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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第4章 蒼の煌き彼方にて、慟哭と共に
102/197

102話 束の間

 道中は思いの外、快適だった。

 暑さも和らぎ太陽も幾分優しくウィル達を照らしていた。


 森は生命力溢れる深緑から色を変え冬の準備を始め、柔らかな暖かさを感じるほど色鮮やかに彩りを重ねていた。

 季節の移り変わりの様相は望郷の想いを募らせる。

 道に積み重なった落ち葉を踏みしめ、柔らかく包んでくれる感覚にウィルは前を向く。

 それは足元だけでなく、ふと握られた手も同じで妹の暖かさを感じる。


いつか胸を張って帰る。そして父と家族と語り合うのだ。

 


この冒険を良かったと思うために。




 森を抜けると扉も何もない山の壁に開いた大きな穴が出迎えた。

 中は寂しげな雰囲気を漂わせていて薄暗かった。


「一応、ここから右に折れると迂回路の山道だって、行かないんだよね?」


 ラプタがくり抜いた大穴を前に立ち止まり、横に逸れた道を指さす。


「ん? ああ、遠回りなんてしてられない」

 

 今更、別の道に向かう理由など皆無で、そう聞いてきたラプタを掴み損ねる。


「あ、うん、そうだよねって。じゃあお先にどうぞ」


 給仕係のように暗がりに腕を向ける。

 違いますよ、と何故か本家ティアが間違った方向に受け止め間違った所作を指導していた。


「行くぞー」


 間違ったやり取りを後目にウィルは穴へと向かう。


「あ、ウィルさん。これ」


オルキスが駆け寄っていくると少し不格好だったが銀細工で羽が装飾された石を渡してくる。


「ん、なにこれ?」


 どこかで見たような石ではあったが装飾品のような形に見覚えがなかった。


「光石ですよ、クロム遺跡で拾ったアーティファクトで細工の技術が乏しくちょっと不格好ですけどマナを送れば照らしてくれますし、浮遊するようにも調整しました。名前をつけるのは忘れてました」


 下を出していたずらに微笑むオルキスに精神が崩壊しそうになる。


「有能、はい有能」


 思い出したように出してきたことはむしろ可愛さとしてプラスにしよう。

 とウィルは心に決め褒められて嬉しそうにするオルキスから光石を受け取る。


「あ、けど俺じゃだめだ。マナ少ないし」

 

「あ……、ごめんなさい」


 マナが少ない、絶望的に少ないのは既に慣れたことなのでどうでもよかったがもう少し言い方変えたほうがよかったかとウィルは反省した。


「仕方ないな。私がーー」

「じゃあ、あたしが持つよ?」


 ダーナスが声をかけようとしたがその前にレインシエルが遮った。



「「あっ」」


 異なる位置から二つの声が聞こえた。

 さっと現れたレインシエルが光石をオルキスの手から取る。


「お、頼むわ。どした?」


「お願いします。うう……」


 オルキスはすごすごと下がっていった。

 何故かダーナスに丸まった肩を抱かれて励まされているようだった。


「どうしたんだろうね」


「もう少しうまく作りたかったんだろうなーーはっ」

 

 うんうんとオルキスの健気さに感心し頷く。

 すると突然の殺気がウィルを襲う。


「このボケ兄があああああ!!」


 軽やかに飛び立つ音が聞こえると軽やかとは正反対の重い跳び蹴りがニーアから繰り出されウィルの背中を完全に捉えた。


 声を発することもできず顔面から滑っていくウィル。

 落ち葉に受け止められてなければ顔面が平らに研がれていたところだろう。


 完璧な体重の乗せ方に感無量と噛みしめて、顔をあげようとすると目の前には、鬼がいた。

 妹だった鬼がそこに。


「耳貸す!」


 言われるがままに、いや耳を引っ張られてはそうせざるを得ない。

 突っ伏したまま耳元で鬼が唱えるように言葉を連ねていった。


 ひとしきり終わるとすくっとウィルは立ち上がる。


「くっ、俺は最低のくそだったのか……」


「行ってこい」

 

 鬼に背中を押されウィルはオルキスに向かっていく。


「オルキス」


「ひゃい!」

 

 いきなり肩を叩かれオルキスは素っ頓狂な返事をして丸まった背中が伸びる。

 ダーナスはウィルを見るよりも先に鬼が目に入り、転がりながらその場を離れた。

 戦闘でも起きているかのように素晴らしい反射神経だった。


「あ、ええと、その……ありがとな。いつもオルキスのおかげで助かってるし、俺には使えないのが残念だけど安心して進めるよ。本当にオルキスがいてくれて良かった。あ、道具を作ってくれるからとかじゃなくて、その、つまりさ、今後ともよろしく……?」


 オルキスで良かったと言いたかったがうまい言い方が見つからず今更な言葉がでてしまい目を泳がせていたが、そろそろとオルキスの反応を確かめる。

 オルキスはうつむいたままでウィルは失敗した、殺されると後ろから刺す視線に恐怖で満たされていく。


 ゆっくりとオルキスは顔を上げる。

 怒っているかと思ったがその顔はこれ以上ない天使の笑顔だと思った。


「はいっ! これからも頑張ります!」


 ぺこりと頭を下げて軽やかにかけていったその先はダーナスとかつて鬼だったニーアへ向け抱きついていた。


 ウィルは妹に戻ったことに心の底から安堵するのだった。



「でもオルキス、私を越えていかないとね」


 ニーアの言葉にオルキスはふふっと笑うだけだった。


「ちょっと仲間外れにしないでよー!」


 レインシエルは無意識にまずいと感じたのか焦ってその輪に入り、その輪はとても和やかだった。


それを傍目で見ていたユーリも満足そうだったがそれは置いておこう。

メレネイアも微笑ましく眺め、アイリは考えの読めない無表情でその輪を眺めていたのだった。


「うし、改めていくぞ!」


「はーい」


 緊張感のかけらもないとウィルはさすがに危惧したがそれもたまにはいいかと穴に踏み込んでいく。


「ーーってちがーーーーう!!」


 全速力で穴から戻ってきたウィルは未だ作法を習っているラプタに詰め寄る。


「お前が土地勘あるんだろうが! 先頭はラプタ! はい決定!」


「そ、そんなあ……」


 恐る恐る前に進むラプタを見て皆、こいつ暗がり怖いんだなと頷き合った。  


 


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