12話 合流する人と現実
二日目は町をうろつき、神託祭がどのようなものか町の人にも聞いて回った。聞く人聞の言うことはだいたい同じだ。
特に年輩の話は長かった。頼んでもないのに昔々の話を始める。
外大陸の魔物の大群からこの大陸だけはあの塔と巫女の祈りにより結界が張られ、災厄から救われた。
以降、エファンジュリアは定期的に交代され引退したエファンジュリアは静かな余生を過ごすという。
エファンジュリアとなった者は年をとらないため、引退後は失った時間を好きに過ごしているそうだ。
前回はどうだったかというと、十年前だそうだが、その話は皆、口をつぐんだ。その顔は怒りも見え、それ以上聞くのは憚られた。
後はアーティファクト専門店なるところにメレネイア、レインシエルと行った。もっとも作成ではなく卸売りの店だったが、アーティファクトを作成できる職業は別で一般に錬成士と呼ばれる。
ウィルの大陸との共通点もあり、驚いたが、内容は大分違う。
専門性により錬金術師やら魔工術師やら種類が違い、ランクによってもレベルが違うらしい。中にはオールマイティーに対応する者もいるようだが、そういった彼らは種別はなく単に錬成士と呼ばれる。
メレネイアはいずれそういった人にも出会うでしょうといっていたが、ウィルにはその後のことなどあまり考えていなかったが、ニーアと父親を探すという次の旅のことも少し考えることができた。
三日目まで時間はあっという間に過ぎた。
「あら、予定通り珍しいのが届きましたよ」
宿屋 風月のサラがにこやかに迎える。
「さすがですね。二人ともついてきてください」
お腹が減っていたウィルとレインシエルはどんな料理かと思い、わくわくしながら夕食につられ、カウンターの奥へとつれられる。従業員たちの事務所があるドアではなく向かいの壁掛けの照明に向かい合う。
「あの……?」
なにしているんですかとウィルは問いかけようと思ったが、照明に手をかざすと暖色の証明が青へと色を変えた。
すると、その壁に線が浮かび上がりちょうどドアの形をとる。メレネイアはなんの躊躇もなく壁を押す。ドアとなった部分がそのまま開く。連動するように中の照明が灯る。
「すっげえ……」
ウィルは何度言ったかわからないが素直に感動した。レインシエルは言葉もなくただ目を見開いている。
中は広めの一室で、中央に長方形のテーブルと雑におかれた椅子、壁にはこの大陸であろう地図がでかでかと張られていた。
「そういえば初めてここの地図みたな……」
地図にはこの大陸が描かれており、だいぶ詳細に地形や町名、国境線、勢力図などが書き込まれている。大陸はおよそ丸みをおびており西方には細長い半島が延びている、それは「オルトロスの首」という地名らしい。
ほかにも特異な地形や地名があるが、とまらなくなりそうなのでやめておく。
この王都は大陸のほぼ中央に位置し近場にエヴィスカイトが存在する。アストレムリ聖帝国は大陸中心から北西一帯を占めているようで、東は海峡を隔て北東にミリアン国、南東にはイストエイジア王国という小国と小規模な自治区となっているようだ。
先日みてきたクレータのさらに外周にさらに大きなクレータの円とされる書き込みがされていた。それは大陸の4分の1ほどを占めていた。
見たことのないものが多く、ウィルは瞳を輝かせる。周りは距離を置いてウィルを眺めていた。レインシエルについては、その食いつきに引いているようだった。
ふと左上に書かれている単語が目に留まった。
「テイントリアは大陸名で……ユーフェル=アーベント暦1218年、5大陸のうち黄昏の大地か」
言い切った後、聞いたことのある言葉が流されずにウィルの目がそこに釘付けになった。え? ユーフェル?」
「どしたの?」
レインシエルが先ほどまでのテンションから変わったウィルを心配し声をかける。
その言葉は返されなかった。ユーフェルという言葉以外、頭に残っていなかった。
「なんで、ユーフェルなんだ?」
話しかけられたことだけは覚えていたので、レインシエルへと問いかける。レインシエルは予想していなかった質問だったのか、メレネイアへと助けを求める。メレネイアはそれを受け椅子に座ることを中断して地図へと近づく。
その顔は冷静そのものだった。
「テイントリア大陸はお分かりの通りです。ユーフェルとはテイントリア大陸を含めたこの世界、星の名称です。……ユーフェル=アーベント暦とは人魔戦争を区切りとしてユーフェル暦は終わり、新暦として始まりました。黄昏を迎えた世界の残された大陸がテイントリアです」
最後の言葉はどこか暗い感情が漂った気がしたがウィルはそんなことを気にしている場合じゃなかった。その説明に対しまったく納得のいかない様子のウィルは地図を指さす。
「いやいや、フェルペルディアでしょ? ユーフェルはとっくの昔にほろん……!」
言い切る前にある可能性に気づいた。
「まさか……過去にとんだ?」
ふとそんな言葉を口にしてしまった。場の空気が言いようのない重さを持つ。メレネイアでも今の言葉に動揺を隠せなかった。レインシエルは頭がおかしくなった? との感じで頭を触ってくる。
「ウィルさん、あなたさっきユーフェルが滅んだといいかけました?」
まずい、嫌な汗がウィルのこめかみを伝う。
「いや、それは……」
「ふーむ。興味深いですねえ」
ウィルが言葉に困っていると入り口から懐かしい間の抜けた声が聞こえた。
「アルフレド!」
気色の悪い笑顔を浮かべるアルフレドに今回ばかりは心が安らいだ気がした。
「とりあえず夕食にしましょう。彼のお話はそこでゆっくりと聞きませんか?」
そう言ってアルフレドは机の奥へと向かい椅子に座った。気持ちに余裕がなかったためかその言葉に従い席へと着く。ウィルの隣にレインシエル、向かいにはメレネイア、彼らを両側に視界を置きアルフレドが位置する。
いつの間にかサラではなく別の従業員が冷たい紅茶を運んできてくれた。ウィルは一気に飲み干し、息をつくと、ゆっくりと口を開いた。
「……話すタイミングがなくてごめん。どうしてここに来たとかどこから来たのかとか話していなかった。俺は……どうやら未来から来たみたいだ」