水も滴る食いしん坊。
「さてと、始めようかな。」
紗雪がスイミングに行っている、ある夕方のこと。一人の夕食の支度にとりかかる。スイミングスクールの送迎バスが自宅近くを通っているので、この時間帯はゆったりできる。
スイミングの日は、早い時間に夕食を済ませてから行っているし、翔も塾があるので、同じように食事を済ませている。あとは怜那の夕食だけなので、家事がひと段落ついたタイミングで、ゆったりと始めるのだ。こういう日のマカナイーノは、しっかり系だ。普段は、おつまみ程度だが、スイミングの日は夕食そのものがマカナイーノなのだ。怜那にとって、楽しみな曜日である。
今日のマカナイーノは“キャベツとシーフードの白ワイン蒸し”。キャベツとアサリ。そして、その他、冷蔵庫にあるシーフードやキノコ類をニンニクと白ワインで蒸し焼きにするだけの一品。味付けは、塩と唐辛子。香り付けにオリーブオイルとバジル。シーフードは、エビ、ホタテ、タコ、イカ、ムール貝など、いずれも冷凍のもので充分である。怜那が肉類が苦手なので、シーフードは冷凍庫に常に待機している。
「たっだいまー!」
ビールを片手にキャベツをちぎっていたら、元気な声が玄関で聞こえた。と思ったら、勢いよく紗雪がキッチンに飛び込んできた。
「おかえり。って早くない?髪、びしょ濡れじゃないの!」
「一本早いバスに乗ってきたの!だってママは、ゴハンまだでしょ?」
満面の笑みで言う紗雪の髪からは、水が滴っている。
「何やってんのよ。髪くらい乾かしてからバスに乗りなさいよ。」
「いいの!マカナイーノ食べたいんだもん!」
言うが早いか、紗雪は箸と小皿を二人分用意して、テーブルにつく。スイミングでお腹が空くのと、マカナイーノは別腹なのとで、食欲全開だ。
「仕方ないわね。ホラ、出来るまでの間に洗濯物出してきて。」
「はーい。」
“権利”を得た紗雪はニコニコと洗濯物を置きに行く。
「いっただっきまーす!」
蓋をしたフライパンがテーブルに運ばれると、紗雪が早々と声を上げる。蓋を開けると、湯気とともにシーフードの香りが広がり、鼻をくすぐる。怜那がオリーブオイルをひと回しかける。
「さあ、どうぞ。」
「わーい!いっただっきまーす!」
もう一度、いただきますを言ってから、箸を手に取る。
「やったあ!今日はエビが入ってる!」
「あ。ママの分、残しといてよ〜。」
「わかってるよ。」
言いながら、熱々のエビにかぶりつく紗雪だった。