一人前食べたい。
夕食の支度もあと少しというところで、怜那はゆで卵を発見して声を上げる。
「あ、しまった!使わなくっちゃ。」
慌てながらも、何か使えないかと考える。何も思いつかない時は、スライスして添えても良いが、できれば手を加えたい。
「アレにしよう。」
一人でうなづき、 ココット皿に薄〜く油を塗ったら、ゆで卵を粗く刻んで敷く。そしてとろけるチーズを乗せて、その上にブラックペッパーをパラパラっと。オーブントースターのグラタンの火力で10分少々。焼き上がりが近づくと、チーズケーキのような甘い匂いが鼻をくすぐる。今夜のは、“ゆで卵のチーズ焼き”。
怜那が昼食に食べるつもりで卵を茹でておいたのだが食べ忘れたため、温かい一品にリメイクしたのだ。
「それ、ママのだけしかないの?ずるくない?」
テーブルに運ぶと、紗雪がココット皿を見つめている。
「あ。食べたい?食べ忘れたゆで卵を使ったものだから、みんなに出すの、どうかと思ってね。」
「待って。それは俺も食べたい。」
珍しく、翔も興味を示す。怜那は鍋敷きに乗せたそれを、二人の中間にスライドさせた。
「二人で食べて。助かったわ。」
二人が笑みを浮かべて分けっこをする様子を見て、怜那も笑顔になる。全体的にちょっと多いと思っていたところだったので、助かったこともあるし、何より、分けっこをする様子が微笑ましかった。
「ねえ、もっと食べたい。明日も作って。」
「紗雪も〜!明日は半分こじゃなくて、一個ずつにして。」
こういう思いつきの方が喜ばれることに苦笑してしまう怜那だが、喜んで食べてもらえることは、何にしても嬉しい。
「じゃあ明日は一個ずつでね!」
「わーい!」
二人とも嬉しそうに食事を進めている。こういう時に、料理を作る喜びの要素は、食べてくれる相手がいることがかなりのウエイトを占めていると、怜那は思う。
「ごちそうさま〜。」
「ごちそうさま〜。明日、お願いね。」
二人が食器を下げて、部屋に向かう。後ろ姿を見送ってから、ホワイトボードに『卵のチーズ焼き』と嬉しそうに書く怜那だった。