玉子の気分じゃないけど。
ケトンダイエットを始めてから、怜那は朝食時、白米の替わりに“キャベツ焼き”または“モヤシ焼き”を食べるようになった。耐熱容器に薄くココナッツオイルを塗り、粗く切ったキャベツを敷き詰める。中央が少し低くなるように入れ、軽く塩胡椒。ここへ、豆腐か卵を乗せ、蓋をしてオーブントースターで焼く。豆腐はポン酢醤油か醤油がよく合う。アツアツの豆腐が、寝起きのお腹に嬉しい。また玉子は、タイミングが良ければ、怜那の一番好きな火の通り具合になる。黄身がトロっとしていて、垂れそうで垂れない、まだ透明感のある状態の時が一番好きなのだ。もちろん、紗雪もお気に入りだ。「今日は玉子の気分じゃない。要らない。」と言っていても、怜那がこれを食べていると、途端に気が変わる。
今日はキャベツ焼きで玉子にした。
「ターマーゴー。」
ハフハフと食べていたら紗雪の声が。顔を上げると紗雪がニンマリしている。
「ちょーだい!」
半分かじった黄身を狙っているのだ。
「ヤダ。」
怜那はニヤリとしながら食べるフリをする。
「う゛あああぁ~!」
紗雪もわかっていて悲鳴をあげる。
「玉子の気分じゃないって言ってたよね?」
「その玉子は別!お願い!」
「ご病気だから仕方ないわねー。」
黄身をそっと口に運んでやると、実に幸せそうな表情を浮かべてモグモグと食べる。
「お前、中3だろが。幼稚園の頃と変わんねーな。」
「大きな幼稚園児がいるなー。」
「美味しいんだもーん。」
紗雪は翔や恭兵の嫌味もお構いなしだ。
「明日から、紗雪の分も用意しようか?」
「火の通り具合でママのを分けてもらうからいい。」
「何よソレ〜。」
怜那が苦笑するも、紗雪はお構いなしだ。
「ママの朝ご飯を取ったらダメだろう。」
「これだけは聞けない。」
次はキャベツをつつく。
「もう。ママの朝ご飯がなくなっちゃうじゃないの!」
紗雪の食べっぷりに、怜那がとうとう音をあげた。
「いい加減にしないか!」
珍しく恭兵が怒った声を出した。
「ごちそうさま〜。」
その様子に、紗雪はちょっとしょんぼりして、そそくさと席を立っていった。
「何もあんなにきつく言わなくても…。」
食後のコーヒーを飲みながら考えごとをしている恭兵に声をかける。
「いや、いつまでも、このままでは困るんだ。」
「え?」
少し冷めたコーヒーを喉に流し込んでから、恭兵は口を開いた。
「…また、話すから。行ってくる。」
「変なの…。」
いつもと違う恭兵の様子が気になって、上の空で後片付けをする怜那だった。




