実はね…。
紗雪の目はいたって真剣だ。
「子どもに話すべきではない、なんて思ってるんでしょ?黙って心配してる方がつらいの!」
「…じゃあ、話すから、聞いたら忘れてね。」
紗雪は黙って頷く。
法事のことや、他にも実家との兼ね合いが色々とあるのだが、それが怜那としては不満に思っている、ということを話した。紗雪は黙って聞いていた。
…冷静だな。私より大人かも。
「そういう不満って、キチンと話しても良いと思う。紗雪なら言う。まあ、ママはそんなことしないだろうけどね。」
一通り話すと、紗雪はそう言った。その一言がそれまでの“不満に思うことに対する罪悪感”をスルリと緩めた。
「そっかー。なんだか、紗雪の一言で救われた!話して良かったー。」
怜那の言葉に、得意げに微笑む紗雪はいつの間にか大人の顔になっていたようだ。
「ところで、おかわりしていい?」
「いいよ。ママ、もう1本飲もうかな。そうだ。もう一品、何か食べようっと。」
「何にするの?紗雪も食べる!」
「チーズにしよっかな~。」
「チーズ⁈」
紗雪が歓声をあげる。
ほろ酔いで登場させた一品は「クリームチーズ&黒こしょう」。粗挽きブラックペッパーと、バジルの入った小鉢に、角切りのクリームチーズが入っている。添えられたピックでチーズを刺し、ブラックペッパーとバジルを絡めながら食べる。ブラックペッパーは、カリッと粒を噛んだ時の、風味が広がる感覚が気に入っているので、怜那は粗挽きを使うことにしている。
「このブラックペッパーの粒を噛んだ瞬間がいいのよね。」
紗雪は、おかわりした納豆もそこそこにピックを手にし、一人前のことを言う。
「もうブラックペッパーの魅力がわかるの?」
「知らなかったの?」
怜那のマネをして、背伸びしているだけだと思っていたのだ。そんな怜那を意外そうに紗雪は見つめる。
「また酒盛りしてんのかよ。…お。コレ何?食っていい?」
翔がやってきた。
「どうぞ。…クリームチーズだよ。」
「うま〜!」
翔は好き嫌いも多いが、食べず嫌いも多いので、こうして手を伸ばすことは珍しい。
「ブラックペッパー、大丈夫になったの?」
「おう。知らなかったのかよ?」
驚く怜那を不思議そうに見ながら、翔はピックを忙しく動かす。
翔は、コショウをはじめ、スパイスがとても苦手…だったのだ。いつの間にか“苦手”は過去形になっていた。
…知らないうちに、二人ともオトナに近づいているんだなあ。
ほろ酔いで嬉しくなった怜那だった。