普通な少女の大冒険!~中編~
「う…うおおぉぉー!!!」
気絶したボス猿の上で、一人の少女が剣を高々と掲げ、勝ち鬨を上げる
その周りでは、小猿たちが円を組ながら、ニューボスの誕生に沸き立っていた
『うむ!お見事、白蓮!』
「あはは!やったぞ、師匠!遂に山の大将の一頭を倒した!」
『ああ、猿たちも白蓮の力を認めたようだ。見事な試合だったよ。これで何とか、嫁入りの心配は無くなったね!ついでに下僕も手に入れて、一石二鳥だよ!』
「いや、下僕は要らないかな?」
「フン…フンフン…?ブォ!」
「あ、気が付いたか。悪いわるい、すぐ降りるよ」
ボス猿から降りて、試合相手の様子を確認する
身体のあちこちに切り傷はあるもの、致命傷になるほどのものは見当たらない
『うん!大丈夫。これくらいなら、二、三日で治るさ!あんた、男なんだから、これくらい我慢出来るだろ?』
「フン!ブオオォォー!」
幽霊師匠の挑発に、大猿は当たり前だと言わんばかりに雄叫びを上げると、力こぶを作って見せた
「なんか、師匠が猿と会話出来るようになってる…」
『感じだよ、感じ。昔は敵でも、武器を収めれば、友達さ!なぁ、ボス!』
「ウホ!」
ガシッ!と肩を組んで一人と一頭は、にこやかに微笑む
ていうか、ボスって…?
「いや、待て?アンタは闘いに参加してなかっただろ?途中、腹が減ったとかで、飯を食いに帰ってたじゃないか」
『離れて居ても、心は繋がってる…。親友って…そういうもんだろ?』
「ウホ!」
二度目のガシッ!次は親指まで立てる動作付きだ
師の影響か、猿がどんどん、おかしくなっている気がする
「あーはいはい、そうだね、そうですね…。それより、猿」
『ボ~ス』
「ウ~ホ」
うっざ…
「あーはいはい。ボス?」
「ウホ!」
「私のことは、諦めただろ?さっさと群れを纏めて、山に帰れよ」
「ウ…ホ…(ガーン!)」
『白蓮、ひどっ!今日くらい、いいじゃん!勝利祝いに、一緒に、鍋でもやろうよ!ねぇ?あんたも、食べたいでしょ?』
「はぁ?師匠、鍋なんて何処に…」
『えへへ…大丈夫だよ…。具材なら…ほら…沢山周りに居るじゃない…。じゅる…』
「ウホ!?」
「へっ!?」
「「「ウキャ!?」」」
周りの小猿を見回しながら、師匠はヨダレをすすり上げ、小さく微笑んだ
「に、逃げろ、お前らー!!!」
「「「ウ、ウキャアァァーー!」」」
『逃がすかああぁぁー!!!』
師匠よ…。それじゃ、ボスは共食いになるよ…
『弱!肉!強!食!お前ら全員、私の明日への糧になれー!』
幽霊なのに明日の糧って…?
まぁ、気にしたら負けな気もするけど、改めて思う…。
この師匠は…半端ないって…はぁ…
「よし、出来た!ほら、御要望通り、一撃で大地を割るハンマーに、天空を切り裂く大剣、それと、王様が持つに相応しい絢爛豪華な太刀だ!といっても、本当にそんな力があるわけじゃないけど、まぁ、それなりの強化は出来たと思うよ?」
「あ、ありがとうございます!」
「サンキュー!兄さん!」
「あら…!工房もないのに、見事な物ですわね!」
「ははは!一流の鍛冶屋は場所なんか選ばないんだよ!家は代々、鍛冶屋だけど、先祖には、戦場の真ん中で、折れた矛を打ち直してた人も居るくらいだ」
「私と同じで、先祖に誇りをお持ちですのね。気に入りましたわ!あなた、この袁家の専属鍛冶になりませんこと?」
「ははは!有り難い話だが、遠慮させて戴くよ。あなたの言うように、先祖に誇りを持つと同時に、俺は、自身の力にも誇りを持っているんだ。この力…個人の為ではなく、世界中の皆の為に使いたいんだよ」
愛用の道具たちが入っている道具箱をポムポムと撫でると、空を見上げ微笑みを浮かべる
まるで、そこにいる誰かに笑いかけるように…
「ふむ…。その顔…あなた、想い人がいますのね?」
「れ、麗羽?匠が仰っていたのは、世界の人々に技術の提供をしたいという…」
「あら。そんなのは分かっていますわよ?私が言っているのは、もっと深い部分ですわ。技術提供なら、私たちの元でも出来ますもの。それを蹴ってまで、この地で鍛冶屋を続ける…それには、理由があるのでしょう?」
「あはは…お見通しか…」
男は降参というように手を挙げると、静かに雪山を見つめる
その瞳には、先程までの優しさは無く、悲しみしか映ってはいなかった
「幼なじみが居てさ…。そいつが、あの雪山で亡くなった"らしい"…」
「らしい…?」
「分からないんだ。遺体が見つからなくてね。きっと、あの雪山の何処かにあるんだろうが…。最悪、山の主の腹の中って事も、考えられる」
拳を握り締め、男は静かに山を見つめるが、その声色から明らかな怒りを感じる
「まぁ、なんだ。彼女の生死が分からない以上、俺は可能性に賭けたいんだ。彼女が生きていて、時間も忘れる程、元気に山を駆け回っている可能性に…」
「でも…可能性は低いですわよ?」
「「れ、麗羽さま!?」」
「あはは…そうだね。君の言うとおり、その可能性は確かに低い。だけど、彼女は俺の生まれ故郷である村を救ってくれた英雄なんだ。彼女を見付けるその日まで、彼女の無事を…彼女の力を信じてもいいだろ?」
「もしも…。いえ、これ以上は無粋ですわね。殿方が決めたことなら、それを黙って見守るのも女の勤め。分かりました。今回は諦めますわ…」
「悪いな。ありがとう…」
「ただし!」
「「「え?」」」
三人は突如、指を突き付ける麗羽に目を丸めると、何を言い出すのかとハラハラドキドキする
「必ず、その女性を見つけ出し、選んだ道が正しかったと最後には笑うのですわよ!?」
「…あぁ、分かった。自身の力と先祖にかけて誓うよ」
「よろしいですわ!」
心からの誓いを呟き深く頷いた男に、麗羽は満足げに微笑みを浮かべると、踵を返し二人に向き直る
「そうと決まれば、こんな場所に長居は無用ですわ!財宝探しの続きと行きますわよ!」
「おぉー!」
「お、おー…」
貴重な素材と引き換えに、新たな力を手にした一行は、いよいよ最終目標である宝探しに燃え上がる
しかし、その後ろで一人、匠だけは静かに腕を組み首を傾げていた
「ん?…財宝?」
「あら、知りませんの?この塔の頂上には、金銀財宝が眠っているんですわよ?」
「金銀財宝が?いや、聞いたことないね…」
「あら…そうですの?」
「麗羽様…。やっぱり、財宝なんか無いんですよ。だから、ね?帰りましょう」
意外そうに目を丸める麗羽に、斗詩は懇願するような視線を向ける…が…
「ん?待てよ?地元の人間にも知られてない財宝…。それって誰も知らないってことですよ!麗羽さま!」
「ですわね…。知らなければ、手も出せない…。つまり、あの頂上にはまだ誰の手も着いていない財宝があるんですわ!」
「(あれ…?誰も知らない財宝なら、何故、地元の人間ですらない貂蝉様が知ってるんでしょうか?)」
自ら導き出した解答に皆が嬉々として声を上げる中、一人、斗詩だけは首を捻っていた
「斗詩さん、何をしてるんです!?さっさと、財宝を頂きに行きますわよ!」
「斗詩!早くしないと、置いてくぞー!」
「え?あ、はい!」
「いってらっしゃい。皆さん、気を付けて」
手を振る刀鍛冶に見送られ、新たな力を手にした三人は、いよいよ、塔の天辺を目指して歩き始める
その先に待ち受ける大どんでん返しがあるとも知らずに…
まぁ、一名は薄々感じ始めているようだが…
一方その頃、南蛮勢も新たな動きを見せ始めていた
「むむむ…」
南蛮の王…孟獲は腕を組みながら、骨だけになった大魚を見下ろしていた
全長は孟獲の五、六倍はあろう大魚の成れの果て
もっと大きな獲物を、もっともっと大きな獲物を狙うため、南蛮生活の知識や技術を総動員して頑張って来た結果だ
餌を工夫し、得物を強化し、鍛練を重ね重ねて、今ではミケ、トラ、シャムがそれぞれ一人で獲物を穫れるまでに成長を果たしている
当然、その君主であり、王である孟獲も例外ではなく、三人以上に大きな獲物を捕まえることが可能になっていた
しかし…
「ダメだじょ…」
「うにゃ…」
「ダメにゃ…」
「メーにゃ…」
目の前の大物に、四人は満足するどころか、不満げに目の前の大魚を見つめている
「こんな小さいのを倒したところで、"にぃ"には到底追い付けないのにゃ」
武将としての勘か…動物としての勘か、それは本人にしか分からないことだが、彼女たちは確かに感じていた
今のままでは、到底、これから先の戦を乗り切ることなど出来ないことを
「だいおーしゃま?これから、どうするにゃ?」
「むぅ…やっぱり、もっと大きな獲物を倒せるようになるしかないにゃー」
美以は頷くと、木々の葉から覗く空を見上げた
大王と呼ばれた少女に倣うように、家臣である三人も空を見上げる
"グルルルウゥ…"
四人の視線の先には、大きな翼を広げ、唸りを上げながらグルグルと上空を旋回する飛竜の姿
「やっぱり、あの不届者を倒すしかないにゃ」
拳を握り締め、美以は恨めしそうに、悠々と飛ぶ竜を睨み付ける
「ミケ!あの不届者が、餌を横取りしたのは何回にゃ?」
「分からないくらいにゃ!」
「トラ!あの不届者が、追いかけ回して来たのは何回にゃ?」
「数え切れないくらいにゃ!」
「シャム!あの不届者が、寝ている間に襲ってきたのは何回にゃ?」
「夢に見るほどにゃ!」
この竜と美以たちの間には、すでに深い因縁が生まれている
"グルルル…!"
「ぬぬぬ…空を飛んでいれば、美以たちが手出しできないと思って、ナメてるにゃ?」
悠々自適なサバイバル生活は、この竜の襲来により三日と保たず崩壊
毎日のように襲われ、獲物を強奪され、睡眠時間すら削られる毎日に、美以たちは怒り心頭であった
誰だって、やられっぱなしは趣味じゃない
美以たちも例外ではなく、あの竜に一矢酬いたいと考える一般的な人間?である
しかし実際は、幾度となく戦いを挑んでも、未だに一矢どころか指一本触れることができないでいた
「だいおーしゃま、どうするにゃ?」
「むむ…」
皆の視線を受け、美以は腕を組むと、天を仰いで静かに思考を巡らせていった
「認めたくないけど…アイツは…頭が良いにゃ…」
「ニャ!お腹減ってきたにゃ…」
「うにゃ~…!アイツをずっと見てたら、グルグル~…目が回ってキタにゃ~?何でにゃ~…?」
王を真似して、三匹も頭を抱えるが、まるで考える様子が見えない
「むにゃ、むにゃ…ぐー…」
シャムに至っては、頭を抱えたまま眠り始めていた
「コイツらダメにゃ…」
南蛮の王は、家来の残念さに目眩を覚えると、その場にどっかりと腰を下ろし、一人真面目に敵を倒す方法を考える
「空を飛ぶヤツを、どうしたら懲らしめられるにゃ?美以たちには、羽なんて無いから、空を飛ばれたら手も足も出ないにゃ」
悠々と空を舞う竜を見上げ、自然と美以はため息を吐いてしまった
"グルルル…!"
そんな、美以たちを嘲笑うかのように、竜は一鳴きすると、高度を俄かに下げてくる
「ムシャー!オマエは、どこまで人をおちょくれば気が済むにゃ!」
ブォン!ブォン!と、猫の手の形をした武器"虎王独鈷"を振り回しながら、地団駄を踏むが、やはり、美以の武器が届く事はなかった
いくら高度を下げようとも、美以たちには、どうすることも出来ない高さを、敵は守り続けているからだ
「はぁ、はぁ、はぁ…!はぁー…。無駄に疲れたにゃ」
しばらく、ブンブンと武器を振っていたが、息が切れた美以は静かに腰を下ろし、空を見上げる
"グルルル…"
そんな美以の姿を見て、竜は再び高度を上げると、悠々と旋回し始めた
完全におちょくっている…
「にゃぁ…。紫苑たちなら、あんな羽トカゲも簡単に撃ち落とせるだろうにゃ…」
弓を引かせれば、右に出る者なしの弓大将らを思い出し、美以は深い溜め息を吐いた
「母様たちはスゴいのにゃ!」
「すごいのにゃ~!」
「無敵なのにゃー」
ミケ、トラ、シャムも同感だと、母代わりである紫苑と、その友を口々に讃える
「本当ににゃ…。紫苑たちなら簡単に、倒せてしまうのにゃ…。紫苑たちは、誰よりも長生きしてるから、経験が違うのにゃ……殺気にゃ!!?」
“ドッ!ドッ!ドッ!”
突如、殺気を感じた美以は、地面を転がるように身を翻した
程なくして、何かが刺さるような音が、美以の座って居た場所に響き渡る
「なんにゃ!?なんで、弓が降ってくるニャ!?」
見ると、二本の"矢"と一本の"杭"が地面に突き刺さっていた
しかも、降ってきた矢と杭は中程まで地面に埋まっている
「うにゃー…これを放ったヤツはかなりの剛力にゃ。あの貂蝉か、化け物の仲間に違いにゃ…にゃはっ!」
ドッ!ドッ!ドッ!
再び、同じ方角から二本の矢と、一本の杭が襲い来るが、軽々と美以はそれらを避けて見せた
避けきると、美以は鼻を指で擦り、胸を張る
「大王しゃま、スゴいのにゃ!」
「ふふ~ん!当然にゃ!そう、何度も同じ手に引っ掛かる訳ないのにゃ!どんな、相手かと思ったけど、大したことないにゃ~!にゃははは~!」
自慢げに胸を張る大王の周りを、ミケ、トラ、シャムは、賞賛の声を挙げながら回り続ける
「さすが、大王しゃまにゃ!三本なんて、屁でもないにゃ!」
「そうにゃ!そうにゃ!どうせなら、三本なんていわず、十本でも!」
「にゃ!きっと、大王しゃまなら、百本でも、避けてみせるにゃ!」
「ふふ~ん!余裕しゃ~く、しゃ~くにゃ~!」
大言壮語。それが…美以たちの過ちだった
何せ…飛んでくる矢の先に居るのは…
「おーい、皆さん?何をしてらっしゃるのかな?」
「なんですかな?お館様?」
「見ての通りじゃ。今、わしらは忙しい」
「ごめんなさいね?ご主人様…。今、少し、手が離せないんです」
三人の麗しき女性たちが、各々の武器を構え、黙々と明後日の方向に、矢と杭を放っていた…
「忙しいって…。的はあっちだぞ?」
本外史の主人公・北郷一刀は、目の前の的を指差し苦笑する
一刀が指差す先には、矢が一本刺さった的が物悲しげに佇んでいるだけだった
矢は会心の一矢とは成らなかったようで、六糎ほど、中心点から反れてる
弓も達者な北郷一刀、まぁ、最初の一矢は様子見のつもりだったのだが…
一刻過ぎた今でも、未だに二矢目が射られることは無かった
当初、この“的当てゲーム"を提案して来たのは、三人の女性たち
一つ、『一人ずつ弓を放ち、一番中心近くに射た者が勝ち』
一つ、『順番は北郷、祭、桔梗、紫苑の順番で行うこと』
一つ、『何かの理由で的が破壊された場合、次の人が居ても、その時点で終了』
というルールだった…のが懐かしい
「はぁ…。終わらないから、俺の勝ちでいいかな?」
「「「はっ!」」」
"シュン!シュン!シュン!"
"バゴン!バゴン!バゴン!"
「…え?」
矢を回収しようと的に近付き、手を伸ばした瞬間、一刀の髪がハラリと落ち、目の前の的が吹っ飛んだ。というか、モゲた…
空中でくるくると回り…的は、地面に落ちる
「……え?」
二回目の驚愕…
的の中心には二本の矢と杭が綺麗に刺さっていた
正確には…矢に矢が…更に矢に杭が"中心ド真ん中"に刺さっていた
「あらあら…的が壊れてしまいましたね?」
「ということは、小僧の番は無し…じゃな?」
「我らの勝利…で、宜しいかな?お館様?」
三人はクスリと小さく微笑むと、一刀に勝敗の結果発表を促した
「(コク!コク!コク!…)」
主人公は…ただ黙って頷くしか無かった…
「「「っ!?はああぁぁー!!!」」」
が、三人は突如、各々の武器を構えると再び、明後日の方向に矢を引き始める
何故か今度は、矢継ぎ早だ
「ひっ!?」
その鬼のような殺気と形相に、一刀はワケも分からず、震えるしか無かった…
手を出してはいけない、声をかけてはいけない、そして何より…この場から逃げては行けない…
逃げようと背を向ければ最後、あの矢が自分に降り注ぐことを、女難Sクラスの主人公は知っていた…
麗しき女性たちの放った弓は…部屋を超え、次元を超え、野を超え、山を超え、フッ…人間の想像すら超えて、彼女たちの元に降り注ぐ
「「「にゃー!!?」」」
それはさながら、スコールのように、鉄の雨が降り注ぐ
「十や、百なんてもんじゃないにゃ!千や万の世界なのにゃ!相手は軍だったにゃ!!?」
…いえ、たった三人の女性です
「美以が悪かったにゃ!お詫びに、美以の魚をやるにゃ!ほら!」
"ドドドド!!!"
美以の投げた魚が、空中で無残なネコマンマと化す
「にゃー!?美以の魚が、なんかパラパラのバラバラになってしまったにゃ…」
「ひ、卑劣にゃー!」
「そうにゃ!お魚に罪はないのにゃー!」
「ムシャムシャ…ん、意外と美味にゃ。お魚…お前の犠牲は忘れないのにゃ…」
「なに、食べてるにゃ!?今はそんな場合じゃないにゃ!そんな物、捨て置くにゃ!」
"ドドドドド!!!"
「ごめんなさいにゃー!食べ物は粗末にしないにゃー!これからは、好き嫌いせず、残さず食べるにゃー!あとで、スタッフが美味しく頂くにゃー!」
"ドドドドド!!!"
「にゃー!?ごめんなさいにゃー!ごめんなさいにゃー!何をしたか分からないけど、謝るにゃ!美以が悪かったにゃ!許してにゃー!これからは、いい子になるにゃ!」
「人の物は取らないにゃ!」
「人に優しくするにゃ!」
「人を大切にするにゃ!」
「「「大好きなみんなを、守って見せるにゃ!!!」」」
"ドドド!………シーン…"
「にゃ?止まったにゃ…」
必死に物影に隠れて居た四人は、恐る恐る顔を出して天を見上げる
空には矢どころか雲一つなく、綺麗な青空の色をしていた
「にゃ…にゃはは…。良かったにゃ…」
グッタリと隠れていた木に背を預けると、四人は深い溜め息を吐いて腰を下ろす
"ズドーン…!!!"
「次はなんにゃ!?」
凄まじい音と衝撃に驚き、四人は再び木陰から身を乗り出す
音のした方を見ると、そこには目を疑うものが落ちてきていた
「ト、トカゲにゃ…」
「でっかいトカゲが落ちてきたにゃ!」
落ちてきたのは、大きな"トカゲ"
いや…
「にゃ!?違うにゃ!トカゲじゃないにゃ!アイツにゃ!あの"不届き者"にゃ!」
よく見れば、全身ボロボロではあるが、あの竜に間違いない
どうやら、あの矢の大群をマトモに受けてしまったようだ
四人は敵の様子を確認するため、木陰から身を乗り出すと、そ~っと近付く
「……ツンツン…」
"グルル…"
「「「生きてたにゃ!?」」」
目を覚ました竜は、ムクッと起き上がると、ボロボロになった羽を広げて、再び空へ舞い上がる
そのまま、四人には目もくれず、どこかへ飛んで行ってしまった
「今なら、ヤツを倒せるかも知れないにゃ!行くにゃー!」
「「「おーにゃ!」」」
四人は武器を構え、竜の飛んでいった方へ全力で駆け出して行った
「なぁ、師匠…」
『んー?どうしたー?』
『フンフン…』
ゴロゴロと寝床で横になる師を横目に見ながら、私は夕飯の鍋をかき混ぜる
体勢が悪いのか、服装が悪いのか、師匠のスカートは捲れ、純白のショーツが露わになっているが、本人は至って気にしていない
本人曰わく、『見せパンだからいいんだよ~』とのこと
それからは一切、触れないことにしている
「なんで、コイツが家に居るんだ?」
『フンフン…ウホ?』
『なんでって…ボスは友になったんだ。友を家に招いて何か問題でも?』
「大アリだよ!ここ、家だよ!?怪獣から身を隠す最後の砦に、怪獣を入れちゃ駄目でしょ!?」
『家主は私。白蓮は賃貸者。OK?』
『ウホ?』
学習能力が高いのか、ボス猿は師匠の物真似を寸分違わずやって見せる
「“頭、大丈夫か?お前…”みたいな、顔するのやめろ!」
チクショー!猿にまで、心配される自分が情けない!
『さーてと、疑問は解決?んじゃ、ご飯食べよう!お腹ペコペコ!あ、ボス、器を取って』
『ウホ!』
指定通り、器を取る猿
箸も忘れない
「お前…絶対、猿じゃないだろ!?中に誰か入ってるんだろ!?」
猿の背中に回り込み、私は半泣きで釦か、それらしい物体を探す
『ウホ!ウホホ…!』
くすぐったそうにボス猿は、キャッ!キャッ!と身を捩るが、私は構わず探し続ける
しかし、いくら探しても見つからない
当然だ。目の前のボス猿は本物
そんなの、闘った私が一番、よく解っている
『はいはい、そこまで。家は狭いんだから、暴れないでくれる?』
『ウホホ…?』
あぁ、北郷が確か言ってた…
こういうの確か…"デジャヴ"って言うんだっけ?
「だから、その“頭、本当に大丈夫か?お前…”みたいな、顔するのやめろよな!」
『はぁ…、食べた食べた!やっぱり、美味しいねー!白蓮の料理は。グッジョブ、白蓮!』
『ウホ!』
グッ!と親指を立てる一人と一匹
もう、ツッコむのも疲れた
こういうものだと受け入れよう、仕方ない
「お粗末様。ていうか、猿はともかく、師匠は今まで、どんな物を食べて来たんです?これくらいの料理なら、師匠だって作れたでしょう?」
私の料理なんて、所詮、普通の家庭料理くらいのもんだ
美食家で知られる曹操と比べれば、雲泥の差だろう
『フッ…自慢じゃないが、私は料理の腕は凄いよ?』
「え?と、私は予想外の言葉に驚きを隠せないでいた」
『こらこら、声に全部出てるって』
師匠は苦笑すると、胸に手を当て、昔を懐かしむような遠い目をする
なにやら、回想に入る予感…
「手短にお願いします」
『ぶー!ぶー!私だって、乙女なんだぞー?ガラスのハートなんだ。優しくしろよ、傷付くぞ?』
「硝子の心の女性が、天災級の大怪獣相手に大立ち回りをした挙げ句、村を救う大英雄になりますか?」
ここに居候するようになって、何度も聞いた話
天災とまで恐れられた竜と、三日三晩の死闘を繰り広げ、遂には倒したという
まぁ、信じがたくも、この師匠なら遣りかね無い話
『動機は、純粋だもんね!』
ぶー!と頬を膨らませ、師匠はソッポを向いてしまった
「純粋ねぇ?…例えばー、好きな人が村に居たとか?」
『……ボン!』
私の予想に、師匠は一瞬目を丸めると、次の瞬間、顔を真っ赤にして俯いてしまった
「驚いた…。まさか、本当にそんな理由だったとは」
『そんなって何だよ!私なりに必死だったんだ!』
「あはは…、悪いわるい」
『わ、笑うなー!師匠だぞ!?私はあんたの師匠なんだぞ!?』
「残念。今の師匠に迫力は無いよ。だって…」
『な、なんだよ…?』
「恋する乙女の顔してる」
『っ!?み、見るなーっ!!!』
只でさえ真っ赤な顔を更に赤くして、目の前の女の子は顔を覆い隠す
それでも、真っ赤なことを指摘すると、女の子は寝床に潜り込んでしまった
「好きな人を守るため、最悪に挑んだ乙女、か。まったく…純粋な理由だよ」
『ウホ!』
丸い布団を見つめ、私とボス猿は小さく微笑みを浮かべるのだった
「はっ!」
『ブオォー!』
ボス猿の連続パンチを避け、脇腹に一閃!
難無く、ボス猿は地面に倒れ伏した
「ありがとう。良い練習になったよ」
『ウホ?』
ボス猿はゆっくりと起き上がると、脇腹を確認して、首を捻る
どうやら、本当に斬られたと思ったらしい
「あはは。大丈夫だよ。峰打ちだから」
『ウ…ウン…?』
逆刃にしたことを告げると、猿は目を丸めて私を見つめる
"お前にそんな器用な真似が出来るとは、驚きだ…"と、その目が言っていた
「お前、本気で斬ってやろうか?」
『(ブンブンブン!)』
片手剣に手をかけると、猿は手と首を振って、必死に命乞いを始める
かれこれ半日、私とボスは、手合わせをしていた
最初は、お遊び程度の軽い手合わせのつもりだったのが、気が付けば、互いに本気
それが良かったのか、みるみるうちに私たちは成長を果たしていた
『そういえば?彼女は…?』
「ん?あぁ、師匠?さぁ?まだ、隠れ屋で拗ねてるんじゃない?」
『あはは…!まるで、子供だな!』
「全くだ。子供じゃないんだから…って…アレ?」
私は苦笑すると、猿を見る…
『ウホ…?』
猿も私を見る…
「んー?」
『ウホー?』
互いに首を傾げる…
『なに、してんの?二人で見つめ合って?』
「え?」
声に振り返ると、大きな荷物を抱えた師匠が立っていた
まるで、どこかに遠出でも行くような大荷物だ
「師匠…いよいよ、逝かれるんですね?」
『ウホ…』
私と猿は手を合わせ、しんみりと師匠の門出を祝う
『こらこら!なーに、勘違いしてんのさ!あんた達も行くんだよ!』
呆れたように首を竦めると一転、師匠は笑顔で遥か彼方を指差した
指の先を私と猿は見つめ、身震いする
私たちも?…あの遥か彼方の蒼い空に?
「『(ガクガクブルブル…)』」
連れて逝かれる!
私たちは、ひしと互いを抱き合うと、目の前の存在に恐怖した
『あー、また勘違いしてる。そんな上じゃなくて、もっと下、下だよ』
バカだなーっと呟き、私たちの後ろに回ると、それぞれの目線に合わせて、指を差す
そこで見えてきたもの…それは
「塔」
天にも届かんばかりの『白い巨塔』だった
『白蓮…。よく、頑張ったね。これは私から贈る最後の試練』
師匠は笑顔で頷くと、一枚の紙を取り出し、私に手渡した
紙には、何かの絵と文字だろうか…とにかく何か書いてある
「すみません、読めません」
『そっか。国が違うから、当然だね。こりゃ、ごめんごめん』
師匠は苦笑すると、文字や絵を指差しながら説明してくれた
『このクエスト…探索対象は"竜"。必ず探し出して、倒すこと!』
「竜!?」
初めて、師匠と出会った日のことを思い出す
初めて訪れた土地で、右往左往していた私は竜に襲われ、命辛々逃げ回り、師匠と出会った
あの時の恐怖は、今でも忘れていない
『実はこのクエストは、私の未練でもあってね。あの塔にある"素材"を手に入れる手伝いをして欲しいんだ』
「それは構わないけど…。竜はなぁ…」
『大丈夫。今のあんたなら、きっと出来るさ』
『ヴォ』
師匠とボスは深く頷くと、静かに私の肩に手を置いた
冷たい雪山の風が吹き抜ける中、二人の手から僅かな温もりを感じる…
そうだ…。私は昔の私とは違うんだ
血も滲むような努力もして来たし、死線だって何度も潜り抜けて来た
何より、この心を支配する自信が違う
当然だ…実際に山の主の一人を倒すまでの力を手にして入るんだから
「分かった…やるよ!」
『ありがとう。白蓮』
師匠は微笑みを浮かべると、肩から手を離し静かに振り返る
ボスも気合いを入れるように、肩を叩くと静かに振り返った
『さぁ、その前にもう一つ』
『ウホ…』
「乗り越えなくちゃならない"主"がいる」
"グルル…!グゥオオォォ…!"
『久しぶりね。山の主。あんたとは、因縁深いけど、今日でそれも終わりみたいだ。残念だよ』
『ブゥオオォォー…!』
竜の咆哮に怯む事もなく、太刀と拳を構えて、師匠とボスが歩み出る
私も抜刀しながら、振り返ると私の後ろで大口を開ける敵に向かって駆け出した
"グゥオオォォー…!!!"
「私はお前を…超える!」
武器を構えて、横凪の一閃
それだけで、私たちには十分すぎる開戦の合図となった
『フン!フン!フーン!』
倒れ伏した竜の隣で、ボスが筋肉を唸らせ勝利のポーズを決める
どうやら、興奮の熱が冷め切らない様だ
「はぁ…はぁ…。あ、あはは…やった…」
とかいう私も、勝利の興奮で未だに手が震えているわけだが
まさか、本当に倒せるとは思っていなかった
『……』
「師匠?」
竜を倒してから全く口を開かない師匠に、私は疑問を感じ声をかける
師匠は声に答える事もなく、静かに竜に歩み寄ると、伏した竜の傍らに腰を下ろす
『あんたと出会ったのは、私がまだ、ハンター駆け出しの頃だったね。あれから、どれくらい経ったか…』
"グル…"
『お互い…年を取った。そうは思わない?』
"グゥオー…"
『あはは…。そうだね。私はまだ若いか』
"グ…"
『あんたが居てくれたから、私は強くなれた。そして…弟子も…。本当、あんたには、損な役割を押し付けてばかりだね。すまない』
"…ォォ"
『ありがとう。あんたのことは、忘れないよ。安らかに…』
"……"
何も言わない竜の頭を撫でると、小さくほくそ笑み…師匠は立ち上がる
ぐっ…と目元を袖で拭うと、大きく息を吐いた
「師匠…」
『あはは…悪かったね!それじゃ…行こう!』
振り返った彼女の顔に憂いはなく、その足取りはしっかりとしたものであった
「そういえば、師匠…?」
『ん?なに?』
師匠の案内で、雪山の麓に来た私たち
ふと、疑問が浮かび足を止めた
「師匠って、山を降りても大丈夫なんですか?」
『え?なんで?』
意味が分からないという様子で振り返ると、師匠は首を傾げる
「だって、師匠…幽霊じゃないですか」
『え?あ、うん。それが?』
「幽霊って、その場から動けないもんじゃないんですか?」
まぁ、私自身は見たことないから、分からないけど
確か、昔の書物には、そんなことが書いてあったはずだ
『え……そうなの?』
「だって、未練があるから残ってるんでしょ?」
『う、うーん…。ていうか、成仏ってどうやってするか分からないから、本当は残ってるんだよね』
「は?」
『いや、色々努力したんだよ?神様が気付いてないのかと思って、助けを求めて叫びも上げたし、狼煙も上げた。供物が要るのかと思って、上質な素材を集めもした。だけど…光は射さなかったよ』
「だから、自分に未練があるんじゃないかと、考えたわけか」
『そっ!で、思い返すと、一つだけあった…』
「なるほど、ねぇ~」
『ウホホ~…』
ニヤニヤと、私とボスは含み笑いを浮かべ、歩き出す
理由が分かれば、立ち止まっている場合じゃないね
大事な恩師の願いだ。頑張ろうじゃないか!
『な、なんだよ…』
「いや~?」
『ウホ~?』
『な、なんだよ!呪うぞー!』
「おぉ、怖い!」
『ウッホホー!』
顔を真っ赤にして追い掛けてくる女の子に、私たちは苦笑しながら、目的地へ駆け出した
「あ、あのね…文ちゃん?」
「な、なに?」
「私たち、囲まれちゃってるみたいなんだけど…」
いよいよ、塔に足を踏み入れた麗羽たち
早くも、その周りには小物ながら、ちょこまかと動き回り相手を翻弄する怪物たちが犇めきあっていた
早くも大ピンチの予感です
「ちょっと…この数は不味いんじゃないかな?」
「大丈夫だよ、斗詩。あたいが道を切り開く!その隙に、麗羽様を…」
「文ちゃん!その発言、なんかヤバいよ!」
えぇ。世に言う、死亡フラグってヤツですね
「落ち着きなさい、二人とも」
「「麗羽様!?」」
慌てる二人を一喝し、麗羽は"袁家の宝剣"をスラリと抜いて、二人の前に出る
「私たちの手には、あの大量の素材で強化した武器があるんですのよ?こんな時こそ、その性能を試さなくてどうしますの?」
「武器…そ、そうですよね!斗詩!」
「う、うん!」
麗羽を護るように、二人は立つと大剣とハンマーを構える
「…でも、やっぱり数が多いですわね」
「あ、やっぱり、そう思います?」
「ざっと見ても、五十は居ますよね?」
三人は武器を構えながら、周りをざっと見回す
今まで倒して来た敵に比べれば、大したことはない
しかし、これは戦の常識でもあるが"数"というものは、絶対的暴力であり、一人の勇将より効果があるものだ
飛将軍と謳われた呂布ですらも、幾千、幾万の兵の前では、どうすることもできないだろう
「ふぅ…正直、援軍が欲しいところですが、仕方ありませんわね!私たちで、片付けますわよ!」
「分かりました、麗羽様!そんじゃ、無理を承知で、ひと暴れするかな!後ろは任せたぜ、斗詩!」
「うん!任せて!」
だが、敢えてその苦難に立ち向かうからこそ、勇将や英雄と呼ばれるのでないだろうか
そして、そうした者たちにこそ…天は微笑み…奇跡を起こすのだ!
「この塔に、アイツが逃げ込んだのにゃー!突撃にゃー!」
「ボッコボッコにしてやるにゃー!」
「三枚下ろしにゃー!」
「永久の眠りに就かしてやるにゃー!」
「「「え!?」」」
塔の入り口の敵が、叫びを上げて地に伏したのを皮切りに南蛮の大王が転がり込んできた
"ドオォーン!!!"
『フンフン…ブオオォォーー…!!!』
「あ、こら!ボス!抜け駆けは無しだろ!?みんなで、入るって言っただろうが!」
『あはは…!楽しみで仕方なかったんだよ。なぁ~?ボス!』
突然の乱入に驚き、敵も味方も関係なく目を向けていると、反対側の扉から白蓮たちが乱入して来る
「あ、あなた達!こんな所で何をしてますの!?」
「にゃ?麗羽たちに…白蓮にゃ!やっと見つけたにゃ!」
「ん?あぁー!!!みんな、見つけたぞ!私を置いて、どこに行ってたんだよ!」
出会ってすぐに、わいわいがやがや…
互いの無事を確認したり、近況報告をし合ったり、話尽きないのは分かるが、何かを忘れていたりする
"ギャー!ギャー!"
完全に放置されてしまった小物たちは、相手をされないことに癇癪を起こして、叫びを上げた
あまりの騒がしさに、皆は話を一時止めると、苛立ちを込めて振り返る
「あら…まだ、居らしたの?」
「にゃー?随分、弱そうなのが、突っかかってくるのにゃ」
「なんだよ、やる気か?悪いけど、私も暇じゃないんだけどな。まぁ、やるって言うなら…」
「「「やってやる!」」」
袁紹、孟獲、公孫賛が武器を構える姿に倣い、他の皆も武器へ駆け出した
「ふん!弱すぎですわね!話になりませんわ!」
「まぁ、これだけの手練れが、この人数揃っていれば、まず負けはないだろうな」
「にゃ!麗羽も白蓮も、みんな、強くなってたにゃー!美以たちも、負けられないにゃ!」
「孟獲様たちも、修行なさったんですね?とても、強くなってらっしゃいましたよ?」
「だなぁ。まぁ、あたいたちも遅れは取ってないみたいで、安心したよ」
有象無象の敵を、あっという間に斬り伏せ、皆は周りを警戒しながらも、互いの成長を讃える
それぞれ、思い思いの方法で修行を行ったものの、成果に大差はないようだ
『上位の敵が、それぞれに上手く当たってくれたみたいだね』
「上位の敵って…あの山の主みたいのに?」
『うん。皆の話によれば、それぞれが拠点にしてた場所に、違う主が現れたみたいだよ?雪山、密林、大河には、それぞれ主が居るから、そこで暴れれば当然だね』
「…その流れだと、この塔にも、居るのかな?」
『うん!当然!今までの主とは、一味違うヤツが居るよ!』
師匠は、にっこりと微笑むと、螺旋階段を指差した
『ここを登った先、塔の頂上に居るはずさ』
「「「この先に…」」」
師匠の指差す先を見つめ、皆は固唾を飲むと互いの顔を見つめ合う
今までの主とは、一味違うと言われ、無意識に足が竦むのを止められる者はいないだろう
しばらく、互いの顔を見合っていたが、埒が開かないと分かった麗羽は、重い空気を払うように咳払いをして前に出た
「ん、んん!で、では、ここで皆が揃ったのも何かの縁。仕方ないですから、頂上までの道のりの同行を許して差し上げますわ!」
「し、仕方ないにゃ!頂上には、倒したい敵も逃げ込んでしまったし、一緒に行ってやるのにゃ!」
「ま、まぁ、私も頼まれた素材を探さなきゃいけないからな、一緒に行くよ」
三人はがっちり、握手を交わすと上を見上げる
『まぁ、これだけいれば、誰か一人が惹き付け役に回る心配はないかな?』
「……そういえば、白蓮さん?」
「ん?なに?」
「さっきから、気になってたんですけど、こちらの女性は何方ですの?」
『わ、私?…私は、白蓮の師匠だよ?』
「「「師匠?」」」
『う、うぅ…』
師匠を中心に皆の視線が集中する
まじまじと見つめるもんだから、渦中の女の子は真っ赤になって俯いてしまった
その、破廉恥極まりない装備と、持ち前の美貌…正直、女の私でもクラクラする可愛らしさがあった
北郷なら、間違いなく飛びかかっていただろうな…と白蓮は心で苦笑する
「ていうか、みんな、師匠のこと見えるだね?」
『あ、そういえば…』
「「「見える?」」」
白蓮と師匠の言葉に、皆が首を傾げた時
"■■■■ー…!!!"
咆哮とも、雷鳴とも取れる音が、遙か上層から響き渡る
「話はあとのようですわね!行きますわよ!」
「でっかい声にゃ~!強いのかにゃ~?」
「この上に…最後の試練が!」
"■■■■ー…!!!"
轟く声を聞きながら、皆は上層を見上げる
泣いても笑っても、これが最後の戦となる
皆はそれぞれの想いを胸に、螺旋階段へ足を掛けるのだった




