飽きない奴等だな。
「わーい。お肉だー!」
「お。うまそう!」
今夜は子供たちは好物の回鍋肉。怜那はあまり好きではない。とはいうものの、一旦は一緒にテーブルにつき、少しだけ一緒に食べることにしている。後でビールを飲むときにゆったりと食べたい日は、この時間は少しだけ食べておくのだ。
子供たちは肉が好き。特に息子の翔は、肉が大好きだ。一生懸命作った何かよりも、シンプルに焼き肉のタレで味付けした肉の方が喜ぶ。メニューに困ったら、小間切れ肉や、薄切り肉を炒めてしまえば良いので、考えようによっては楽だ。
「ごちそうさま~!」
翔は山盛りのご飯と大盛りの回鍋肉をペロリと平らげ、もちろん、サラダや味噌汁もきちんと食べて、食器を下げる。さすが男の子。気持ちの良い食べっぷりだ。
「ごちそうさまー。」
続いて紗雪も翔の半分くらいの量の夕食をきちんと食べ終えると食器を下げる。
「今日は、何?」
食器を下げに来た紗雪はニヤリとしながらきく。
「エ?」
「あの様子だと、あるんでしょ?」
マカナイーノのことを言っているのだ。夕食の様子で、バレてしまっているのだ。
「さ。お風呂や宿題、すませなさいよ。」
「はーい。」
「とぼけてもムダよ。」
翔はすぐに風呂に入りに行ったが紗雪はまだキッチンにいる。
…あーあ。始まった。紗雪は夕食よりもマカナイーノをたくさん食べることもしばしばなのだ。同じメニューを夕食に出したときよりも、怜那が一杯やっている時の方がしっかり食べるのだ。
「さてと…。」
子供たちが部屋に引き上げたころで、怜那のリラックスタイムだ。マカナイーノとビールを並べて椅子に座る。
今日は、“茹でササミ”だ。茹でたササミを一口大に裂きながら氷水でしめただけのシンプルなおつまみ。ポン酢醤油でいただくのだ。好みで生姜やワサビ、ゆず胡椒などをポン酢醤油に入れる。怜那はゆず胡椒がお気に入りだ。
小皿にポン酢醤油と、ゆず胡椒を入れ、ビールをグラスに注いで一口飲むと、“今日も一日お疲れ様”と心の中で言う。ゆったりとした気持ちでササミを口に運ぶ。ポン酢醤油の酸味とゆず胡椒の爽やかな辛さが、何とも言えない。
「あー。幸せ。」
一人きりの静かな時間に幸せを感じる。
しかし、静かなのは、そこまでだった。
「見~つけた!」
マカナイーノハンター、いや、紗雪がいつの間にかやって来ていたのだ。
「今夜は、茹でササミかあ。」
ニヤリとしながら箸と小皿を出して、隣に座る。
「待ちなさい。誰が食って良いって言ったのよ!」
「これ、紗雪が来るのを予測した量じゃない?こんなに一人で食べたら、ママはおデブになっちゃうでしょ?」
確かに横取りされても良いように少し多めに用意しているのだ。しかし紗雪の食べっぷりときたら、回鍋肉の時より箸の進みが速い。もちろん、ゆず胡椒は、たっぷりである。
「夕食をそれくらいしっかり食べなさいよ。」
「マカナイーノをつまむ方がおいしいんだもん!」
「何よ、ソレ?」
いつもの会話だが、油断はできない。うっかりしていると、紗雪が完食してしまうからだ。
「またやってんのか。二人とも飽きない奴等だな。」
トイレに行こうと部屋を出た翔が、階下の毎夜恒例のやりとりを聞いて、つぶやくのだった。