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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第4章 蒼の煌き彼方にて、慟哭と共に
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103話 照らされ現れるは

 結局、あまりに進まないのでレインシエルが横に並び、浮かんだ光石で道を照らす。

 暖かな光は期待以上に見通しよく周囲を照らしていた。


「ちょっと、引っ張らないでよ」


 レインシエルは腕にしがみつくラプタにしかめっ面をする。


「だってえ……」


 それでも離さないラプタにレインシエルはため息で諦める。


「情けないですね。夜目もできないようでは」


 ユーリはここぞとばかりに馬鹿にしつつ軽やかな足取りで前へ出ようとする。

 

「むっ、べっつに大丈夫だって!」


 ラプタはむかっと来たのかそう言うと意を決してレインシエルの腕から手を離し前へ出る。


「ヴォルト」


 ユーリは小さく呟くとヴォルトの出力を最小限にしてその紫電を明かり代わりと顔の下から照らし暗がりから躍り出る。


「ふ、ふぎゃああああ!」


 いきなり顔を現したユーリにラプタは甲高い悲鳴を上げ、レインシエルに抱きつく。

 ため息まじりながらもレインシエルは嫌そうな感じではなく満更ではないようだった。


「なに遊んでんだよ……」


 ウィルは呆れているとユーリはヴォルトを閉じて光石の範囲に合流する。

 満面の笑みだったがそれも一瞬で無表情に戻る。


「それはそうと魔物の巣窟と聞いてましたが、そんな気配はあまりしませんね」


 確かにとウィルも経験からそれなりに気配というものを感じることができるようになり周囲を確かめてみるが何かいるのは分かるものの敵意は感じなかった。


「なんか怯えてるって感じだな」


 何の気なしに口にすると、何かおかしいことでも言ったのかウィルに視線が集まる。


「ウィルはそんなことまでわかるのか?」


 ラプタは意外そうに目を丸くしていた。

 多少は慣れたのかレインシエルの側ではあるものの手は離していた。



「え、そんなもんじゃないの?」


 見渡してみるがどうやらそうではないらしい。

 間違えたと思い無性に恥ずかしくなった。


「さすがはウィルさんです」


 ユーリは感心としきりに頷く。

 

「でもさ、今更なんだけど空から行けなかったわけ?」


 それはそうとニーアは本末転倒なことを言い始めるが、そう言えばそうだと誰もが思った。


「ああ、無理だって。地上から行くしかないの。ここを抜ければ分かるけどけた違いの高さの森に囲まれてるのと、よく分からないけどたどり着く前に落とされるとかそもそも場所がわからないって話らしいよ」


 ラプタは思い出したように空からは無理だと言う。

 早く言えよとは思うが忘れていた感じだったので突っ込むのも気が引けた。


「落とされるってわけわからん、それに空からの方がわかりやすいと思うけどな」


 ウィルはその話そのものに疑問が湧いた。


「うーん。最近は空から行った人がいないからわからないけど、地上から行った景色と空からじゃ全然違うみたいだって」


「当時は迂回して行ったのでその話を確かめた覚えはありませんが、ルイが空から行こうとして止められていましたね。ただ当時と場所が違うようですが、そもそもユグドラウスかどうかも知らされませんでしたし」


 するとメレネイアが口を開いた。


「そうか、メルは行ってんだよな。場所が違うってのは?」


 ウィルは最後の言葉が気になった。


「たぶん、10年前だって。その時はもう少し北東あたりだったらしいけど移動したみたい」


 ラプタは人差し指を口元に当てて思い出す仕草をする。

 その情報はウィル達を驚かすには充分だった。


「移動するんですか!?」


 ティアが身を乗り出す。

 さっそくリンクと呟いて記録していく。


「あ、うん。ここだけが特別らしいって。あ、理由は知らないよ」


「そ、そうですか」


 その先も聞きたかったらしいが先に話を終わられティアは肩を落とす。


 それを余所に洞窟はどんどん広がって行く。

 そしてついにレインシエルは足を止める。


「皆、来るよ」


 その言葉にウィル達はすぐさま武器を構える。

 行く先に複数の気配がうごめいていた。


 ギギ、ギギッと生き物らしき声が会話するかのように周囲に広がっていく。

 やがて姿を現したのは背の低いお世辞にもかわいいとは言えない生き物だった。


「ゴブリン……」


 レインシエルは呟く。

 それは一匹ではなく数を増やしていく。

 光に照らされたゴブリンと呼ばれる生物は、黒みがかった緑色の肌が鈍く反射し窪んだ目で獲物だとウィル達を捉える。

 それぞれ棍棒やら欠けた剣やらを持ちじりじりと距離を詰めてくる。


「怯えてるって話じゃなかったっけ?」


 ラプタはナイフを逆手に構え体勢を整える。


「怯えよりも空腹を優先したようですね」


 ユーリはゴブリンを観察し、よだれを垂らし続ける様子から淡々と説明する。


「ま、やるっきゃねえって」


「ギギィ!」

 

 ウィル達の戦意を感じたのか、ほぼ一斉に飛びかかってきた。

 いつの間にか囲まれていたようで中心にオルキス、ニーア、アイリを纏め周囲を守るようにそれぞれ展開する。


「オルキス、援護頼む! メルはその位置で抜けた奴を! 後は討ち漏らさないようにな! ニーア、マキシマだっけ? 頼む!」


「はいっ!」

「お任せを」

code.maxim(コード マキシマ)


 それぞれ返事をしてニーアは言い終わる前に既に唄を紡ぐ。

 輝く光子がウィル達に力を与える。


 戦闘は存外、楽だった。

 ゴブリン達には群れではあるもののどれも連携もなくただ目の前の敵に突っ込んでくるのみで迎え撃つことは容易だった。


 一匹、二匹が桁を増やして屠られていく。

 ただ数が多いのが難で、ニーアの唄で強化されているもののどこにそんなにいたのかと思うくらい終わりが見えなかった。


「おいおい、終わんねえぞ……」


「ちょっと疲れました……」


 ティアの前にゴブリンが棍棒を振り下ろす。

 その前にダーナスがカバーに入りそれを切り裂く。

 

 互いにカバーしなければならず次第に円を抜ける数が多くなっていく。

 ただそれでもメレネイアのおかげでたどり着くことはなかった。


 しばらくしてようやくゴブリンの足が止まる。

 このままじゃ消耗するだけだと悟ったのか攻撃が止んだ。


「……?」


 だが、それは時間稼ぎだったと分かる。

 群を割くようにそれは現れた。


「まじかよ……」


 それは一匹ではあったが群をひとまとめにしたような巨体にウィルは見上げざるを得なかった。

 ゴブリンはやせ細っていたがこの一匹は違った。

 腹はぼてっとしていたものの腕や足の筋肉は一目で分かるほど粒々としており、周りの惨劇に鋭い目が怒りを現していた。


「ゴブリンロード!」


 オルキスがその巨体を見て弾かれたように叫ぶ。

 ゴブリンを束ねる長の名前を冠するにふさわしい巨体は丸太のような棍棒を振りかぶる。



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