく収束し、オルキスは両手で包んだそれをゆっくりと開く。


「でき……た」


 完成したことは直感でわかる。

 安堵した瞬間、オルキスの視界がぐらつき倒れ込むところでオルティに支えられた。


「お疲れ様。完璧よ。正しくはエリクシル結晶だけど、後はミディエラーによって溶液化すればエリクサーの完成ね。ルイの時は意識があったからそのまま使わせたけど、今思うとよく馴染んだもんね」


「今それ言う!?」


 ニーアはともすればルイノルドが死亡した可能性にあんぐりと口を開く。


「へへ、きれい」


 手のひらに乗るほどの石は七色に輝きを反射する。


「この純度なら余りがでると思うからその魔砲の対策にもまわせそうね」


「確かに、あの魔砲そのものをどうにかしないと解決にはならないな」


 ダーナスは情景を思い出し苦々しく唇を噛んだ。

 アドルを治療できたとしても別の者が食らっては同じことでまたユグドラシルに行けるのかも、突破できるのかも不明な状態でその兵器そのものを無力化しなくてはならなかった。


「その辺は考えなきゃね。オルキス、終わったらすぐ考えるからね!」


「うん!」


 オルキスはオルティの言葉に力強く返事をする。

 その目には再び火が灯り力を漲らせアドルの元へと急ぎ向かった。


 

ーーエイジア城医務室


「ヨネアさん! お願いします!」


 勢いのままにヨネアにエリクシル結晶をオルキスは差し出す。


「患者さんの前ではーーこれが? 綺麗……」


 ヨネアは受け取ると陽に当てて色を変える輝きに見惚れる。


「姉様、宝石じゃないんだからさ」


 ティアが見とれているヨネアに珍しくまともな意見を言うとヨネアははっとして照れ笑いを浮かべた。


「失礼。ではさっそく溶液化しますね」


 ヨネアは早々に銀の光沢を放つ箱を取り出し、片面についた箱を閉じさせている二つの留め金を指で弾きあげる。


 開かれた箱には銀色の円形の物体があり、頂点にある小さな取っ手を引っ張りあげるとカチ、カチと何かがはまる音が続き、円形の物体はその背を伸ばして行き、腰ほどの高さまで上がったところで、ガシュッと射出音が最後に聞こえると円柱の上部部分が更に広がり、中心が弧を描き口を開いた。


「なにそれ……?」


 ニーアは見たことのない装置をまじまじと眺める。


「ああ、これですか? ミディエラーの必需品、転換機ですよ。この中心に結晶を入れた溶液の瓶を指し入れてっと」


 手のひら台のずんぐりとした瓶に気泡を沸き立たせる液体を入れ、躊躇なくエリクシル結晶を入れる。

 そのまま、口を開いた箇所に入れ込む。

 形こそ違うが錬成台座と仕組みは似ていた。


 口が閉じると円の周囲に中心よりも小さい穴が数えて12個開いた。

 

「それで転換先にこれっと。量産は薄くなるのが怖いので一つにしましょう」


 淀みなく準備を進めるヨネアの慣れた手つきに皆、見守ることしかできなかった。

 ヨネアは小さめの瓶を一つ差し込んだ。


「後は展開用術式をインプットして開始ですね」


 円柱に手を翳しマナをそそぎ込む。

 光線となったマナが円柱を伝い、上部の円に術式が浮かび上がっていく。


「転換」


 ヨネアの一言の後、上部の広がった円柱が回転し始める。


「とまあ、後は完成まで待つのみです。どうしました?」


 皆の反応が何もないことに不安が少し過ぎる。


「いや、何がなんだか」


 オルキスは回転する円柱をただ見つめていた。


「さっすがミディエラーね。錬成士とは似て非なるものなのよ。だから錬成士にはできないってわけ」


 オルティだけは感心した様子だった。

 

「わたし達錬成士にはできないって?」


 オルキスは残念そうにしながらその意味の解説を求める。

 ヨネアは少し誇らしげに胸を張る。


「オルキスさん達錬成士は自らのマナを素材に注ぎ調整しています。そして、錬成されたアーティファクトはは持ち主のマナによる制御、もしくは大気中のマナへの内から外への干渉が主たるものです」


「……例えばわたしの爆弾ですか?」

 オルキスはまだ残っていた爆弾を取り出しヨネアに見せる。

 その熊印からは想像できない爆弾という言葉にヨネアは無理矢理自分を納得させぎこちなく頷いた。


「そ、そうその爆弾? 爆弾で例えましょうか。もちろん格納されたマナだけで爆発するものはありますが、威力などを高めるためには周囲のマナに働きかけ術式に組み込む方式もあります。周囲のマナを爆発力に利用すると当然、威力は高くなりますよね。それに対してミディエラーは大気中のマナの力を借りる必要があります。内から外へ干渉する錬成士に対してミディエラーは外から内に干渉するんです。どちらも中には逆転している物もあるようですが基本は内から外が錬成士、外から内がミディエラーだと思ってください。その仲介を果たすのがこの転換機から溶液転換させた通称ミディと呼ばれる液体です。装置とミディの瓶自体はアーティファクトですけどね」


 そういうとヨネアは別の瓶を取り出した。中には薄緑色の液体が揺れていた。

 黒竜ディアヴァロとの一戦で用いた物と同一だった。


「ミディの種類によって効力が違うってことですか?」

 ニーアにはよく理解できなかったものの黙って聞いていたオルキスは理解できていたらしく口を開いた。

 よく聞いてくれたと言わんばかりに嬉しそうにヨネアは頷く。 


「そうです。これはエクスキュリアという高位術式を組み込んだミディですが、この溶液はあくまで外傷治療に特化しているもので、アドルさんのように体内のマナが乱されているような特殊なケースには不向きです、そこでーー」


「エリクシル結晶ってわけね」


 ここぞというタイミングでニーアは繋げた。

 効力があるのがエリクシル結晶というキーワードが頭にあっただけだったのだが。


「ニーア。大丈夫。私もわかりませんから!」


 ティアが仲間と親指を起ててウィルに向ける。


「それはあんまり嬉しくないなあ」


 アホなティアにフォローされたところで感があり、ニーアはため息を止められなかった。

 そのニーアの落胆は届かず、ティアは喜々として続きを待っていた。


 ミディの完成まで暫く時間がかかるようで、その間、他愛もない話を繰り広げていた。

 無意識の内にウィルの話題は遠ざけていた。

 話題に上がらなかったのはヨネアも状況を把握していた。

 彼女からその話を持ち出すこともなかった。


 

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