第五話
主人公が戦闘で無双します。
さて、シャワーを浴びてスッキリしたところで。朝日が完全に上る前に次のイベント、名付けて「寝起き逆ドッキリ大作戦☆」の準備をしようと思います。
どういうことかと申しますと、戦闘についてカイトさんから説明を受けた次の日の未明。バス・トイレ別、簡素なベッドルームがあるだけの寮の自室に、本来入れないはずの魔物たちが華川里佳(元)に寝起きドッキリを仕掛けて連れ去る、というイベントが待っているんですね。そして次の日、礼拝堂へ現れない華川里佳(元)を心配したカイトさんは誘拐の情報を聞きつけ、連れ戻すための戦闘で敢えなく散る。おいたわしや。
この事件がもとで、華川里佳(元)は自分の認識が甘かったことを理解するんですけど。
いやー、ちょっと理解しがたいですね、正直。華川(元)が住んでいたところは比較的魔物の少ない安全な土地柄だったにしても、ここは激戦区ですよ? 内紛の起きてる東欧にうっかり派遣されてしまった外資系社員みたいなもんです。こんなちゃちい鍵しかついてないうっすい扉の部屋でぐっすり眠れる華川さん(元)の図太さは驚嘆に値しますね。
ということで、逆ドッキリの仕込みを開始。
二時間後。
思ったより時間がかかってしまいましたが、出来ました。これで逆ドッキリの準備完了。
部屋の片隅で防御しやすいように体制を整え、待つこと三十分。半分眠くなってきました。あれ? イベント今日じゃなかったっけ?
その時、ドアがガタガタと鳴り始めた! あ、ドアから来るんだね。正統派。そういう細かいとこってあまりシナリオに書き込まれてなかったんでここからの戦闘は割りとガチですね。ベッドをドアの前に移動させバリケードを張ってるんで簡単にはあきません。物理的なバリケードがどこまで有効かは不明ですが、先ほど反作用の法則を利用して飛行出来たので、物理的な実態ありとみた。
どうやらドアからの侵入はあっさり諦めたようです。寮なんであまり騒ぐと皆起きてしまうから、ってとこかしら。じゃああんまり数は居ないんだな。加勢を呼ばれると困る程度しかいないということだから。
ということは壁破壊路線もほぼ無いね。
おおっと、窓に振動が! すんなり割られてしまいました。どうやらスタンガンは魔物には効かないらしい。窓のサッシに通電させて即席電気柵にしといたんですけどね。いけると思ったんだけどな。
片隅に霊力で気配を消して隠れている私を華麗にスルーして魔物たちはベッドに突撃していきます。その数は六匹。
半信半疑だったけどやってみておいてよかった。ベッドにはタオルを丸めてセットしておいたんですが(小並感)、なんせ相手は魔物なんでそのタオルに髪の毛を切ったものを少しつけといたんですよ。藁人形みたいで我ながら気持ち悪かったんですが結果はこの通り。
魔物はベッドの中身が偽物ということに気づいたのか、部屋の中を彷徨きはじめました。よし、そろそろこちらから仕掛けていくぜ逆ドッキリ。ゴーグル装備よし、電源よし。華川、いきます!
最大音量にセットしておいたラジカセのリモコンをおもむろにスイッチオン。曲はヴ○ン・ヘ○レンのJUMP。単純にアがるからなんですけどね。戦闘にはBGMが必須!
魔物たちは突如鳴り響いた音に動揺している模様。
霊力で気配を消したまま、魔物たちのど真ん中へ突っ込みます。そこでステルス解除。魔物が私に気づき一気に突っ込んでくる。
ブラックライトのスイッチオン。
強力な紫外線に魔物たちは怯んだ。
スイッチをつけたまま、ラ○トセーバーよろしくブラックライトで魔物を切り刻み、焼き払う。
これぞ無双、○ボタン長押しレベルの快適さ。ほとんど力も入れずに魔物たちは一刀両断されていく。軽くトリガーハッピーに溺れそう。
後ろに大きな力の気配を感じ、私は振り向いた。今までの雑魚とは全く違う。こいつ、強い。
「手こずっておるから見に来て見れば。人間の割には、中々やるな。名を聞いておこうか」
え? この声はまさか!
私は急いで髪を撫で付け、乱れた服を整えた。
夢にまで見た出逢いがこんなことになるなんて。名前? 本名は不味い。こんな色気のない格好じゃ第一印象が悪すぎる。人間の印象は九十%が見た目。これ就活の基本です。ああもう、適当でいいか。
「わ、私は黒の剣士だ」
「ほう、聞いたことの無い通り名だな。黒の剣士。殺すには惜しいが」
なんと! 愛しのエグモント様が私を見つめている。こんなスチル一枚も無かったからね、本編には。なんというご褒美。しかもボイス付き。だが、夢のような時間は長くは続かなかった。
時限装置作動。さっきから大音量で流していたヴァン・ヘイ○ンに皆起き始めたようだ。ドアが大きな音で叩かれる。
「華川さん! 今何時だと思ってるの! いい加減にしなさい!」
寮監の声が響き渡る。
「ふむ、今日のところはここまでにしておいてやろう。黒の女剣士よ」
エグモント様は放心状態の私をのこし、夜の暗闇に消えた。