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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第4章 蒼の煌き彼方にて、慟哭と共に
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106話 ユグドラウス

 あまりの景色の変貌に言葉を失っていると、少し離れた所にこれまた違和感を覚えるように石で囲まれた中心に机と椅子が置かれていた。

 さらに誰かが座っているようでその背中が見えた。


「……!」


 ナルガかと思い、ウィルは気持ち悪さを忘れ去り剣を抜く。

 だが改めて観察するとナルガでもなく誰かも検討のつかない背中だった。

 ぼさぼさの白髪はナルガのものとはほど遠く薄い黄色が混ざっており加齢によるものを伺わせ、離れた距離でも分かるくらいに白衣に包まれた背中は猫背で丸まっていた。



「ディアヴァロ? あれ?」


「どうしました?」


 首をかたげるニーアにメレネイアがこめかみを抑えながらも気づいた。


「声が届かない、ていうかいないっていうか……」


 急にニーアはディアヴァロだけでなくリヴァイアスの存在を見失った。

 まるで席を外しているような感覚だった。

 そしてニーアだけはこの空間が懐かしくも思えていた。


「あいつに聞けばわかるかもな」


 ウィルは剣を握ったまま、未だ背を向けた白衣に近づいていく。

 肩が上下に動いており生きた人間ではあるようだった。



「おい--」


「ようこそ、ポータルへ。ウィルくん? だったかな」


 ウィルが声をかけようとすると待っていたかのように椅子が回転する。

 ウィルは一歩飛び退き剣を構える。


「おっと、そんな物騒な者はしまいたまえ。この通り僕は丸腰で戦う意志はないよ」


 ゆったりとした動作で白衣の男は立ち上がる。

 寝起きのように背筋を延ばしたかと思うと結局猫背で姿勢を安定させた。

 健康とは思えない蒼白の表情で丸渕メガネから覗く瞳だけが正反対に輝いていた。


「あんたは? ここはなんなんだ? どこなんだ? なんで俺のことを知ってる?」


 ウィルは男の異様な雰囲気に質問をまくし立てる。

 男はウィルを見据えると眼鏡を取り白衣の裾で汚れを拭き取る。


「僕はそうだな。今はユグドラウスのほうが正しいね。ここは何かとどこかは案内でも言ったけど、ここがユグドラウスの塔であり僕が作ったポータル空間さ。君を知っている理由は僕の空間に入った時点でモニターしていたから。満足かい?」


 眼鏡を拭き終わるとユグドラウスは眼鏡をかけ直す。

 ぎょろりとした目がウィルを捉える。

 躊躇なくそれぞれの質問に答えるユグドラウスにウィルは次の言葉がでなかった。

 湧き出た疑問の整理が追いつかず何から追えばいいか判断できなかった。


 

「ん? 出てこないつもりか……ディン。恥ずかしがり屋め」


 ウィル達の人数を数え、どうも人数が足りないのか不満げだった。

 その言葉でニーアがようやく口を開く。


「ディン? ううん、あなたは楔なの? 人間が楔? 説明して」


 ニーアはディアヴァロとリヴァイアスと見た目どころか種族があまりにもかけ離れていることが一番気になった。竜が楔だという認識で固まっており、自らをユグドラウスと呼称する人物は見るからに人間だった。


「あ、そうか。竜種の姿じゃないってわけか。そうだな。この空間ではこの姿のままでお願いしたい。あまり竜の姿は好きじゃない。センスがないからね」


 いまいちズレた回答にニーアは拍子抜けと膝が折れそうになる。


「じゃあ、あなたは人間なの?」


 一つ一つ確認するしかない。

 そう決めたニーアはまず人間かどうかを確かめる。


「そうだね。少なくとも僕は()()だよ」

 

 またもひっかかる言い方にニーアは眉がひくつきいらつき始める。

 何故か珍しそうにメレネイアをその目で捉えていた。いや正しくはその尖った耳だ。

 ニーアが爆発する前にとオルキスが続く。


「じゃ、じゃあユグドラウスさん。ユグドラシルの扉はここにあるんですか?」


 第二の目的であるエリクサーの素材の場所がここにあるのかがオルキスにとって重要だった。

 その質問に感心したように目を細め、オルキスを眺める。

 何とも言えない感覚にオルキスは戸惑う。


「ユグドラシルか。繋がってはいるけど。誰に聞いた? いや、ディアヴァロしかいないか。やれやれ。大方、エリクサーの材料探しかい? 誰に使うの?」


 ユグドラウスは転じてめんどくさそうに答える。

 バレたもんは仕方ないって感じだ。


「は、はい。アドルという人です。テイクオーバーでマナ治療を阻害されているんです」


「私の兄だ。あるなら案内してほしい」


 ダーナスが悲痛な面もちで前にでる。

 それにわざとらしく悩む素振りをユグドラウスは見せる。


「ふむ。どうしてもかい?」


「もちろんだ。交換条件があるなら引き受けよう」


 ダーナスの言葉に隠すこともせずにやりと口角をつり上げる。

 やはり交換条件があるようだ。

 ダーナスは身構えるとユグドラウスはあっけらかんと笑った。


「いや、ごめん、そんな身構えなくてもいいよ。すぐに案内しよう。ただ注意事項があるんでね。あそこはマナが異常に濃い。場合によってはその記憶が具象化する。君たちには厄介なことに願いに強く反応するから、そのアドルを助けたいという願いをマナ達は確かめる。つまりエリクサーの素材は置いてあるわけではない。授かる必要がある。システム外領域だからね。これは自律型のセキュリティシステムだ。解除はできない」


「……確かめる?」


 ダーナスは全文は理解できなかったもののディアヴァロの言っていた死ぬ覚悟というものが関わってくると直感した。


「そう。例えば10年前。2人の人間がここにたどり着いた。……見せた方が早いか」


 ユグドラウスは指を何もない宙で動かす素振りをする。


『データアーカイブ参照。再生します』


 すると無機質な音声が響くと視界にノイズが一瞬入る。

「彼らが来たのは3度だ。1度目と3度目に分けるよ。残念ながら時間もないし」

 しばらくして声が聞こえ始めた。

 一斉にそちらに目を向けると二人の男女がこちらへ走ってきていた。


「……い。おい!」


「嘘……」


 振り向いたオルキスがいち早く気づく。

 

「お、お母さん、お父さん……?」


 その男女はオルキス達に目もむけず、通り抜けていった。

 それはオルキスの両親だった。

 

 




 


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