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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第4章 蒼の煌き彼方にて、慟哭と共に
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121話 帰還

 船は急ぎイストエイジア王都エイジアの王城側の発着場に降り立った。

 船籍はミリアンではあったものの、リーベメタリカ構想の一つである交流規制の緩和によって確認さえ取れれば王都まで直接向かうことが可能になった。

 ただそれでも王城への出入りは特別な権限が必要だった。


 発着場は大がかりな工事が始まっているようで、シートに覆われたドックや外壁の補強が続いていた。

 現に空に顔を出していた発着場には天井ができ、必要な出入りの際にだけ開閉する仕組みが完成していた。

 同時に広範囲に認識阻害が働いているようで閉まった瞬間、外からはただの城の一部に見え、安易に特定できないようになっていた。

 重要な飛空艇の拠点であるために防空面では必要なことだ。

 船を降り立つと息巻く整備士が何故か頼んでもいない解説をしていた。


 ニーアは説明を聞き流しながら、ウィルがいたらもっと話を聞いていたんだろうと思った。

 その背中も今は見えず、ただ心に空洞ができたような感じがして、吹き抜けていく風が妙に痛く感じた。


「よう」


 発着場の出口で壁にもたれて一行を待っていた人物がけだるそうに手を挙げる。


「ジェイル? 久しぶり」


 どこかやつれたような姿に目を疑ったが、ニーアもだいたいの雰囲気からジェイルへ挨拶を返した。

 もたれていた背中を壁から離し、神妙な面持ちでニーア達を見つめていた。

目線は動きオルキスの後ろに立つキャスとオルティを見つけると口は出さなかったが少しだけ笑みを浮かべた。

 最後はメレネイアと目を合わせ小さく頷いた。


「……案外大丈夫そうだな。報告はケインからだいたい聞いた。まずはご苦労だった。それにミリアンまでも取り込んだことは予想外にして大きな成果だ」


 どうにも台本くさい話し方に一同はそれぞれしかめっ面を浮かべる。

 ジェイルはその反応を察してか頬をぽりぽり書きながら、次の言葉を選ぶ。


「それとウィルのことだが――」


「どこにいるかわかったの!?」


 ウィルという単語だけでニーアはジェイルの前へと近づいた。

 何かつかんだのかと期待で声に力が戻る。

 しかし、ジェイルがゆっくりと首を振ると、ニーアは前のめりだった重心をかかとに戻し腕を組んだ。


「そっか……」


「いや、わりいな。期待させちまって。ただ調査には人員を割いているからしばらくすれば情報が入るはずだ。それまで待ってくれや」


 ジェイルはいつもの調子で軽い態度で接していた。

 そのおかげか余計に落ち込むこともなく、その報告を待つという目先の希望に少しだけ支えられた。


 その時、発着場と城を結ぶ扉が開き、ジェイルの背後からイリアが現れる。


「王、遅いから迎えに来たんですが、あら、皆さんそろっているようですね」


「久しぶり、まあ増えて減ってだけどね。はは」


 ニーアは笑顔で場を取り繕う。

 それに対しダーナスがイリアへと進み出る。


「兄は無事なのか!?」


 目的の一つ、アドルの治療をダーナスは個人的な意味も含めて最優先だった。

 ウィルがいないことは大きいがそれをむしろ覆い隠すようにイリアへと問いかけた。

 あまりの食い気味でイリアは一歩仰け反るが、咳払いを一つするとすぐに平静を取り戻した。


「ヨネアさんのおかげで現状維持といったところのようです。治療の目途はついたんですか」


「はい!」


 今度はオルキスが進み出て力強く返事をした。

 アドル治療の要であるとの自覚故だった。


「わかりました。とにかく容態確認後、お任せします」


 ダーナス、オルキス、ニーア、ティアはそのままイリアに付き後ろを追って行った。

 もちろんニーアの背中にはだらんとぶら下がったプルルも随行した。


「なんだありゃ」

 ジェイルの疑問に答えるものは皆無だった。

 疲れかもう慣れたことだからかは不明だ。


「さて一応アドバイザーは必要かしらね」


 オルティはそう言うとキャスを連れてゆっくりと城内へと入っていった。

 迷うこともなく足取りはしっかりしたものだ。

 それを残ったジェイルが見送ると他の面々に向き直る。


「と、いうわけだ。アドルは彼女らに任せておいてだ。後は自由にしてくれ。部屋は案内させる。ああ、メルは一回残ってくれ、今後について意見を合わせたい。それとラプタだっけか? ミリアンの代行特使と伺っている。しばらくこっちについてもらうがいいか?」


「わかりました」


 メレネイアは疑問もなく頷く。


「うん、じゃなかった。はい。フィドル王子の到着まで代行させてもらうって、じゃない、もらいます!」


王と対面していることが一応、ラプタの態度を改めさせているようだが、一時間後にはそんな畏まった態度も消え失せるのだがそれはジェイルしかりであった。


「それじゃあ僕達も今後を考えなきゃいけないので」


 ユーリはアイリを連れ足を進めようとする。


「離れるのか?」


 ジェイルはユーリの今後という言葉を逃さなかった。

 ジェイルの脇を通り過ぎたユーリは一度足を止める。


「ウィルさんがいない以上それも考えられますが、どうでしょうね。正直迷ってます。こんなこと前はなかったんですけどね」


「お前、変わったな」


 ジェイルは背中を見せたままのユーリに率直な言葉を投げた。

 それを受け止め返事せず、ユーリとアイリは再び進んでいく。


「変わった……か。僕にとっては皮肉ですね」


「ユーリ、笑ってる」


 隣で眺めていたアイリがぼそりと指摘する。

 その笑った顔はとても複雑で瞳との釣り合いが取れていなかった。


「本当に今後のこと考えざるを得なくなったなあ」


 今までは考えることがなかったように言い捨てると曲がり角へ消えていった。







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