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「ひ・どーい!」

「さてと。どうかなー。出来るかな~。」

怜那は独り言を言いながらオーブントースターの扉を閉める。今夜のマカナイーノは“キノコのクリーム煮”の予定。というのは、初めての試みなので。アルミホイルにキノコとクリームチーズ、ニンニクチップ、を入れて、塩、コショウ、バジルをふってから、オーブントースターで包み焼きにしているところだ。クリームチーズがキノコから出た水分と混ざって、クリームで煮たような感じになるかもしれない。


カウンターの中で、踏み台と兼用の丸椅子に座り、オーブントースターを前にビールをちびちびやること10分少々。オーブントースターのチーンという音とともに扉を開ける。次にアルミホイルの包みを開ける。

「お。いい感じ!」

ニンニクとバジルが程よく混ざり、鼻をくすぐる。早速、箸を持って口に運ぶ。

「よっしゃ!新メニュー誕生!」

ダイニングの電気も点けず、孤島のようにぽつんと明かりがついたキッチンでガッツポーズをしている怜那。まわりからは異様に映るかもしれないが、本人は最高に楽しいようで、完全に一人の、いや“お一人様”の世界だ。

「ママ?」

「あ?」

声に驚いて間の抜けた声を出して振り返ると、笑顔の紗雪が立っている。

「ちょーだい!」

「あ。イヤ、その…。」

はしゃいでいたのを見られたであろう気まずさからうろたえていると、紗雪の箸が伸びてきた。

「美味し〜い!」

お試しで少なく作ったそれは、紗雪が食べ始めてふた口目で完食。

「もっと食べたい〜!お願い〜!」

「んー。わかった。」

怜那としても、もう少し食べたかったので、また作ることにした。

「ねえ、ママ?」

「何?」

キノコの石づきを取りながら返事をする。

「マカナイーノのレシピ、ノートにまとめておいて。大人になって、家を出る時が来たら持って行きたいの。マカナイーノなしでは生きていけないの。」

「えー?書き留めるほどでもないような簡単なものばかりだし、おつまみがほとんどよ?」

「紗雪の好きな食べ物はマカナイーノなの!家を出たら、食べられなくなるでしょ?」

…うれしいこと、言ってくれるなあ。

「そっかー。紗雪は“病気”だもんね。」

「そうよ。絶対に治らない難病なんだから。」

怜那がクスクス笑うと、紗雪も笑った。

「ただい…、おいおい、暗闇で酒盛りかよ。」

声と同時にガチャリとドアの開く音がして振り返ると、帰宅した恭兵が笑って立っていた。

「お帰り~。」

「パパ、おかえりなさ~い。」

「今日のは何?」

恭兵は接待だったので、飲んできたが、家でもう少し飲みたい時間なのだ。それにマカナイーノは何が出てくるかわからないという楽しみがあるので、恭兵としては、この時間に帰ってこられることはうれしいのだ。

「ちょうど出来てきた。さあどうぞ。」

チーンという音と同時にテーブルに運ぶ。紗雪は恭兵の箸とコースターを運ぶ。

「これは、うまいな。」

水割りを片手に舌鼓を打つ。

「フフフ。そう?」

「マカナイーノだけ上達してないか?」

恭兵がニヤリと笑うと怜那がふくれてみせる。

「ひ・どーい!」

水割りの氷の音と恭兵のクスクス笑う声で更けてゆく夜だった。

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