愛してるから…。
「今日は何にしよっかな。」
子どもたちが部屋に引き上げた夜10時過ぎ。孤島のように灯りのついたキッチンで、怜那は耐熱容器の熱い油を見つめながらつぶやく。今夜のマカナイーノは、アヒージョなのだが、具材が決まっていないのだ。
耐熱容器に油を入れ、オーブントースターで温める。ニンニクチップと唐辛子を入れてプチプチさせたら塩とバジルを少々。好きなものを入れてオーブントースターで再び加熱したら、アヒージョの出来上がりだ。牡蠣やホタテなどの貝類もおいしい。海老も良い。キノコも捨てがたい。季節なのでアサリというテもある。
「…やっぱりアレにするか。」
低い声でつぶやく。アレとは、具材が決まらない時のお決まり、“大入り”だ。本日は、冷凍室から、エビ1個、イカ2切れ、牡蠣1個。冷蔵室から、豆腐角切り1個、明日の味噌汁用に買っておいたアサリから、2個拝借。野菜室から、シメジと生椎茸を少々。
大きめの容器が満員御礼になるのを見て、ニンマリする。出来上がりは面白いほどカサが減るので、その違いを見るのもまた楽しいのだ。
待つこと10分少々。その間に、バゲットを角切りにする。アヒージョの汁を吸わせて食べるのだ。バゲットを食べるなら、バターも少し欲しいので、バターも用意する。怜那はこの時間、普段の料理の時よりも、かなり楽しそうである。
「キャー!」
振り返ると、暗い中で誰かと目が合う。恭兵が笑いをこらえてテーブルで待っていたのだ。怜那が夢中になっている様子を見て、いつ気づくのかと、静かに様子を見ていたところだった。
「やっと気づいたのか。俺は帰ってきてから、ダイニング《ここ》を何回か通っていたんだぞ。」
恭兵が爆笑する。言われてみれば、もうスーツではなく、スウェット姿だし、手早くシャワーを浴びたらしく、髪も濡れている。怜那は相当夢中になっていたようだ。
「ただいまくらい言ってよ、もう。」
マイ・ワールドに入り込んでいるのを見られた気まずさから、怒ったフリをする。…と、ふわりと抱きしめられる。
「え?ちょっと、どうしたの?」
「そのままで聞いて。」
「は、はい!」
…何なの?子どもたちに見られたらどうしよう。
久しぶりの胸のぬくもりと、見られたらどうしようという戸惑いからドキドキする。
「愛してるから、俺にも分けてくれ。」
「…は?」
─チーンッ!
怜那の間の抜けた声とほぼ同時にオーブントースターが鳴った。
「今日のも、美味そうだな。」
恭兵はニヤリと笑みを浮かべて額にキスをする。
「もーっ!何なのよ!」
…こいつが、会社で若手トップで最年少の部長だなんて信じられない!
恭兵がクククと笑いながら、二人分のグラスやコースターを並べる。
「さ。運んでよ。熱々のうちに食おうぜ!紗雪が来たらなくなっちまうぞ。」
まだいたずらっ子のような表情をしている。
恭兵に、してやられた夜だった。