第二話
読んでくださりありがとうございます。
個人的な理由で魔王になりたいヒロインの無双物語。
転生二日目にして、やっとこの環境になれてきました。ヒロインこと華川里佳です。
知ってはいたんだけれども。転校先の学校が超・金持ち学校で周りの生徒と全く話が合いません。浮きまくり。ボッチ飯万歳。校則無視して買ってきたコンビニのチキンの匂いを撒き散らしながら異様な感じを放ってますが、気にしません。ただの人間には興味はありません!(再) エグモント様しか見えない! まだ会えそうな気配はありませんが急いては事をしそんじるって言いますよね。待っててマイダーリン。
昨日のうちに攻略キャラたちとの運命的な出会い(笑)をもう済ませてます。
正直あまりセリフを覚えてなくて、彼らが人外ってことに驚いた振りしながら怯えて言葉も出ないって感じで乗り切りました。ここ好感度関係ないし。多分これでいい。
今日の予定としては、対魔物に特化した戦士たちがいる礼拝堂に弟子入りしにいこうと思ってます。プレイ中もうすうす思ってたんですけど、この子(華川里佳)の霊感体質はやっぱり設定の無駄遣いでした。中に入ってみても案の定素晴らしい能力。サーチ&デストロイ方式が一人でできるもん。
設定資料集見て驚きましたとも。霊視から物に残った残留思念の読み取り、低レベルな悪魔くらいは跳ね返す霊力の強さ。
新体操のお陰で体も器用だし、この子戦闘かなりいけるんじゃね? 平行してプレイしてた狩りゲー「悪鬼討伐」だったらかなり使えるキャラだったはず。唯一の弱点、甘ったれでおどおどした性格さえ無ければ。
だがしかし!今、この唯一の問題点は解決しました。女らしさの欠片もない私が入っている。一遍死んでる人間の図太さを舐めちゃいけません。
学校通うの止めて訓練に特化することも考えたんですけど、使えるものは使っとこうと思って焦らずに進めてます。
どういうことかというと、攻略キャラたちは何てったって人外で力ありますし、金持ちで顔はきくし、逆ハーレムにしとくのも悪くないな、と。選択肢は大体覚えてるんで。もう少し好感度上げて奴らの家に行き、そこで金目の物漁って売り払ったり、強力な装備品集めたりしようと思います。ありそうな隠し場所は設定資料集の情報により大体把握してます。空き巣もびっくりの見取図付き物件!
人の家で壺を割る奴が勇者呼ばわりされるくらいだし、ヒロインが彼氏(下僕ともいう)の私物貰うくらい問題ないはず。現実でも夜の街でATMと化してる殿方、たくさんいらっしゃるじゃないですか。
てなわけで授業も聞かず今後の対策を必死に練ってたら教師のお気に触ったらしく当てられました。
「華川君! 随分余裕そうだね? 前に出てこの問題を解いてくれるかな?」
ああもう今折角良い作戦考えたのに。早く書き留めたい。問題っていうと、ああこれか。
「22π/7 です」
「あ、ああ。そうだね」
教室が少しざわついたが、私は席に座ったまま答えるとまた作業の続きに戻った。教師は何とも微妙な表情で私を見つめているけれどもう話しかけてくることは無さそうだ。これで邪魔者は排除した。じっくりと今後のスケジューリングに充てられる。
今日はゲーム本筋での重要イベントは無い。六限までこの調子で無事乗り切った私は、さっさと学校を飛び出して街の礼拝堂へと向かった。
小高い丘の上にある礼拝堂。閑静なこの街は、夜になると魔物が暗躍する場所に変わる。その魔物を倒し、世界を人間の手に取り戻さんがために戦うのがハンターである。(設定資料集より抜粋)
無事、礼拝堂へつきました!
途中尾行されてた時は怯えましたけど(ここで事を荒立てるとストーリーが変化してしまうため。怖かった訳じゃないです。もう一遍死んでる身ですし)すぐに気配は消え、そのまま礼拝堂へ直行しました。
「ハンター希望か。珍しいな」
私を興味深げに見つめている青い髪が特徴的なすっとした顔立ちの男性は、カイトというコードネームで活躍するハンター。実年齢二百十歳、人間の年齢に換算すると二十五歳程度。サキュバスと人間のハーフで、好物は椎茸のテンプラ。(設定資料集より抜粋)
ゲーム内で単に戦闘説明のために現れるモブすらこの設定の盛り方。どう考えても作り込む方向を間違ってる。
画面上ではそうも思わなかったが、こうして見ているとサキュバスの血を引いている分、凄く色っぽい。
「新入りは俺が説明することになってる。分からないことがあれば聞いてくれ」
間近で見る笑顔の破壊力。仕様により飛ばせなくてキャラ変更の度に何度も聞いた説明を、まるで初めて知りました☆みたいな顔して聞くのも疲れるけど、今の笑顔で疲れも吹き飛びました。ごちそうさま。
ちなみにこのお方、最初の模擬戦闘の終盤でお亡くなりになります。おそらく大人の事情で。
なんというもったいなさ。でも、モブとはいえこの人を助けるとストーリーの改変は免れない。彼の死によって主人公は自分の立場を理解してこの街で生きていく決心をするのだ。
そこまで考えて思い止まった。あれ? 世界観を理解し尽くしている今の華川里佳にとってはこのシーン要らないな完全に。魔王を倒すためには、今の段階でハンター側の勢力を削らない方がいいに決まっている。
私は決めた。助けよう。だって顔が好みだから!
そうして乙女ゲー世界での生活は続いていくのだった。