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第三話

 湖畔に立つ魔王の城に月明かりが差し込む。その城の一室で、エグモント・フーゲンベルク卿はいつものように城の雑事に追われていたが、ふと違和感を覚えて少し首を傾げた。

 魔王。それは絶対にして唯一の力の持ち主だ。その本名は本人以外の何人も知らない。彼ら魔族にとって最も恥ずべきは真の名を知られることだ。ある事件が原因で魔王に真の名前を知られてというもの、彼は手足のように使役されてきた。自分をひたすら押し殺して忠実な部下を演じ、反撃の機会を伺っているが、果たせないまま時だけがすぎる。仕えるのは今の魔王で十五代目になっていた。

(この得体の知れない力の動きは何だ)

 時の流れを乱すほどの大きな力の動きは、遥か遠くまで伝わることがある。

(もしそうであれば、今度こそは)

 エグモント卿は月を見上げ、再起を誓った。




 えー、もう月が昇って夜も更けてきました。「麗しのヒロイン」こと私、華川里佳、ピッチピチの十七歳です。説明役のカイトさんに礼拝堂を案内してもらっていたら、こんな時間になってしまいました。寮の門限はばっちり過ぎております。

 私としては大人の色気漂うカイトさんの所に泊めてもらうのもやぶさかでないんですが、このゲーム世界は十七歳以上推奨です、残念なことに十八禁じゃありません。つまり、暴走しすぎるとフェードアウトからの朝チュンで割愛されて貴重な夜の時間が丸ごと飛んで次の日の朝になります。夜は魔物が街に出るので少しでも狩って経験値を上げて行きたい。十六歳で結婚可能だというのになんで十八歳で切るかな。

 ともかく、エグモント様とお近づきになるまでは我慢の連続です(何を)。今日したことと言えばですね、簡単に言うと適性検査。サキュバスと人間のハーフのカイトさんと、手取り足とりマンツーマンで色々やりあうのはとっても美味しい。

 結果はというと、乙女ゲーしてた時に思っていた通り。里佳は霊感が非常に強く相手の攻撃に伴う魔力を先読みできます。そして新体操で鍛えたしなやかな体を活かした速い攻撃が可能。すなわち奇襲特化型と言えそう。

 しょぼい、大丈夫なの? と思った皆さん。ご心配なく。ここの戦闘では魔物と戦うに当たって物理はそこまで必要ないです。速さを活かした回避が取れれば十分。今から鍛錬してそれなりには鍛えようと思うんですが、愛しのエグモント様に会った時にゴリマッチョになっててベッドの上が別の意味で戦場になっては困るじゃないか。せっかくヒロイン補正で手に入れたこの美しい体を堪能していただかねば。それに、物理を上げるためには元の「私」を活かしたほうがいい。鍛えるよりももっとできることがあるんです。なめんなよ資本主義。

「おい、何をブツブツ言ってるんだ?」

「あ、明日の朝ごはんなにかな、と思いまして」

「お前、ひもじい生活をしているのか? よし、あったぞ。これは私の家に古くから伝わる保存食だ。食べれば三日三晩子作りをし続けられるほど精が付くそうだ」

「ありがとうございます。しかるべき時に頂きます」

 思い付きで言ったのに素早い対応、恐れ入ります。世話好きな性格っていうのは説明係としての宿命ですね、きっと。これ資料集の裏設定に書いてあったな。こんなアイテム十七歳以上推奨のゲームに登場させられないだろうに。

「もう遅い、気をつけて帰れよ」

「はい、今日はお世話になりました!」


 案外疲れたので、帰って風呂でも入りたい。でも今日の間にまだすべきことがありまして。礼拝堂を出て、街に向かって走り出す。


 夜になると魔物が徘徊するなんて、南米の治安の悪い国の非じゃないですね。ここはソ○リアかっつーの。まあ、運良く大物はいないみたいで助かります。霊感と反射神経をフルに活用しながら回避。犬のような、狼のような姿の魔物たちを横目に見ながら、どんどん加速。次は早朝に大事なイベントが発生予定につき急いでます、はい。余計なことを考えていたら少し回避が遅れて、噛みつかれそうになった。霊力で弾き飛ばす!


 そして……え、マジで? 華川里佳十七歳思わぬ技を開発してしまったと思われます。もう一度状況を説明すると、夜は雑魚の魔物どもでそこら中が魔力に満ち溢れています。作用があれば反作用。中学の理科は偉大。乙女ゲーの世界でも法則は普遍です。分かりやすくいいますと。

 


 華川里佳は「飛行」の能力を得た!(おそらく夜限定)


 ここまで来るともう、華川里佳(元)は何をしてたんだろ、と呆れるレベル。ジェットの要領で霊力と魔力を反発させながら飛ぶなんて、これ使えば連れ去られて攻略キャラのドラ息子が助けに来るイベントはフラグごとポッキリだよ。


 こうして移動手段(夜限定)を得た私は、快適な空の旅を楽しみながら目的地へ向かうことになりましたとさ。


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