春を目前に。
生姜、ニンニク、酢、塩、料理酒。、ダシ汁。そして砂糖を少々を合わせておく。
メインになる野菜は白菜。サブの野菜は、人参。あとは、キノコ類。手に入れば、キヌサヤの緑が美しい。なければ、アスパラやブロッコリーでも良い。緑色の味が良いアクセントになる。シーフードは、冷凍庫から、常に待機している面々にご登場いただこう。エビ、イカ、ホタテ。冷蔵庫で半解凍しておいたもの塩胡椒してから、片栗粉をまぶす。
立春とはいえまだまだ寒い本日は、“フライパンごと八宝菜”。
温めたフライパンに油を少しだけ引き、緑の野菜以外の材料と合わせておいた調味料を入れたら蓋をする。白菜は少し蓋を持ち上げるくらいの量が良い。火が通ってくると、上がっていた蓋が閉まる。
「いい匂ーい!」
蓋が閉まった頃合で、紗雪がキッチンに現れた。
「見つかっちゃった~。」
怜那がいたずらっぽく言うと、紗雪はニヤリと笑い、小皿と箸を二人分、用意する。そして、フライパン用の鍋敷きも。こういうときは、やたら手際が良い。
「でーきた。」
蓋を開けて、ゴマ油をタラーリと回しかけて、テーブルに運ぶ。
「いただきます!」
二人揃って箸を持つ。紗雪の箸の動きの速いこと。速いこと。怜那がビールを味わっているうちに完食してしまいそうな勢いだ。
「…ゴハン、足りなかった?」
今夜は子供達は特大ハンバーグを煮込んだ、ハンバーグシチューを食べた。怜那は、その時間、バタバタしていたので、ガッツリなマカナイーノを食べることにたのだ。
「いつも言ってるでしょ。別腹よ。べ・つ・ば・ら!」
「もうお年頃なのに、食い気ばっかりみたいね。」
「ほっといて。興味ないの。手紙をもらうことはあるけどね。」
「ふーん…。」
一応、知らないフリをして相づちを打つ。実は噂には聞いているが、紗雪はけっこう人気者らしい。わざわざ「紗雪ちゃん、モテるんですってねー。」と吹き込んでくる人がいるのだ。
「けっこう、同級生の子たち、男の子と歩いてるよね。」
「そうだね。」
紗雪はそんなことより、エビを1個でもたくさん食べたいようで、箸が忙しい。
「紗雪はデートとか、しないの?」
「興味ない。ウチでゴハン食べてる方が幸せ。」
「なーんだ。恋バナの一つでも聞きたかったのに~。」
「ホタテ、も1個食べていい?」
カマをかけてみるが、本当に興味がないらしい。言うが早いか、口に運ぶ。この色気のなさ、恭兵はさぞかし喜ぶだろう。
「ごちそうさま~。今日もマカナイーノおいしかったです!」
満足顔でお皿を下げて、テーブルを拭いてから紗雪は部屋に引き上げていった。
「ちょっと…。週末に出かけるんだけど、小遣いくれない?」
洗い物をしていたら、翔が来た。キョロキョロと様子をうかかいながら小声だ。
「いいけど、どこ行くの?」
「え、映画。男同士で。」
キョロキョロしたり、声を潜めたり明らかに目が泳いでいて、見るからに怪しい。
…色気づいてんのは、こいつだな。
「息抜きも必要だから、そんなにコソコソしなくても良いじゃない。女の子?」
「う…。実は…。」
翔はギクリとして、あっさり白状した。
「どんな娘なの?」
「…塾で一緒…。」
うつむいて、ボソボソと答える。
「そう。まあ、私に会わせられないような娘じゃないなら、気にしないわよ。コソコソしなくても大丈夫よ。ほら。」
「ありがと…。」
財布から五千円札を出して差し出すと、照れくさそうに受け取り、部屋に戻って行った。
春は、もうすぐ。翔の一足早い春を知って、しみじみした怜那だった。




