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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第4章 蒼の煌き彼方にて、慟哭と共に
117/197

117話 消失

 その希望はウィルにニーアには届きようがなかった。

 唄と交錯する剣の音に背後の騒ぎはかき消えていた。

 そもそもそんな希望が届いたところで既に関係がない。

 ただ目の前の敵を消し去ることのみとウィルだった者、フォルテ・リベリアは宿主の願いを果たそうと剣を振るっていた。


 お互いに六本全ての剣を飛翔させ少しでも肉を裂こうと村時雨の如く剣が降り注ぐ。

 雨は一向に水しぶきをあげず、空に散っていく。


「さすがは剣聖。あれを使っているにも関わらず決めきれないとはな」


「気づいていたが勝ってもいないのに手の内を晒すのは愚者の判断だぞ」


 蒼の嵐が激しさを増す。

 ナルガの手前ぎりぎりで剣が弾く。


「ちっ。追いつかないか……セラ!!」


 間隙を縫ってナルガは叫ぶ。

 セラは頷き、唄を更に轟かせる。


recode(リコード)absorp(アブソープ)


 その瞬間、リベリアの動きが目に見えて鈍る。

 それを肌で感じているのはニーアだった。


「吸収されて……?」


 蒼の輝きが流れを変えナルガに注がれていくのと比例してナルガの動きは速く、そして緋を強くしていく。


「なっ……」


「まずは1つ」


 ナルガに放たれた蒼の剣が緋色へと変わり、ナルガの左肩へ回るとその剣先がリベリアへと向く。

 

「その唄……そうか。アーカーシャを覗いているのは間違いないのか」


 リベリアは距離を一旦取りニーアの前へと戻る。

 離れれば力の流入は幾分か緩和されるようだった。


「ウィル兄……」


 肩で息をし始めるリベリアに兄の名前をつぶやくが返事は兄の言葉ではなかった。


「エファンジュリアよ。謝罪しよう。奴らがアーカーシャを覗いているとは分かってはいたがここまでとは予想外だった」


「そんなこと言われても……ウィル兄はどこなの?」


「……すまない。宿主は失いすぎたのだ。これは宿主の最後の望み。どうか力を貸して欲しい」


「そんなの……知らない。私は知らない! ウィル兄を返してよ!!」


「本当にすまない」


 ウィルの顔で似合わない言葉で謝罪し再びナルガへと向かっていく。

 もうウィルはそこにいないのだとようやく理解した。

 諦めざるを得なかった。


 抵抗も虚しくセラに引き寄せられる唄を紡ぎ続け、救いを探すように後ろをなんとなく見やる。

 どうせ後ろに希望なんてないのは分かっていたが、どうしても振り返ることを止められなかった。


 その瞬間、風がニーアに吹き付けた。

 まるで前を向けと背中を押す風だった。

 その意味を視界に捉える。

 横たわるレインシエルに少し開いたユグドラシルの扉。

 漏れ出たマナを食らうように口を開けたプルル。


 何をしようとしているかなど検討もつかなかった。

 ただ、背後の仲間達は諦めてなどいなかった。

 この状況に少しでも抗おうと、希望の尾を掴むべく行動していた。


「まだ諦めるのは早いぞ」


 風が花を舞わせ、聞こえてきた言葉がニーアを再び前に向かせる。

 もう一つの蒼の煌めきがニーアを抜けていく。

 頭に軽く手が乗る重みを感じた後、蒼の煌めきはナルガとリベリアの間に割って入った。


「リベリア! 遅れたわ!」


 間に入ったルイノルドは蒼の剣を振るい、ナルガを剣もろとも吹き飛ばす。


「その波長……そうか。全て得心がいった」


「話早くて助かるわ。さあ、希望をかっさらうぞ!」


 ナルガは草花をまき散らしながら滑りようやく止まった所で、額を流れる熱いものに気づいた。


「血……だと」


 血を流したことが予想外だったのか逡巡し目の前の乱入者を睨みつける。


「お前、何者だ? どうしてここにいる」


 ナルガは反撃しない。

 忌々しさと困惑が瞳に混じっていた。


「そうだなあ、イレギュラーってやつだよ」


 蒼剣をルイノルドは構え直し、姿が消える。

 

「なに……!」


 剣を構えた途端、ルイノルドの剣が衝突する。

 遅れてやってくる風がその速度を表していた。


 かろうじて止めたもののリベリアが更に続く。

 脇腹の服が切れ薄皮に一筋の傷が生まれ血が垂れる。


「届いた……!」


 リベリアは確かな手応えを感じ、諦めかけた力を取り戻していく。



「そうだ。返してもらうから」


 ニーアは力を降り絞る。

 誰も諦めてはいないのだ。

 足掻きがようやく傷を付けたのだ。


 自分ができることを全力でやらねばならない。


私はエファンジュリアだから。


recode(リコード)absorp(アブソープ)


 ニーアの唄が変わる。

 セラの同調から外れ優しくそれでも力強い調べが奏でられていく。

 セラの唄と相反する歌声はセラを凌駕していく。


「戻される……!?」


 今度はセラが引っ張られる。

 緋の輝きが蒼へと変わり、失った蒼の剣が再びリベリアへと戻る。

 

「くそっ。なんだお前は!? なぜ見えない! アーカーシャを使っているのに!」


 ナルガは悪態をつく。

 想定していなかった焦りから動きが鈍り、ましてやリベリアに流入していくマナによって緋の輝きを少しずつ失っていく。


「そうやってシステムに頼るからだよ。そこに俺の名前はない!」


 ナルガの防御は完全に遅れる。

 防御に間に合った緋剣は砕け散りルイノルドの蒼の剣が右腕を裂く。


「っっがああああ!!」


 痛み。

 腕を裂かれる痛みに耐えられず声を上げる。


「ナル!」


 セラは唄を止め、ナルガへと駆け寄ろうとする。


「来るな! 余計なことをするな! 唄っていろ!」


 ナルガは目だけでセラを抑える。

 右腕はだらりと垂れ下がったままで持ち上がる様子はない。


「こんなところで……俺は終わらん。俺がオリジナルになるんだ……!」


 六本の緋剣が方向を変え、ナルガの左手の剣へと融合していく。

 緋は強さを増し左手の剣が鳴動する。


「ああああああ!!」


 ナルガはそう叫んだ瞬間、自らの腹に剣を突き刺そうと剣を持ち替える。


「やめて!!」


 何をしようとしているかは明白だった。

 それによって命を絶つのかそれともまだ手があるのかは分からない。


 なぜならそれは行われなかったからだ。



「退きますよ」


 空間が歪み、黒いフードの男が姿を現しナルガの左手を止める。

 

「邪魔をするな! オルリ!」


 オルリと呼ばれた男を睨みつける。

 たが剣は動くことを許さなかった。


「頭を冷やせ」


 オルリは指を鳴らすと歪みに引きずられるようにナルガが吸い込まれ消え、同時にセラもかき消えた。


「よう。初めまして、かな。オルリ」


 ルイノルドは剣の構えを解き、嬉しそうに声を弾ませた。

 

「……イレギュラーの存在はいまや邪魔になりつつある。消えてもらいましょう」


 オルリはフードにからでた口元をにやつかせ、指を鳴らす。

 

「ユグドラウス!!」


 ルイノルドは叫ぶ。

 オルリの出現させた歪みがルイノルドとリベリアを捉える前に別の歪みが二人を覆った。


「ここでは分が悪いか」


 そう言い捨てるとオルリは自らが創った歪みに姿を消した。

 そして、ルイノルド達も消えていく。


「お父さん、ウィル兄!」


 消えていく二人にニーアは疲れ切った体を無視して走っていく。

 

「一回離脱するわ。ちゃんとウィルと会わせてやるから心配すんな。やるべき事をやれ。そうすりゃまた合流するだろ。それとレイに謝っておいてくれ」


 ニーアの手が届く前に二人はかき消え、伸ばした手は虚空を掴んだ。

 へたり込むニーアは後ろから抱きしめられ風にそよぐ赤毛が後ろで揺れていた。

 

 レインシエルと共に、泣いた。

 別離を嘆き、再会の喜びも含んだ涙は暫く止まることはなかった。



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