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おばあちゃん。

家事をしていたら、インターホンが鳴った。モニターを見ると怜那の母、恵理子だった。

返事をして、急いで玄関ドアを開けると大きな買い物袋を下げている。

「野菜ある?買い物に行ったから、ついでに買ってきたの。」

「あ、ありがとう…。」

こうして食材を差し入れてくれることはありがたいのだが、実のところ、食べないものまで「美味しそうでしょ?」と、買ってまで差し入れてくれることがあるので、何が出てくるか、ヒヤヒヤなのだ。

「新タマネギが、キレイだったから。あと、ブロッコリー。イチゴ。紗雪ちゃんが好きでしょ?紗雪ちゃん、中学校どう?そうそう!昨日ね、ドライブ先で生ワカメを見つけたの。」

「わ!良いタマネギ!ワカメも美味しそう‼︎」

「でしょでしょ。翔くん、好きだったわよね。」

…今日のは、アタリだわ。

「助かった~。ありがとう。みんな喜ぶわ。」

「ケーキ買ってきたの。上がっても良い?」

恵理子がケーキの箱を差し出して微笑むと、怜那も笑顔で頷く。恵理子は、怜那の淹れる紅茶が飲みたくて時々こうしてケーキを買ってくる。そして、ケーキ好きなだけあって、ケーキだけは(差し入れと違って)怜那の好みを外したことがない。今日のケーキは、ブルーベリーのタルト。レアチーズタルトの上に、これでもかと言わんばかりにブルーベリーが乗っている。タルト生地も、レアチーズもブルーベリーも、文句無しに美味しい。


「ティーポット、替えたの?」

恵理子はルクルーゼのカシス色のティーポットにすぐ気付いた。

「うん。蓋に大きなヒビが入ってね。いつ割れてもおかしくない状態だったから。」

「そう。いい色ね。」

と言うものの、恵理子だったらこの色のセレクトはないだろう。恵理子と怜那は好みが全く合わない母娘なのだ。

「あー。美味しかった。ごちそうさま。…あ。ゆっくりしてて。夕飯の下ごしらえするだけだから。」

「今夜は何にするの?」

「メインは未定。サイドは、翔はオニオンスライス。私と紗雪は、キノコとタマネギのサラダ。」

話している間も怜那の手は動く。キノコを茹でるお湯を沸かし、タマネギをスライスして、辛さをチェック。ワカメを塩抜きする。

お湯が沸いたら、キノコをサッと茹でてザルにあげる。塩抜きしたワカメを刻む。ボウルにポン酢醤油とごま油を用意して、粗熱が取れたキノコとタマネギ、ワカメを入れて軽く和える。

「美味しそうね。」

「味見する?少し持ってく?」

「いいの?」

恵理子は目を輝かせる。怜那の実家は両親だけで住んでいて、食事も二人だけでお気楽になっているため、時々こうして、おすそ分けしてもらえることが嬉しいのだ。それに実は恵理子もマカナイーノのファンなのだ。

「はい。どうぞ。」

小皿に盛ったそれは、恵理子に夕食を待ち遠しくさせた。小さな容器に持たせると、嬉々として帰っていった。


夕方になって、二人が帰ってきた。翔は慣れているのでそうでもないが、新入生の紗雪は雑巾のように疲れ果てて帰ってくる。

「お帰りー。今日はおばあちゃんが来たよ。」

「ほんと?」

二人が途端に元気になる。会えなくても、恵理子が自分達を気にかけてくれることを知っているのだ。

「デザートにイチゴとブルーベリーのタルトがあるよ。」

「やったあ!」

いそいそと手を洗いに行く二人だった。


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