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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第4章 蒼の煌き彼方にて、慟哭と共に
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119話 今の記憶こそ

 鳥がさえずる。

 ユグドラウスの空間から舞い戻った仲間達はほぼ時間が経っていないことに気づく。


「時間のずれとはそういうことですか」


 ユーリは体の調子を確かめながらユグドラウスの言葉の意味を理解した。

 それは洞窟を出ても一緒だったようで相変わらず落ち葉が積まれていた。

 洞窟内は静かなものでゴブリンロードが姿を現したものの敵意はなく、一人一人、確かめるように目線を巡らせた後、唸った後、金色に鈍く輝く石をニーアに捧げ、暗闇へと姿を消していった。


 残念そうだ。

 とニーアは魔物から感じた。会いたい人に会えなかったような悲しみが伝わってきた。

 その塊を持ち洞窟を出た後、ウィルは間違っていなかったとこの場にいるはずの兄を思い出して人知れず泣いた。



「オリハルトね。ニーア、あなたが望むならあれを創れる。彼が帰ってきた時のために創ってもいいんじゃない? 私じゃなくてオルキスが創るけど」


 オルティが石を鑑定しオリハルトだと分かるとそう提案した。

 突然、引き合いに出されたオルキスは何も考えないままに直ぐに頷いた。

 

「うん。そうしたい」


 ニーアも同じく承諾した。

 あれ、インフィニティアの錬成だとオルキスが分かったのはミリアン王都へ着いた時だった。


 一旦宿に戻り、今日はおしまいとした。

 

 部屋で一人、浮かない顔をしていたダーナスにティアは気づいた。

 お茶を出しながらテーブルに向かい座るダーナスの隣に腰を落ち着かせた。 


「どうしたんですか? ずっと悩んでいるようですけど」


 使用人としての性か困っている人間に声をかけずにいられなかった。


「ああ、少しな。 ティアは扉の中で何を見たんだ?」


 質問を返された事に驚いたが、その質問が悩みの原因なのだと感じた。

 どこから話せばいいかと思ったが、まとめるのも面倒だと思い、ありのままを話した。


 子どもの時の事件の話。父と母を失い、諦めかけた事。

 それでもと立ち上がり立ち向かって認められ、夢の世界で父と母に再会できたこと。

 そしてオルキスに託した創世の泉水を授かったこと。


 それを黙って聞いていたダーナスは涙をこらえているようで少し震えていた。


「そうか。ありがとう。話をしてくれて。私も話すよ」


 目頭を抑え涙が出ないようにした後、ダーナスは首を回し、二人を見つけた。

 その視線に気づいたユーリとアイリは何かを察したのか同じテーブルについた。


 誰も話すことはなく今は皆がその話に耳を傾けようとしていた。

 オルキスは次は自分の番だと身を固くしていた。


「扉の中の話ですよね。興味があります。ティアさんの話を聞く限りそれなりな世界だとは検討がつきますが、僕たちに関係があるのですか?」


 ユーリの興味は扉の中だけだったのだが、それ以外に何か持っているダーナスの話自体にも興味が湧いた。


「もしかしたら人違いかもしれないのだが、それを前提に話そう」


 ダーナスはぽつりぽつりと話し始めた。

 隠すことはしてはならないと自分の贖罪も込めて扉での出来事を語った。


 ミュトスへ配属し行われた異端者の粛正。

 結果として誰も手に掛けなかったが、そうした事態に流されるままにいたこと。


 そして、二人の兄妹と守るために死んでいった父の話を。


 興味深々だったユーリの顔が徐々に難しくなる。

 アイリにいたってはいつもの無表情だったが、果実を絞ったジュースを飲む手が止まった。


「……その兄妹が僕たちだと?」


 内容を察したユーリが核心に触れる。


「今だから思うが、確かに似ていた。成長していれば君らのようになるのだと。そして幼い私に告げられた、会っている可能性を」


「……それっていつの話ですか?」


「5年ほど前だな、13ほどの時だ」


 なるほどと、ユーリはうなずく。


「聞いている限り、違うようです。その子ども達はだいぶ幼かったようですね。それから5年経ったとしても僕たちには追いついてませんよ」

 

 その通りだった。

 どうみても四、五歳ほどの子どもだった。

 劇的に成長したとしても十五ほどの体躯には成長しないのは考えれば分かる話だった。


「まあ、たとえ、それが僕たちだったとしてもダーナスさんを責めることはありませんよ。何もできなかったにしても彼らは救われているんですから、むしろそれで良かったのかもしれません。だから、そんな苦しい顔しないでください。そんなのウィルさんでお腹いっぱいです」


「気にしない」


 アイリの一言も相まってダーナスは心のしがらみが緩くなったのを感じた。

 ただそうだとしても幼い自分が言った言葉は引っかかったままだった。


「ただ、その父親がユウ、アイと言ったということは少し気になるのは確かですが、記憶がない今、どっちでも構いません……過去は今の僕たちには関係ないですから」


 ユーリは少しだけ悲しそうに言った。

 感情を滲ませる姿は皆、気づかない内に豊かになっていた。


 そして、オルキスの話でむしろ心が温まりその場を和ませた。

 殺伐した情景ではなく、幸せを抜け出し、家族と共に帰ってきたオルキスの話はつっこまれることもなく、何故か皆に頭を撫でられ終わるのだった。



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