桃
わたしは一真くんと長く付き合っているうちに一真くんととても懇意になった。もうわたしも一真くんも大人になりかけていたころだと思う。一真くんはわたしのタートルネックの首元をめくって、首すじにひとつ口づけをして、そのままわたしを抱き締めた。わたしも一真くんの背中に手を回してその行為に応える。思った以上に厚い身体に驚く。間も無くわたしはそのまま畳の上に倒されてしまい、さすがにすこし
「あ、まずいな」
と思うものの、わたしは一真くんの身体に覆われ、恥ずかしさに顔を背けたときに畳の匂いが鼻を掠めた。
そのときだった。視界の端から桃がひとつころころと転がってきたのである。わたしはそのときの光景を妙に覚えている。白い桃の産毛、薄い赤と黄とが散りばめられた肌、尻にも似た淀みのない一筋の線……。ほんの一瞬のことだったのに、わたしの目にはその光景がやけにスロウ・モーションにみえた。
一真くんは見かねてその桃を拾った。そして、わたしの上から退いてその桃を部屋の隅っこの桃の籠に戻した。そこには桃が山ほどあって、わたしはそのときその存在に初めて気づいたのだけれど、同時に、わたしが倒れた衝撃で桃が転がってきたのだということもわかった。
「ねえ、その桃……」
「ああ……食べたい?」
「食べたい」
一真くんは曖昧に笑って、山に戻した桃を再び手にとって台所へと消えていった。