風邪気味です。
オムライス用に作ったケチャップライスが余った。怜那は嬉しそうにタバスコを混ぜ、ココット皿に移した。今日の容器はルクルーゼ。ラムカン・ダムールのチェリーレッドをセレクト。ケチャップライスの色によく映える。フタ付きなので、ラップ要らずなのも嬉しい。
ケチャップライスが余った時は、たいてい翌日の怜那の昼食になるのだ。
「調子どう?」
「イマイチ。」
「うどんにしようか?」
翌日の昼。翔が風邪気味で、まだ受験を控えているので、大事を取って休んだのだ。
「うどん?食う食う!醤油のつゆにして!」
元気よく答えると、ドサッとソファに身を投げ、体温を測る。
翔はダシの香りが大好きだ。小学生の頃は、ダシをとっていると「いい匂~い!」とキッチンにやってきたものだ。彼に限っては、アロマセラピーよりも“ダシセラピー”の方が有効だろう。
「やっぱり、いい匂いだなぁ。…うあー。37.8℃だって。やべー。」
「ダシセラピーで、すぐ良くなるんじゃない?」
「じゃあ早くして。腹減った。」
熱がある割には元気が良い。
「ちょっと待っててね。」
つゆを作る傍らで麺を茹でる湯を沸かす。お気に入りの冷凍讃岐うどんだ。コシがたまらない。二つの鍋をチラ見しながら具を用意する。大きめの油揚げを少し濃いめの味付けで軽く煮る。カマボコを3枚スライスする。乾燥ワカメを水で戻す。
オーブントースターの前では、ラムカン・ダムールが登場。昨夜の、ピリッとさせたケチャップライスにチーズを乗せて焼く。今日は玉子も乗せることにした。焼くと、表面に出ているライスがカリッとして、その食感もまた旨し。
アルミホイルで蓋をして、焼き始める。
洗い物をしつつ、ガタゴトとIHクッキングヒーターとオーブントースターの間を行き来する。
「お待たせ~。」
カウンター越しに、翔にうどんを出し、ダムールのアルミホイルを外す。仕上げにこんがりさせるのだ。
「何を作ってるの?」
オーブントースターの匂いに気づいた翔がうどんをすすりながら聞く。
「カリカリ・ケチャップライス。」
「ふーん…?」
─チーン!
オーブントースターが鳴り、ダムールをテーブルに運ぶと、さっきまで不思議そうな顔をしていた翔が、ダムールを目で追う。
「…美味そう。」
うどんを食べる手が止まっている。思えば、いつも平日の昼食に食べているので、子供達は見慣れていないかもしれない。
「食べてみる?」
もう1本、スプーンを出してきて、翔の前に置く。すぐさま、箸をスプーンに持ち替える。
「わ。うま!カリッとしたところがイイ!」
「うどん、食べ終わった?」
「あ…。」
思い出したようにうどんをすする。
「ごちそうさま!」
あっという間に、つゆまで飲み干して、丼を下げたが、翔はまだダムールを見ている。
「よかったら、食べていいよ。」
怜那は今日は少し多いと思っていたので、ちょうど良いと、食べ始めていたそれを差し出すと、翔は実に美味しそうに平らげた。
「もうすっかり元気になったみたいね。」
「熱が下がれば、余裕!」
…頑張ってね。
翔の笑顔に、笑顔でエールを送る母、怜那だった。




