柿・二
マーサと付き合い始めてすでに半年が経っていた。マーサの中では半年続いた時点でベスト・レコードらしく、わたしは「それなら今まで何人と付き合ってきたんだろう」とうんざり思いながらも嬉しそうに笑う彼に微笑むしかなかった。結局のところ、幸せにしてもらってるのはぼくかもしれないな、と恥ずかしげもなくマーサは言う。
一真くんとはこの間偶然図書館で会った。わたしたちは相変わらず会釈を交わし、でも、それっきりだった。なにしろ、一真くんの隣には、それはそれは美人な女性が座っていたのだから。わたしは気を揉むのはやめた。
わたしはマーサと付き合ってから適当な格好をしなくなった。女の子らしい服装をしたり、マニキュアを塗ったり、髪の毛も随分つやつやになった。一真くんも随分変わったと思う。そんなモードな服を着ちゃったりして。
そんな相手を、二度と好きになることもないんだろう。そう思う。でも、きっと本気で恋をした相手は、マーサじゃなくって一真くんだったな。名前を呼ばれたときの吐息を思い出してしまう。
その後マーサを待ち合わせをして落ち着いたカフェに行った。女の子だらけでない、よくあるカフェである。マーサだって、随分わたしに寄せてきていると思う。
「柿のパフェだって! めずらしいね」
わたしは、そうだね、と言ってマーサの無邪気な笑顔を見た。マーサは柿のパフェに興味津々だったけれど、「うーん」と悩んで結局苺のパフェを注文した。
「なんで柿にしなかったの」
わたしは問う。
「きみが浮かない顔をしていたから」
マーサは淀みなく答えた。マーサのこういうところは、尊敬に値すると思う。
わたしは一真くんを突き飛ばすちょっと前に、また柿をもらっていた。面倒に思いながらも、食べられるように包丁を入れていく。熟した身を護るような硬い皮。扱いづらいけれど、それは、なるほど理にかなった構造だったのである。
わたしは、公園の隅に落ちていた、もう食べられはしないだろう柿に対して、そんなことを思い出していた。
柿という果物を今まで彼に当てはめて憎悪したり好きになったりしてしまっていたけれど、違うことに気がついた。こんな壁ばかり固くて内面が脆いなんて、まるで自分の生き写しなのに、どうして目を背けられていたのだろう。
わたしは柿を掴んだ。ぐにゃりとしていて気持ち悪い。そして、その柿に憤りのすべてを込めて思いっきり投げた。祖父の農作業を手伝って重いものを持って運んだ経験が生きて、その柿はとにかくよく飛んだ。空を切って切って切って終いに砂場にポトリと落ちた。とても呆気無く、転がりもせず埋まった。わたしは闇の帝王よろしく高らかに笑った。ブランコを漕ぐ小学生がはた迷惑そうにこちらを見つめている。
恋は相手を伴うもののようで、反対に自分との見つめ合いでもある。何が正解ということもない。人数を重ねたって、失敗したって、冷静に続けたって、楽しんだって。
またひとつ恋の終わり……。
あまりにも、簡単なことだったのだ。背負った殻を脱ぎ捨てることなんてね。