食欲はあるよ。
ストウブの鍋に油を熱し、手羽を並べる。皮に焦げ目がついたら裏返す。鍋肌にくっつかないように気をつけて表面をこんがりさせ、一旦取り出す。残っている油でニンジン、玉ねぎ、ジャガイモ、マッシュルームを炒める。ニンジンは大きく切る。玉ねぎは、くし切り。マッシュルームは丸ごと。ジャガイモは小さな物が手に入ったので皮ごとそのまま。表面が色が変わってきたら、再び手羽を入れる。弱火にして水とトマト缶を入れたら蓋をして煮込むこと15分。このあとルウを入れて少し煮込んだら完成だ。
「何を作ってるの?お昼ごはん?」
キッチンタイマーを15分にセットして、洗い物を始めたところで、紗雪がカウンター越しにのぞき込む。
「そう。手羽があったからね。手羽のスープカレー。夜も食べられるでしょ?」
「わあ!美味しそう!」
紗雪が嬉しそうに言う。
「体調どうなの?食欲はありそうね。」
「しんどい。けど食欲はあるよ。」
そう。紗雪は熱を出して、塾の春期講習を欠席しているのだ。
今日は昼食がマカナイーノの“手羽のスープカレー”。紗雪はカレーが好きではない。が、手羽もスープカレーも好きなのでウエルカムなのだ。そして翔はカレーは好きだが手羽が好きではない。なので、手羽のスープカレーはレギュラーメニューにできないということで“マカナイーノ”。よって、昼食で手羽を全部食べ、新たに違う肉を入れて煮込んでしまえば、問題なし。翔は弁当持参で春期講習なので、今日のお昼は怜那と紗雪の二人だけなのだ。
「お昼ごはん、何時?」
テレビを観ていた怜那に、紗雪がたずねる。
「12時くらいでいいんじゃないの?」
「…お腹すいた。」
時計を見ると11時。手羽の匂いに腹時計が進んでしまったようだ。
「…先に温めて、食べてもいいよ。」
紗雪はいそいそと温めてスープボウルを用意する。
「手羽、3個食べてもいい?」
…やっぱりね。手羽が食べたかったのね。
「いいよ。野菜もたくさん食べてね。」
「はあーい。」
嬉々としてスープカレーをよそう姿は元気そのものだ。
「…おかわりしていい?手羽、もっと食べたい。」
「いいよ。調子は良くなったの?」
「頭が痛いし、クラクラする。…でも、コレは食べたい。」
紗雪の手羽好きには、いつも驚かされる。実は今日も熱が38.3℃もあるのだ。医師にかかったら、お粥でも食べさせるように言うだろう。しかし、お腹の調子は良いので、紗雪の場合、手羽の方が元気になるだろう。熱があろうが、頭痛がしようが食欲があるのだから。
「もっとおかわりしていい?」
「ママの分、残しておいて!」
病人とは思えない紗雪の食欲に唖然とする怜那だった。