男子会?
今夜は鶏のから揚げ。家族の大好物。しかし怜那はあまり好きではない。というわけで、マカナイーノ登場。今夜のマカナイーノは“ナスの揚げびたし”。揚げ物のついでにナスを素揚げして、熱いうちに生姜をきかせたつゆにひたす、だけ。里芋やピーマン、シシトウ、インゲン豆で作っても美味しい。
お代わりやつまみぐいは想定内なので、多めに用意している。恭兵の突然の帰宅も想定内だ。恭兵は、から揚げに限っては、少しでも残しておかないと本気で落ち込むので、がっつりと用意することにしているのだ。そしてマカナイーノも。ナスの揚げびたしは恭兵の好物だし、里芋のそれは、紗雪の、ピーマンやシシトウのそれは、翔の好物なのだ。
「いい匂~い!」
「やった!から揚げだ。」
匂いにつられて、呼ぶ前にテーブルに集まる子どもたち。こうして喜んで貰えるので、自分が好きでないものでも作り甲斐がある。
「早く!は・や・く‼︎」
子供たちのラブコールもまた楽しい。
「じゃあ、カウンターの物を運んで、食べ始めてて。から揚げはすぐに参ります‼︎」
「わーい!いただきまーす!」
運ぶが早いか、箸が忙しく動く。
アツアツのから揚げを盛った皿が登場すると、歓声が上がった。気持ちの良い食べっぷりに、山盛りで応えた。恭兵の分を取り分けて、怜那は2個だけカウンターの中でつまんだ。それ以外はすべてテーブルに運んだのだ。
「お。から揚げか!」
突然の恭兵の帰宅に驚きながらも笑顔だ。
「帰り、遅いんじゃなかったの?」
「美味しいモノがありそうだから、急いで帰ってきた。」
ニヤリと笑う恭兵。
「最近、早い日が多いよな。」
「センサーが作動する日は接待から逃げてくることにした。」
「仕事ってそんな風に逃げてきていいのかよ?」
翔が呆れ顔で言う。
「冗談だよ。接待が急に中止になったんだよ。から揚げの日でラッキーだった。」
「真に受けたじゃねーかよ。」
恭兵と翔が2人で笑う。相川家、男子チームも仲が良いのだ。
「さあさ。揚げびたしもありますよ。」
「これはこれは。本当にいいときに帰って来られたな。」
恭兵はますますご機嫌だ。
「ところでお前たち、春休みはそろそろか?」
「紗雪は先週、卒業式だったし、翔は昨日、修了式だったのよ。」
夫婦で卒業式などに出る家庭が増えているが、恭兵は滅多に出ない。出張が多くて、予定が組めないのだ。そのため、子どもたちのスケジュールも怜那から聞いてビックリするなんてこともたびたびである。
「…そうか。翔は三年生になるのか?」
「そうだよ。受験生だよ。…ところで、酔っ払ってる?」
「いや。飲み始めたばかりだから。」
「ちょっと、いい?」
翔はそう言うと、急いで部屋から問題集を取ってきた。
「数学を見て欲しいんだけど。ママじゃわからないって。」
「悪うございましたね。学生時代のことはてんで記憶にないんでね。」
怜那がふざけて言うと、男子チームが苦笑した。
「で、わからないのは?」
二人とも、まだ残っている料理をつつきながら、頭をつき合わせる。
…こんな質問をするようになったのか。頼もしいな。
恭兵は教えながらホッとしていた。怜那に任せっきりで、直接話す機会がめっきり減って、気掛かりだったのだ。
「あれって男子会よね?」
紗雪がカウンターで片付けを手伝いながらつぶやいた。
「そうね。ふふふ。」
から揚げと数学と揚げびたしで更けゆく春の夜だった。




