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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第4章 蒼の煌き彼方にて、慟哭と共に
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114話 空っぽ

 全ては相手も考えていたことだった。

 下がったユーリは背後の空気を切り裂き向かう剣に気づいていない。

 それほどに目の前に集中してしまっていた。


「ユーリ!!」


 ウィルは叫ぶ、背後の脅威を知らせるために。

 声が届くと同時にユーリは体を捻る。

 一本の剣が腹を掠め、時間差で飛んできたもう一本は方向をずらし避けた地点へと、ユーリの腹を貫く。


「ぐっ……」


 それでもなんとかヴォルトの筒を当て剣先を反らした。それでも右脇腹を切り裂き血が草花を赤く染める。

 その上にバランスを崩したユーリが倒れ込む。

 押しつぶされた血の花は既にどす黒く変色していた。


 フォーリは肩の装置が焦げていることを確認し漆黒の大鎌を構え、ユーリに迫っていく。

 ようやくラプタから離れた二本がセラの周りを周回し、ウィルは方向をユーリへと変え追撃を防ごうとフォーリとの間に割り込み鎌を押し返し蹴りを繰り出すも後方へとかわされる。


 

「ユーリ! 動けるか!?」


 ウィルは大丈夫とは聞かない。

 聞いても無駄なやり取りだ。

 大事なのは次動けるかどうかだった。


「はい、一旦、アイリまで下がります」


「……わかった! 先に行け!」


 ラプタもウィルに合流しレインシエルと共に追撃を受け止めながらユーリの退却を支援する。

 

「アイリ、頼みます……」


 ニーア達の元に控えるアイリは頷くとすぐに鞄から端末を取り出す。

 起動した端末からユーリの立体的な体が投影された。


「保護循環液の漏出で済んだ。外皮の応急修復する」


「ホゴジュンカンエキ?」

 ニーアは聞き慣れない言葉を口に出す者のアイリは顔だけをニーアに向けるが何も言わなかった。


「はは、アイリが焦るとはある意味嬉しいです」

 

 脇腹を抑えながらユーリは状況に似合わずはにかむ。


「うるさい……」


 アイリは顔を端末に戻し、無表情のまま浮かんだモニターをタッチしていく。


「結構漏れたから衝撃耐性レベルが下がった。支援に回ったほうがいい」


 モニターが消え、端末を鞄に戻す。


「前の僕なら大人しく従ってましたが、極力気をつけます」


 何事もなかったかのようにユーリは立ち上がる。

 切られた服から見える肌には裂かれたはずの傷は既に消えていた。


「え、なんで?」


 ニーアは驚きの声を上げる。

 メレネイアも何事もなく再び戦線に戻っていくその光景が信じられず、アイリへ目線を移していた。


「話せる時に話す。絶対に」


 無表情ながらの目で訴えるアイリに二人は頷いた。

 誤魔化しでも嘘でもないと素直に感じたからだ。


「分かった。待ってるよ」


 ニーアは再びウィルへと視線を戻した。



 遠く戦場から離れた石造りの舞台でユグドラウスは別世界を眺めるように目まぐるしい死闘の空間から距離を置いていた。


 ふと横にそびえる扉に目をやる。

 何も変化がなく開く様子はなかった。


「少しまずいか……見た目には問題ないかと思ったがそれぞれ向き合うべき記憶があったのか、それともいたずらか」


 息を吐くと柔らかな風がそよいだ。


「お望み通りお節介してくるよ」


 ユグドラウスの後ろ髪を凪ぎ、懐かしい香りが風に乗って扉へと向かっていった。


「根に持ちすぎだよ。まああなたらしいと言えばらしいね」


 ユグドラウスはのそりと立ち上がる。

 少し手を打たねばならなかった。


「あんまり無理矢理来られると困るからね」


 右手の指を空気に添えるように動かす。

 更なる乱入者へ入り口を開くために。



「また懐かしい人達だ」


 目の前に展開した術式から姿を現す二人にやれやれと目を細めた。


ーーーー

 数的有利にも関わらず決定打に欠けていた。

 フォーリに対してはそれなりに戦えるもののナルガには一つの傷も負わすことができなかった。

 最大限の攻撃の波に対し最小限の動きでかわされる。

 体力だけが削られていき焦りが滲んでくる。


「ちぃっ! どけ!」


 フォーリの大鎌を屈んでかいくぐり低い姿勢のままウィルは懐に潜り込む。

 ようやくウィルの剣が届き、フォーリの左脚を切り裂く。

 血が吹き、花を赤く染めユーリと同じようにすぐに黒く変色する。

 ウィルはそんなことには目を向けず、膝をついたフォーリに追い打ちをかけるユーリを目で追いかける。

 

 ヴォルトの出力が弱いのか、鎌の柄で受け止められる。

 しかし、それで終わりではない。

 ラプタががら空きになった背後にナイフを突き立てる。


「皮肉だって!」


 かつでドルが取った行動と同じく、背後から体重を乗せた一撃が背中に突き刺さる。

 そして同じく、フォーリは意に介せず鎌を後ろに回しラプタを捉えようとするが、空を切った。


「同じ手にかかるかって!」

 剣を軸にそのままフォーリの頭上を回転し声、同時にナイフを引き抜き、フォーリの目の前へ降り立つ。


「ドルの仇!」


 後ろに回された鎌を戻す時間もなく、ラプタのナイフがフォーリの首の皮を切り裂こうと迫る。


「見事」


 フォーリの呟きの後、迷わず振り抜かれたナイフはフォーリの喉元を深く切り裂いた。

 瞳を閉じ前のめりに草花にその身を落としていった。


「次……」


 虚しい達成感が身を包んでいくが、それに浸る余裕はなく、ナルガへとラプタは攻撃を続ける。

 ただユーリはその死に様を少しだけ眺めていた。


「やっぱり僕達は空っぽなんですね」


 フォーリの体はただ虚しく横たわり、若干、目を伏せた後、ナルガとの戦闘に切り替えた。

 少し期待外れだった。

 確かめたかったそれはやはり夢想の期待だったと、涙も枯れてしまった。





  

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