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マウントポジションをとる幽霊(もの)

(ば、バカなっ!? マウントを取られただってっ!?)


 戦慄せずにはいられなかった。

 なぜなら、ぼくからマウントポジション(馬乗りになるアレね)を奪った相手が、あろうことか女性だったからだ。


 年齢は20代半ぐらいだろうか?

 腰まで届く長い髪をした彼女は、冷静な目でぼくを見下ろしていた。


(やれやれ、まいったなぁ……)


 困ったことに、男のぼくがマウントを返せないでいる。

 誤解のないように言っておくが、ぼくは今までにも何度か女性にマウントポジションをとられたことはある。

 しかし、それはその女性達がリングで闘うプロの総合格闘家だったからだ。

 言い訳に聞こえるかもしれないけど、グラップリングの世界大会に日本代表として出場しちゃうような女性格闘家は本当に技術が凄いし、強い。

 性別の壁をやすやすと超えて圧倒してくるのだ。

 

 だけど、この時ぼくからマウントを奪った女性は、明らかに格闘技とは無縁の線の細いひとだった。

 女性のプロ格闘家が相手でも、力任せにいけばマウントを返すことができるぼくが、 この時だけはどんなに頑張ってもマウントを返すことが出来なかったのだ。


(ちっくしょー。何でこんなことになっちまったんだか……)


 胸中でそう吐き捨てたぼくは、その日の出来事を思い返していた……。





 その日、ぼくは友人と映画に行く約束をしていた。

 徹夜明けでとても眠かったけど、会うのが久しぶりだったせいかぼくと友人はなぜかテンションが上がってしまい、お台場まで映画を観に行くことにしたのだった。

 お台場に着いたぼくらは、映画がはじまるまでまだ時間があったので辺りをブラつくことに。


 ストリートパフォーマーや猿回しを見たり、ペットショップで子犬を見たり、ショップ巡りをしたり。

 なかでも期間限定で開催されていた『心霊写真館』なるところにも足を運び、それなりに楽しんでいた。

 そして映画を観てからお酒を飲んで、その日は友人と別れたのだ。


 家に帰り、お風呂にはいる。

 ベットにダイブしたときにはもう0時をすぎていた。

 徹夜明けだったこともあり、ぼくは気絶するかのように眠りに落ちていく。


 そして異変が起きたのだ。


 いつもなら、このまま朝まで眠っているはずなのに、ぼくは不意に目が覚めた。

 脳は既に覚醒状態。

 そして視界の端で時計を捕らえる。


 1時5分


 その瞬間――


(ヤバイ……くるっ!)


 直感でそう感じた瞬間だった。

 全身を痺れの様なものが襲い、ぼくは身動きがとれなくなっっていた。

 そして胸には強烈な圧迫感!


 そう、金縛り(・・・)だ。

 少しして、金縛りにあって身動き取れないぼくの体の上で髪の長い女性が四つん這いになって見下ろしてきていることに気づく。


(ば、バカなっ!? マウントを取られただってっ!?)


 そして冒頭に戻る。


 おそらくは昼間に立ち寄った心霊写真館から連れてきて(お持ち帰り)しまったんだろう。

 ぼくはブリッジでマウントを返そうとしたけど、必死にやっても身体はさっぱり動かなかった。


 相手の動きは見えるのに、自分の身体は動かないっ!

 この時、帝王と闘っていた星白金の本体さんの気持ちが言葉ではなく心で理解できた気がしました。


 ぼくからマウントと取った彼女(たぶん死者)は、『じ~』とこちらを見下ろし続けている。

 覚悟を決めたぼくは逆に彼女を睨みつけた。 もうこうなったら逆切れしかなかったからだ。

 そして彼女の次のアクションに注視する。


 柔術マジシャンばりのサブミッションを仕掛けてくるのか?

 それともロシアンエンペラーのように氷の拳を振り下ろしてくるのか?


(来るなら来いっ! 仕掛けてきたその瞬間が勝負だっ!)


 ぼくはどんな攻撃がきてもカウンターを仕掛けることができるように全神経を尖らせ、この後の展開をシミュレーションする。


 幽霊、攻撃してくる。

 ↓

 ブリッジで彼女を一瞬浮かせる。

 ↓

 すかさず右足をキャッチ。

 ↓

 ヒールホールド。

 ↓

 幽霊『い、痛い! ごめんなさいっ、堪忍しておくれやす!!』

 ↓

 ぼくの勝利。


 完璧なシミュレーションだった。

 早くもぼくの中では勝利を祝福するファンファーレが鳴り響いていた。


(よし! かかってこい!)


 でも……彼女の攻撃はぼくの予想を遥かに超えていたのだ。


 彼女が動く。

 首をまげて頭を下に向けたと思ったら、なんとそのまま頭からぼくの体の中に入ってきたではないか。


 突如、全身に激痛が走る。

 ぼくの体はあまりの激痛に弓なりに伸び上がり、喉からは「あがががが…」と声にならない声が漏れていた。

 サイコーにエクソシストな瞬間だったと思う。


(ぼくの意識を乗っ取るつもりか!?)


 直感でそう察した瞬間、ぼくは丹田(ヘソの下辺り)に意識をあつめはじめる。


(悪いね。別に君が初めての相手じゃないんだよねっ!)


 伊達にぼくは中途半端な霊感を持ってる訳ではない。

 今迄にも何度か同じような状況に陥ったことがあったのだ。


(ぼくが最後に見せるのは、代々受け継ぐ除霊魂だ! 人間の魂だ!)


 そう想いを込め『出ていけっ!』と強く念じながら、丹田に『ふんっ!』と気合を込める。

 次の瞬間――ぼくは金縛りと激痛から開放され、彼女はこの部屋からいなくなっていた。


 開放されたぼくは速攻で電気のリモコンをプッシュ。

 続け様にテレビのリモコンもプッシュ。


 光と音を取り戻した部屋で、ぼくはやっと安堵するのだった。



【戦績】

・ぼく○―×おばけ ※気合で逆転勝利☆


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