お義父さん、ありがとう~!
年内も差し迫る日曜日のこと。恭兵の実家に顔を出した。恭兵の父、秀夫が、「持って行きなさい。」と差し出した箱。それは冷凍甘エビの箱!しかも一キロ!エビが好きな者同士、秀夫と怜那は、何気に話が合う。
「ありがとうございます!」
元気よくお礼を言って受け取ってからも、心の中でもお礼を言い続けるくらい怜那は喜んだ。
刺身はもちろんのこと。こんなにあるのなら、刺身だけではもったいない!殻をむく手間はあるが、これは、しっかり楽しみたいところだ。味噌も卵も美味しいし、殻は良いダシが取れる。
家に帰って箱を開けると、無造作に詰められて、箱の形に凍った甘エビの塊が現れる。
「まず、使いやすくしないとね。」
半解凍の手前の状態なので、ほぐすにはちょうどいい。手早くほぐして、今夜の分だけは冷蔵庫へ。あとはジップロックの中に平たく並べて冷凍庫へ。
甘エビの解凍を待ちながら、味噌汁、煮物、サラダと夕飯の支度を進める。味噌汁は白菜と油揚げ。煮物は干し椎茸とコンニャクを煮た。サラダは長芋とカリカリじゃこのサラダ。
「さてと。」
冷凍庫の、程よく解凍された甘エビを取り出して、殻をむく。卵と、味噌を楽しむ頭はそれぞれ別の器を用意する。大皿にツマを敷き、買ってきた刺身とともに殻を剥いた甘エビを並べる。その皿の片隅に頭や卵の小皿を乗せる。
「お。豪華だな。」
恭兵が相好を崩す。家で食事をする機会が少ない恭兵にとって、休日の夕食は楽しみなのだ。
「さてと…。」
怜那がキッチンで腕まくりをする。
後片付けが終わり、子供達は引き上げ、ダイニングには水割りと共に煮物を楽しむ恭兵だけ。
「お。その声は、何か出てくるのか?」
恭兵が嬉しそうに言う。
「まあねー。」
軽く微笑んで、冷蔵庫から、甘エビを取り出す。このために、少し多めに剥いておいたのだ。そして、キムチ。
フライパンに油を熱し、キムチを軽く炒める。そこへ甘エビを投入して火を止める。生で食べられるものなので余熱で軽く熱を加える程度で充分と読んだのだ。味見してみると、アツアツのキムチにエビの半生の感じがまた良い。
「御試食願います。」
恭兵の前にそっと皿を置く。
「へぇ、食感が面白いな。」
恭兵はエビフライ以外はそんなにエビを好まないので、ちょっとドキドキだったが、なかなかの手応えだ。…と思っていたら、恭兵の影からヌッと箸が現れた。
「おいしー!もっと食べていい?」
エビ好きな紗雪がいつの間にかやって来ていたのだ。ビックリして恭兵と二人で思わず笑ってしまった。
「おいおい。ビックリさせるなよー。」
「なんで驚いてるの?ねえ、明日の夜、これ、ご飯にかけて食べたーい!」
「いいよ。決まりね。明日のメニューが決まって助かったー!」
紗雪は、驚かれることをした自覚がないまま、箸を忙しく動かしている。これでいいのか?中学一年生!もうすぐ二年生だぞ?
紗雪には驚かされたが、明日のメニューが決まったこと、しばらく甘エビを贅沢に楽しめることで、義父に心から感謝する現金な嫁、怜那だった。




