魔王お出かけする!
小さめの民家ほどある扉をくぐると、大型の船を三隻入れても余裕がありそうな大きな廊下、その一番奥に装飾された上質な椅子が備え付けられている。
そして、その椅子に腰掛けているのが今日魔王になる私こと、『サウスノ・TO・マンダー』だ。
「マンダー様おめでとうございます。次の魔王はあなた様になりました。」
私の部下である『リュイッチ』が私にそう伝える。
「なあ、リュイッチ。魔王ってなにするんや?」
一般的に使われている語、つまり標準語ではなく、私が滞在している国の方言「クウァルンサイ弁」でリュイッチに尋ねた。
「それは・・・魔族の統治や人間世界への侵略とかですかね?」
せめて、仕えている王のスケージュールくらい把握しておけと、心のなかで思った。
「まあ、とにかくですね、先代の魔王様達のように良いご活躍を期待しております。」
私の知っている先代の魔王たちは、自分の私利私欲のためにしか動いてなかったような気がする、という感想は置いておき質問を続けた。
「なあ、リュイッチ・・・。話変わるんやけど・・・。」
少し間を開けて。
「先代の魔王達の死因ってなんやった?」
リュイッチは考える素振りなく、即答で答えた。
「勇者です。勇者による殺害です。」
「せやでな。」
「はい。そうです。」
「うん。殺されてんでな?死んだんじゃなくて、殺されてんでな?」
「そういえばそうですね・・・。事故死や病死の魔王様というのは聞いたことがありませんね。」
「じゃあさ、俺ってどうやって死ぬと思う?」
あまりにも意味不明な質問をされたリュイッチは、どう返せばいいのか迷っている様子だ。
「質問が悪かったな。えー・・・勇者が俺を殺しにくるよな?それまで俺は何してたらいいんかな?」
「だからそれは、魔王としてどっしり構えていればいいんですよ。」
「そうか・・・・・・・・・てっ、なんでやねん!!」
思わず出たツッコミに、リュイッチは一瞬ビクつく。
「死因がわかってんのに、なんでどっしり構えてんねん!?お前、今日は休館日ですよって知ってたらそこ行かへんやろ?そういうことや!」
「いや・・・どういうことですか・・・。」
「だからぁあ・・・なんで自分より強い相手が来るってわかってんのに、何もしてないんやって話や!」
「ですが、魔王様より強い者等、今現在発見されてませんし。」
「ボケナス!そんなこと言っとるから、先代の魔王共が殺されとんねんやろ!
ええか?初期ステータスが高くても、勇者がレベルアップして追いつかれてもうたら、そのハンデの意味なくなるやん!?
そこをちゃんと計算に入れとけって話や!ゲホッ!ゴホッ!」
話しすぎて、むせた。
「ま、魔王さまの言いたいことはわかりましたよ。では、何をしたらいいんですかっ!?」
いい年の大人が、泣きながら声を荒げて尋ねてきた。そして俺は、その質問を待ってたと言わんばかりに、おもわず口元がにやけた。
「俺も旅にでたらええんや。」
圧倒的などや顔で、リュイッチに説明を続けた。
「死因である勇者を倒すことが最大の目的と考えた時、一番有効なんは強くなる前の勇者を殺すことや。せやけど、誰が勇者か正直なところわからへん。せやから、成長前の勇者を殺すことは無理や。と、言うことは、や。勇者が成長するのに比例して、俺も強なったら初期ステータスで圧倒してる俺が負けることはないやん。」
説明を終え、座っている席から立ち上がる。
「早速、行ってくるわ!」
近所のコンビニに行く感覚で、長期の旅の予定を告げる。
「じゃあな!」
(ポトッ)自分のマントから一冊の本が落ちた。リュイッチはそれを拾い上げ、内容を確認した後、先ほどまで泣いていた目が冷たい目に変わり自分を見つめてくる。
「魔王様・・・これは何でございましょう?」
「ん?俺の本やけど?」
「タイトルに、『全国制覇!楽しい観光地、おいしいお店、コンプリート図鑑付き。観光マップ』って書いてますけど・・・。」
「・・・・・・せやな!」
「目的は、勇者討伐のための修行ですよね?」
「せやな!」
「なのに、観光マップですか?」
「せやな!」
「せやな!っじゃ、ありませんよ!ホンッッッットウに、マンダー様は昔から自分の好きなようにして!以前ならまだしも、魔王になられた今、あなたに求められるのha・・・・・・ッ!」
違和感を感じたリュイッチは、魔王をよく観察した。
「これは・・・魔王様お得意の分身の術ッ!」
分身の術といっても、プログラムされた言葉をひたすら喋るだけのそっくり人形だ。
「あぁ!ちゃっかり、本もなくなってます!!」
リュイッチの手にしっかりと握られていた本は、すでに無かった。
【魔王城:外】
「アホめ!俺に説教すると、説教しているうちに逃げだすというのを、いつまでたっても学ばない奴め!」
部屋から光速で逃げて来たマンダーは、城から離れたところで進むスピードを緩めた。
「まあ、ここまで来たらいけるやろ。よし・・・・今から俺、マンダーの冒険を始めるぞ!!」
距離にして10キロほど、それを1分弱で進むスピードを持ち、その他のステータスでも圧倒している、高スペック魔王の勇者討伐のための大冒険がこれから始まる!
「まずは、アイテムコンプリートからや!!」
否、楽しむためのただの観光が始まる!
【魔王城:内】
「あの・・・・アホ魔王!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「せやな!」
●第一話:魔王お出かけする。