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ダメ元でしたが。

「紗雪が喜ぶと思って取り寄せてみたんだけど、冷凍モノは、焼き松茸には向かなかったよ。」

まだ暑さが残る9月の週末のこと。怜那の実家に顔を出した際に怜那の父、宗一郎が差し出したのは、冷凍の松茸の袋だった。なんと、1キロ入り!怜那の両親は、孫にはとことん甘いのだ。

松茸は、焼いたものを裂きながらポン酢醤油でいただくのが最高なのだが、今回は違う食べ方をした方が良さそうだ。

「松茸ご飯だと、ツマミにならないのよねー。」

ありがたく頂戴し、家に帰る車中、助手席でブツブツ言いながら考える。子供達には松茸ご飯を炊く予定だが、怜那は晩酌で松茸を楽しみたいのだ。

とりあえず夕食には松茸ご飯を登場させ、ひと段落。お一人様タイムを迎えた怜那は、冷凍松茸を前に腕組みをする。

「ヨシ!ダメ元でやってみよう。」

せっかくたくさんあるのだから、と思いついたものを試しに作ってみることにしたのだ。

なるべく小さめのものを一本取り出し、半解凍の状態でスライスして、サッと茹でる。粗熱が取れたところで、調味液に漬け込む。少しだけ待って、味が馴染んだところで、味見。和風のマリネにできないかと考えたのだ。味が馴染んだと思われるところで、ドキドキしながら口に運ぶ。

「お。いいんじゃない?」

試作品の出来に喜んでいると、ちょうどいいところに紗雪がやってきた。

「何やってんの?」

「ちょっと味見してみて。」

自分の感覚だけでは不安なので、紗雪がどんな反応をするのか、ドキドキしながら紗雪の口に運ぶ。モグモグと味わう表情を不安げに見る。

「…どう?◯?×?△?」

無言で紗雪は首を振る。ダメだったかとドキリとする怜那。

「◎だよ‼︎めっちゃ美味しい‼︎何で味つけしたの?」

紗雪が感動して言うと、怜那はホッとしたのと嬉しいのとで悲鳴をあげそうになる。なにせ、ダメ元だったのだ。喜びはなおさらである。

「ねえ、ママったら‼︎教えて。今までにない味つけじゃない?」

「白醤油と、柚子胡椒よ。」

得意げに答える怜那。他には、ニンニクと酢、オリーブオイル、ダシ汁なども使ったが、あくまでも松茸の風味を損なわないよう、普段のマリネに比べ、酢やニンニクをかなり控えめにしたのが成功のカギだったようだ。

「これ、パパには?まだ出してないの?まだ起きてる?」

「書斎にい…」

紗雪は、怜那が言い終わらないうちに小皿に取り分けて書斎に走っていった。恭兵は書斎で仕事をしながら軽く飲んでいるのだ。…とすぐに紗雪が戻ってきた。手にはグラスを持っている。

「ゆっくり味わいたいから、水割りおかわり欲しいって。」

紗雪は氷をグラスにつぎたして水割りを作り、意気揚々と運んでいった。

しばらくして、怜那のスマホが鳴った。恭兵からのメッセージが入っていた。

『松茸のツマミ、うまい‼︎また明日にでも出してくれると嬉しいです。先に寝ていてください。おやすみ。』

『りょ。仕事もほどほどにね。おやすみ。』

返信してから、達成感たっぷりに洗い物をする怜那だった。

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