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世界で一番美味しい料理。

大豆、レッドキドニー、ひよこ豆。茹でた3種類の豆をパルメザンチーズで和える。バジルやニンニク、塩胡椒、オリーブオイルを一緒に使う。

豆は乾燥したものを自分で茹でるのが一番美味しい。が、急に思い立った時、時間がないときは、水煮したものを使う。

以前、イタリアンのお店で“三色豆のカッテージチーズ和え”というものを見かけ、その時は時間がなくて食べなかったが、とても気になったので、後日、冷蔵庫にあったパルメザンチーズを使ってそれらしいものを作ってみたら気に入って、今に至る。これは怜那の友人には評判の良い一品だが、相川家では女子チームしか食べない。なので“マカナイーノ”に分類される。


桜が葉桜に変わりつつある、暖かい昼下がり。今日は怜那の友人、大川美千子が来るのだ。彼女は十中八九、手ぶらでは来ないし、何でもないときに気前よく「怜那が好きそうだから。」と、気に入ったものをプレゼントしてくれるのだ。なので、お礼として、手作りのスイーツやマカナイーノをおすそ分けすることにしているのだ。美千子は独身で独り暮らしで、一人分の食事を作るのが億劫らしく、マカナイーノは彼女にとってもありがたいのだ。


─ピン・ポーン!

美千子の姿がモニターに映る。

「いらっしゃーい。」

「お邪魔しまーふ。アップルパイ買ってきたの。翔くん、好きでしょ?」

「わあ。ありがとー!」

「じゃあ、先にお礼を渡しておくわね。3色豆のサラダ。」

アップルパイの箱と引き替えのように容器を差し出すと美千子はもうワクワクしている。

「これ、美味しいんだよねー。」

「今、少し食べる?」

「食べる!」

美千子の前に、アップルパイの皿と、豆を盛った小皿を置く。

「いっただきまーす!」

アップルパイをそっちのけで豆を頬張る。

「お昼ごはん、食べてないの?」

「食べた。コレは別腹。」

「紗雪みたいなことを言うわね。」

「ウフフ。私もマカナイーノのファンよ。」

美千子のこの食べっぷりが怜那はとても好きだ。美千子は何かと気が合うし、姉御肌で頼れる。そして怜那の料理のファンなのだ。

「翔くん、高校はどう?」

「さっそく友達ができて、遊び回ってる。」

「元気でよろしい。紗雪ちゃんは、どう?中2よね。彼氏できた?」

「いないみたいよ。マカナイーノ食べてる方がいいんだって。」

「ワハハ!変わらないね〜。」

「相変わらず色気ないでしょ?」

話しながらアップルパイをつつく。ぱりっとしたパイ生地とまだシャキシャキ感が残るリンゴと、甘さ控えめなカスタードクリームが絶妙なバランスを醸し出している。

「美味し!ドコのケーキ屋さんの?」

「駅前に出来た、アップルパイ専門店。今のお気に入りなの。」

美千子は、美味しいものが大好きで、常にアンテナを張り巡らせているので、彼女の手土産はハズレがない。


「そうだ。もう一品持ってく?ポテトサラダも作ったの。」

「ホント?」

帰り支度を始めていた美千子の目が輝く。

「怜那のポテトサラダも、美味しいのよね〜。」

「相変わらず褒め上手だなあ。」

「ホントのことだもの。あるシェフが言うには、世界で一番美味しい料理は家庭料理だそうよ。」

「そんなこと言われたら、また何か用意したくなるじゃないのー。」

「次も楽しみにしているわよ。じゃあ、翔くんと紗雪ちゃんによろしくね。」

殺し文句を残して、車に乗り込むと、嬉々として車を発進させた美千子だった。






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