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今日の華琳さん家  作者: 黒崎黒子
97/121

普通な少女の大冒険!~前編~

皆さん…覚えていますか…?


私のこと…覚えていますか…?


そうです。あの筋肉達磨妖怪…もとい、貂蝉に連れ去られ、よくも分からない敵と闘うことになった私です…


大戦前は、一国一城の主だった経験もある私…


名前を公孫賛、真名を白蓮パイレンって言います…

呼び方は…好きに呼んで良いぞ…


みんなには…普通…普通と言われ、終いには可哀想な子とまで言われる私…


脱普通を夢見て、願い続けた幾星霜…


やっと、絶好の機会が巡って来たというのに私は…


「有り得ない…有り得ないだろ…」


雪山に一人、何者にも見つからぬようにと、洞窟内で小さく小さく…膝を抱えて座り込んでいた


正確には、置き去りにされてたんだよ!ヤツに!


突然…『むむっ!神の御告げキタコレー!』とワケの分からないことを叫んだと思いきや


『CQ!CQ!応答しなさい!御主人様に何か起きたのん!?なんですって~!!!?待っていて、ご主人様!今、助けに貂蝉が行くわよん!!!BuRoOAAAAA…!!!』


とか、雄叫び?雌叫び?を挙げながら雪山を駆け降りて行ったきり、帰って来ないんだもんなぁ…はぁ…


「麗羽たちも…美以たちも…どっかに行っちゃうしさぁ…」


一緒に連れて来られたハズの袁紹軍の三人、麗羽と猪々子、斗詩はいつの間にか居なくなり


また、南蛮軍の四人、美以とミケ、トラ、シャムもどこかに行ってしまった


つまり、私は今、一人なんだよ?


「帰りたくても、帰り道が分からないし…何より…」


洞窟の影に身を潜め辺りを伺うと、心底絶望的な状況を恨み、深くため息を吐いた


「「「フンフン…!ウホホホ…!」」」


視線の先には、二十頭ほどの見たこともない"猿"…


かなり凶暴のようで、目の前を動物が通っただけで襲い掛かっていた

何より数が異常…


「ブオオオォォォ…!!!」


その中央にはボス猿らしき、大きな猿が一頭…


小猿同様にかなり凶暴…

さっき、楽しげに鹿を谷底に投げ飛ばしていた

何よりデカすぎ…


「無理ムリむり無理だろー!?あんなヤツら、一人で倒せるわけないよー!」


一人、頭を抱えて地面に突っ伏す


そのとき、一枚の紙がひらりと、私の前に落ちた


「グスン…これ…しゃしん…だっけ…?」


目の前に落ちた写真を手に取り、まじまじと見つめる

そこには、穏やかな笑顔を浮かべる青年が写っていた


貂蝉が慌てて走って行った拍子に落とした物だ


落ちた物をそのままにしておくのも忍びないので、私が拾った


「ほ、ほんごおぉ…たすけてくれよぉ」


写真を抱き締め、懇願するも当然、返答などあるわけがない


「ううぅぅ…ほんごおぉのバカ…」


分かってるよ…単なる八つ当たりだってことくらい…

こうでもしないと、おかしくなりそうなんだよ…


「うぅ…ごめん…」


でも、やっぱり、謝っておく…


「そうだよ…。北郷は悪くない。悪いのはアイツらだよな。何で、私を置いて行くんだよ。これじゃあ、脱普通の前に野垂れ死にだよ!」


苛立ちを込めて、近くの壁を殴りつける

痛みはなかった…

むしろ…柔らかい?


「グルルルル…」


「へ?」


見ると、壁だと思われた者はもぞもぞと動いて、ゆっくりとその正体を表す


何人も寄せ付けない眼光、噛みつけば絶対に離しそうにない、大きな顎と鋭い牙、触れる物、全てを八つ裂きにする血塗られし爪


一目で分かった…

コイツはヤバい存在…

出逢えば最後、一瞬でその存在を餌に変えてしまう者


絶対的な強者だ…つまり…


「……竜?」


「グルル…ガアアアアアァァァ!!!!」


「きゃああぁぁー!!!」




「はぁ…はぁ…はぁ…!危なかった…。まさか、あの洞窟が竜の寝床だったなんて…」


洞窟から一目散に逃げ出した私は、脇目も振らず走り続けた


逃げる最中も、沢山の小猿や大猿が威嚇して来たが、私が間を縫って走り抜けてすぐに声は聞こえなくなった


なにか…すぐ後ろから…断末魔らしきものは…聞こえて来たが…


「ブルブル…!いや、考えるのは止そう!」


私は気を取り直すと、現状を確認する


周りに危険な猿類や竜はいない

一応、安全地帯ではあるようだ…


ただ、やはり、雪山のせいか…寒い…

おまけに走ったせいか、お腹もペコペコだ…


「くっ…。近くにあるのは…焚き火の跡と申し訳程度の藁で出来た寝床…そして…人骨…。……人骨???ひっ…いやああぁぁ~…!!?」


今日も今日とて、飽きもせず、私は叫びをあげるのだった




「あら?何か聞こえませんでした?」


「え?斗詩、何か聞こえた?」


「うんん?麗羽様の気のせいではありませんか?」


「そうですの?まぁ、そんなこと、どうでもいいですわ。今は目的の物を見つけるのが、先です」


「ですよねー!あの筋肉の話だと、この先の巨塔に、誰もが目を丸めるほどの金銀財宝が眠って居るらしいですから!腕も成るってもんですよ!」


森の奥を指差しながら、猪々子が眩しい笑顔で二人を振り返る


「そうですわね!誰もが目を丸めるほどの、金銀財宝となれば、袁家再興も容易く出来ますわよ!おーっほっほっほ…!」


「ね、ねぇ、文ちゃん…」


「ん?なんだよ、斗詩?」


「財宝の話なんだけさ…本当に大丈夫なの?」


「あぁ!それか!大丈夫、大丈夫!そんな沢山の財宝だろう?一攫千金になったら、あたいが、ちゃんと斗詩をお嫁にしてやるからさ!ねぇ、麗羽様?それくらい、余裕ですよねー?」


「余裕も余裕!一国一城どころか、大陸中の城を手に入れられますわよ!」


「でも…貂蝉様が言っていたのは確か…」


斗詩は顎に手を当てると、事の発端を思い出していた


麗羽(袁紹)と猪々子(文醜)、斗詩(顔良)+その他が連れて来られた雪山


その頂上から見える森丘の更に先に、天にも届かんばかりの搭が見えた

それが、始まりだったハズだ…


搭が気になった斗詩は、何と無しに貂蝉へ質問する


あの塔は何なのか、と…


対する貂蝉先生は、不気味な含み笑いを浮かべると、塔を指差し話を始めた


『どふふふ…。あなた達に、良いことを教えてあげるわよん?あの搭の最上階には、初めて見た誰もが目を丸めるほどの、金銀が眠っているのよん!』


『誰もが目を丸めるほどの金銀財宝が!?麗羽様!麗羽様!』


『えぇ!早速、頂きに行きますわよ!』


『ぬふふ…でも、今は諦めるのよん?世界一の幸運を持っていたとしても、簡単には辿り着きはしないの』


『何故ですの?最上階を目指して、搭を登るだけじゃありませんの』


『道は極端に入り乱れ、数多の選択肢の中から、正解の一本を選ばなくては、最上階には行けないのよん。…何より、行く手には危険な動物や怪物、幻想種がウヨウヨいるのよん。まずは、強くならなきゃ、辿り着くなんて無理な話なのよん』


『そんなの、行く途中で何とでもなりますわよ。さぁ、猪々子さん?斗詩さん?行きますわよ!』


『おー!』


『お、おー…』


麗羽と猪々子は、話の中身…いや、表層を掬って自分たちの都合の良いように解釈すると、やる気満々で歩き出した


長年の経験で、こうなっては二人を止めることは不可能だと知っている斗詩は、泣く泣くその後をついて行く


せめて、自分が二人の手綱を握って、危険から回避しなくては!という考えも、過去の二人の暴走と、その結果が一瞬で、笑い飛ばしてくれる


あぁ…苦労人よ…


「あぁ…何か…目から水が流れて来た…」


「なんだ、斗詩…嬉し泣きなんて、気が早いぞ?」


「ですわね。まだ、宝も目にしていないのに、気が早過ぎますわよ、斗詩さん!」


「あはは…そうですね……」


斗詩は一人、苦笑しながら涙を拭うと、心の中で質問する…


さっきまで、目にしてもいない宝を元手に、黄金の人生設計を建てていたのは何処の何方様でしょうか、と…


意気揚々と、華麗に優雅に雄々しく前進する二人の後を、斗詩は憂鬱な想いでついて行くのだった




「あっちに逃げたにゃ!」


「「「にゃー!」」」


「そっちに行ったにゃ!」


「「「にゃー!」」」


「そら!そこだじょ!一気に、釣り上げるにゃ!」


「「「にゃ!にゃ!にゃー!」」」


美以の掛け声で、竿を持ったミケ、トラ、シャムが一気に引き上げる


瞬間、日に輝く水滴を迸らせながら、一匹の大魚が姿を表した


「うむ!大きな魚だじょ!今日の晩御飯はコイツに決まりにゃ!」


「お腹ペコペコにゃ!」


「晩御飯にゃ!」


「ムニャ…ムニャ…食べたら、寝るのにゃ…」


貂蝉がいない、白蓮がいない、意地悪な麗羽もいない…


しかし、そんなことは全くと言っていいほど、気にすることもなく、食う、寝る、遊ぶという悠々自適なサバイバル生活を、心の底から楽しんでいた…




「北郷ぉ…」


雪山に一人取り残された私は、またも写真を手に涙を流していた


ここに来てもう二日目


飲み水と食料は何とか確保出来たものの、やはり、雪山脱出の手立ては見つかっていない


今、私が居るのは、あの髑髏が落ちていた小さな洞穴だ


先人であろう髑髏に手を合わせ、少しの間だけ、間借りさせてくれと頼み込んだのが昨日の話


物言わぬ遺体に何を馬鹿な、と思う人も居るだろうが、故人は偲んで然るべきものだ


自分だって、死んだ後に家にズカズカと入られ、尚且つ居座られたりしたら、腹も立つだろう


だから、心からお願いした


そしたら…


『あっははは!物言わぬ遺体に何を馬鹿な!しかし、その心遣いに感銘を受けたよ。汚い所だが、ゆっくりして行くと良い。何たって、私は死んでいるからね!家や物など、意味は無いのだから!自由に使いなさい!』


と……バケてでた…


その晩、私が絶叫を上げたことは言うまでもない


幽霊なんて、初めて見たんだもの…誰だって驚くよ…


『うむ…見事な回想だ…。我が弟子よ』


青い一本角の綺麗な装飾の髪飾りに、破廉恥極まりない衣装を身に付けた白髪の女性が、ウンウン頷きながら、私の調理した兎の肉を食べている


『ふむ…焼き加減も良くもなく、悪くもない。実に普通で、美味しいぞ!』


「普通は、余計…って、ああぁーっ!?何、食べてるんだよ!私の分は!?」


『ぺろ…ないよ?全部、食べた。そんなことより、お前、どこの村の出身なの?見たことない服だけど…』


肉汁の付いた指を舐めながら、強気な態度の女性は私を下から上まで眺める


「そんなことって…私のご飯…」


って!?なんで、幽霊が食事できるんだょ…


『ふむ…!それが不思議でね?今時の幽霊は、腹も空くし、眠気もあるし、熱さや寒さも感じて、おまけに壁もスリ抜けられない…らしい』


やれやれだね…と、女の子は、肩を竦めて首を振って見せた


「い、今時の幽霊って…。大体、勝手に人の心、読んでるし…」


『まぁ、そんなにケチケチするな。ケチは早死にするぞ?私も、生前はそうだった』


「くっ…幽霊が言うと、説得力がある…」


『あはは!そうだろう!経験の差が違うからな!それより、さっきの質問の答えは?』


「出生か?私は、修行のために魏から来た。大事な人のため、強くなりたいんだ」


写真を手に取り、写っている青年を見つめる


彼は最早、三国の中心と言っても良い人物だ


普通の私など、縁遠いはずなのに、彼は屈託ない笑顔で私に話し掛けてくれる


そして、私の悩みに光を差してくれたのだ


本当に、感謝は尽きない


『オトコ…か…?』


「ち…違うからな!?これは偶然、手に入れただけだ!」


『なんだ、ストーカーか』


「すとおぉかぁ……?」


『うーん?……あれだよ!相手を好きで好きで大好きなヤツのことだ』


「へぇ…って!?だから、違うって!私は別に、北郷のこと…その…好きとか…そんなんじゃなくて…。あ、でも、決して嫌いでもなくて…その…うぅ…」


『なるほど、憧れか…』


「あ、あぁ…今はそのほうが、しっくりくる」


言われて気付いた…

私は、彼に憧れを抱いていたのか…


『まぁ、憧れから始まる恋もあるってね!それにしても、いい男だねー?本当、私好みの男だよ。なんか、雰囲気もアイツに似てるし。はぁ…元気にしてるかな~…?』


「あっ!?あ!あぁー!」

写真を私の手から奪うと、写真眺め、微笑みを浮かべる


しばらく、写真を眺めていたが、しっかりと目に焼き付けることで満足したのだろう、その豊満な胸に当て、ため息を漏らした


もう片方の手で、ガッチリと私の頭を押さえながら…


程よく引き締まっているとは言っても、女の身だ


一体、その身体のどこにそんな力があるのか、彼女の腕を払いのけるなんてことは全く出来ない


『しかし、あんた、力ないね~?』


「グサッ!?」


『私一人の力もどうしようもできなきゃ、この辺りのモンスターなんて、相手にできないよ?』


「そ、そんなに強いのか?」


『あぁ、強い。特に、この雪山の主…恐竜みたいなヤツがいるんだが、アイツは別格だ』


「あ!そいつなら、さっき、あったぞ?」


『…うそを言うな』


「うそじゃない!黄色い、大きなトカゲみたいなヤツだろう?恐ろしい速さで地面を走るやつ…」


身振り手振りで、あの恐怖を再現する。本当に良く生きていたものだ


『本当に良く生きていたな…。そんな薄っぺらい装備で。捕まれば一瞬で、紙のようズタズタにされただろう。良かったな、生きてて』


心底、呆れたようにため息を吐くと、女は写真を手渡し何やら、ゴソゴソと寝床の下をあさり始める


「何をしてるんだ?」

『んー…確か、この下に…あ、あった。ほら、受け取れ!私のお古だが、切れ味は保証するぞ?』


寝床の下から何やら、小さな盾と片手に収まる太刀を取り出すと、私に手渡してきた


「な、何これ?」


『片手剣だよ。動きやすさに特化している上、切れ味、防御共に申し分ない。初心者には丁度良いだろう』


ニッコリと微笑むと、ウンウンと腕を組んで頷く


その姿には、この武器への愛着と信頼が見て取れた


「隠すくらいだ。これ、大事な物じゃないのか?」


『あぁ、私がまだ駆け出しだった頃に、教官から頂いた物だ。私はソイツに、何度も助けられ、そして、ソイツのお陰で一流のハンターになれたんだ』


愛おしげに、武器を撫でると小さく微笑み、私を見つめた


『強くなりたいのだろう?愛する者を守る力が欲しいのだろ?』


「力…」


私も手の上の武器を見つめ、ポツリと呟く

その刀身は長く仕舞われていたにも関わらず、未だにサビや汚れどころが、曇り一つ無かった


『私が師となり、お前の力を引き出し、限界まで高めてやる。大丈夫だ、安心しろ。これでも、村を救った英雄と呼ばれたこともある。力は本物だぞ?』


自慢げに、その豊満な胸を張ると師は、ニッコリと微笑む


年は私と変わりないようなのに、その姿からは自信が漲っていた


私は、そんな彼女に、素朴な疑問を投げかけてみる


「その英雄が、何故、こんなところで骸に?」


『うむ…!回復薬をケチった』


笑顔で言ってのけた彼女に、私は心から思った…


他に師を探そう、と…




「はっ!そこ!やぁー!」


『ふむ…お?…ん~…』


雪山で私は借りた片手剣を振っていた

相手は自称一流ハンター…の幽霊


名前を聞いたが、死んだショックで忘れたと、苦笑された時は目眩がしたのは言うまでもない


師匠になってやる、と豪語した彼女だったが、彼女の実力を知らない私は、戸惑っていた


その様子に気付いた彼女が、試合を申し込んで来たので、私は快く承諾したのだが…


『あはは…!白蓮、ヨワヨワ~』


「ううぅ…」


ものの一刻で勝敗は決し、同時に師弟関係も決定した


強かった…。下手すると、貂蝉や先生たち並みに強いかもしれない


『しかし、白蓮?あんた、力も速さも、弱々しいね?』


「う、弱い弱い言うなよー!私はこれでも、"普通普通"って言われてたんだぞー!」


『へぇ…普通ね~?昨晩は気に留めなかったけど、あんたの国では、これが普通なのか…。私たちの国では有り得ないね?』


「じゃあ、この国では、私はどれくらいなんだよ…」


『毛も生えてない子供だね!』


心底可笑しそうに腹を抱えて笑いだした


「むっか~!いいよ!私の本気、見せてやるから!」


『へぇ…?』


余裕そうに微笑む女に、私は全力で駆け出し、渾身の力を込めて打ち込んだ


のが…懐かしい…


結果、私はさっきより、数段早く、地に沈められることとなった


そして呆気なく敗れた私は、その幽霊師匠の元で、修行の毎日を送ることになったのだ


『あ、白蓮。今日、卵が食べたい』


「卵?そんなの、どこに…」


『あの山の天辺に巣があるから、取ってきて』


「巣?あの天辺?高いよ!?」


『あ、因みに何処からか住み着いた飛竜の巣だから、気を付けてね♪』


「え?」


毎日、無理難題を押し付けられても、それでも私は強くなるためだと、自分に言い聞かせ頑張り続けた


『あ、白蓮?魚が食べたいよ?』


「はいはい。すぐ、釣ってくるから…」


『あ、ただの魚じゃなくて、竜種のヤツね?大きくて、美味しいんだ~!ただ、気を付けてね?下手すると、自分が餌になっちゃうから』


「え?」

この雪山には、恐ろしい存在が沢山、沢山、共存しているらしい…


私は無事、山を降りられるだろうか…?

それだけが、私は心配です…




「さぁ!着きましたよ!麗羽様!」


「ぜ…はぁ…ぜ…はぁ…」


「だ、大丈夫ですか?麗羽様…。お水飲みます?」


「一体全体、何ですの!?さっきの森は!変な羽の生えた、大きなトカゲが居るなんて、私は聞いてませんわよ?」


先ほど通り抜けて来た森丘を指差しながら、袁紹が叫びを上げる


どうやら、森の中で、三人は飛竜に襲われたようだ


「麗羽様…?アレ、トカゲじゃなくて、竜ですよ?」


「竜…?あれが、竜?嘘おっしゃい!竜っていうのは、蛇に手足が生えていて、鹿のような角が付いていて、尚且つ、七つの玉を集めないと、出て来ないんですのよ!?」


常識ですわ!っと、麗羽は腕を組んで鼻を鳴らす


猪々子と斗詩は顔を見合わせると、苦笑しながら、麗羽に手を振った


「いやー、麗羽様?色々、間違ってますよー。その知識…」


「七つの玉って、それこそ、伝説ですから…」


「ですから、竜など、伝説上の生き物だと、さっきから言っているでしょう!?あれは、トカゲですわ!」


「トカゲは火を噴きませんよ?」


「アレですわよ。腹の中に、どこぞの周瑜さんでも居たんですわ」


「うわ…無理ある解釈…。斗詩、どうしよう。姫が有り得ない現実に、御乱心されてしまった…」


「もう、トカゲでいいと思うよ?実際、竜っていうほど強く無かったもん。本当にトカゲの仲間かもしれないし」


そういうと、斗詩はパンパンに詰まった革袋を持ち上げ、首を傾げた


この袋の中身は…トカゲと言われた存在を倒した時の戦利品


爪やら皮やら、牙やら骨やらだ


それも一頭ではなく、二桁はゆくであろう量の素材である


貂蝉が見たら、驚愕するに違いない


彼女たちが抗うには到底不可能な力を持つ存在を…到底不可能な量を…倒して来たのだから…


「でも、この森って、最初は弱いのしか居なかったけど、どんどん奥に行くほど強くなって来たよね?数も凄かったし。はぁ…」


「だよなー…。最初は、あたい等くらいの大きさだったのに、いつの間にか、山みたいになってたし。はぁ…」


斗詩と猪々子は、ここまでの経過を思い出すと、よく今まで生きていたと思った


一体や二体の竜を同時に相手にするなんてのはザラにあり、最悪…四、五体を同時に大立ち回りをしたこともあった


今では、あの一刀に似た絡繰りが、玩具のようにすら感じてしまうのは何故だろうか…


「「それもこれも…」」


二人はジト目で、ガブガブと水を飲む袁紹を見る


「んく…んく…ん?ぷはぁ……なんですの?」


二人がこちらを見つめる理由が分からず、思わず首を傾げた袁紹さん


そう…。目の前の彼女こそが、数多くの敵とエンカウントする元凶であり、そして、彼女たちのレベルを短時間で跳ね上げる結果をもたらした人物であった


『はぁ…。喉が渇きましたわ…。ちょっと、猪々子さん?お茶を買って来ませんこと?』


『えぇ!?いきなりですか!?』


森丘を抜ける途中、最短ルートを行こうとした二人を止めたのは、そんな袁紹の一言であった


『…?……喉の渇きは、いきなりくるものですわよ?』


『それはそうですけど…。な、なぁ、斗詩ぃ…』


『れ、麗羽様?さすがに、この辺りに茶屋ないと思いますよ?』


周りを見渡せば、深い草木の囲まれている

どう考えても、そんなものあるわけがない


『はぁ…仕方ありませんわね。水で我慢します。猪々子さん、水のある場所は分かりますの?』


『ほっ…。それぐらいなら、なんとか…。えーっと…?』


猪々子は目を瞑ると、静かに耳を澄ませる

自らの呼吸も殺し、周囲の音に集中し始めた


『うーん…。これは鳥…羽虫…獣…。うん?…あっ、あった。水の音だ。あっちにありますよ!』


しばらく耳を澄ませていた猪々子は、川の位置を特定したのか、自信満々に森の奥を指差した


『相変わらず、人間離れしてますわね…猪々子さん。もしかすると、北郷さんと、どっこいどっこいかもしれませんわよ?』


『あはは!斗詩!あたい、アニキと同列だって!どうしよー!あたいも、超人になれるかな?』


『そ、そうだね?(文ちゃん…たぶん、誉め言葉じゃないと思うよ?)』


意気揚々と川を目指して歩き始める猪々子に、斗詩は複雑そうな表情を浮かべると、静かに頷いた


『あ、そうですわ。ついでに魚も釣りますわよ』


『えー…?麗羽様、お腹空いてるんですか?』


『いいえ?でも、折角、見たこともない地に来たんです。食べたことも、見たこともない物も沢山あるに決まってますわ!それを吟味せずして帰るなど、袁家の名に恥じますわよ!』


『…あ、あたいは、遠慮したいなぁ』


『…わ、私も…』


『はぁ…。そんなことだから、いつまで経っても、脇役を抜け出せないのですわ』


『『がーん!!?』』


『いいですこと?私が見たこともない物、それはあの国では、誰も見たことが無いものですわ』


『ま、まぁ…。麗羽様は曹操様と並ぶくらい…』


『斗詩さん…?』


『ま、間違えました!麗羽様は曹操様以上に、新しい物好きですね!』


『そうですわ。その私が、見たこと無い物は、当然、くるくる小娘も見たことが無い物。そんなものを手に入れられれば、世にも珍しい曹操さんの悔しがる姿が見れますわよ!おーっほほほ……!』


『つまり…曹操様に自慢話をしたいだけ…。はぁ…』


『みたいだね…。はぁ…』


高笑いを上げる袁紹の後ろで二人は、深いため息を吐く

袁紹の曹操嫌いは、相当なものだ


いや…本当のところは違うのかもしれない

気になるからこそ、見掛けるだけで、突っかかる


言い換えれば、それはまるで、現代でいう『気になる子をついつい、いじめちゃう病気』…みたいなものだろうか


『さぁ!珍しい物は全て頂いて行きますわよ!おーっほほほ…!』


『『アラホラサッサー…』』


こうして、袁紹の気紛れにより、世界をか~~なり、遠回りしながら、目的地に到着した


結果…


「魚みたいな竜、鳥みたいな竜、黄色に赤に緑、鋼の竜、沢山たくさん倒してきたね」


「だなぁ~。でも、麗羽様?そいつらから、剥ぎ取った素材…こんなに溜まってしまいましたけど、どうします?」


「斗詩さんは、どうですの?まだ、行けますの?」


「うーん…。流石にこれ以上は、自由に持ち歩けないかと…」


「困りましたわね…。塔の最上階にある金銀財宝もありますのに…」


女の子独りが持つには大き過ぎる風呂敷包みを広げながら、三人は頭を悩ませる


初めて見る存在に、あまりに欲が出過ぎたか、その風呂敷には一人が持つには限界過ぎる量の素材が入っていた


「ふむ。おぉ!?これはこれは!大変に良い素材が揃っているね!ほほぅ?しかも、稀少な素材まで…こりゃ、運がいい!」


「「「なっ!?」」」


突如、背後から掛けられた言葉に、三人は驚きの声をあげると、脇から覗き込みながら素材を物色する人物を見つめる


「あ、あなた!一体なんですの!?勝手に人の物を触るなんて無礼じゃありませんの!」


「あ、あぁ!悪いわるい!あまりに良い素材だから、つい興奮してしまったよ!」


職業病かな~?と男は頭を掻いて苦笑する


「しょ、職業病?あなた、一体、何者ですの?」


「俺かい?俺はこの世界で、最も腕利きの鍛冶屋やさ!」


三人の警戒をよそに、男は素材を手にして、自慢げに胸を張るのだった…




袁紹組が謎の鍛冶屋と遭遇している頃、雪山では、一波乱起きていた


「え?私に?」


『う、うん、らしいよ?』


困惑する白蓮に、先生は苦笑しながら、頷く

そんな二人の前には


『…………ウホ』


雪より白い毛を、その身に纏った大猿が居た

しかし、二人に襲いかかる雰囲気は全くない


それどころか、手には野山から集めて来たであろう、色とりどりの花たち


ボス猿は、その花束を白蓮にそっと差し出して来たのだ


『求婚…されてますよ…?白蓮ちゃん…良かったな…』


「良くないよ!相手は山の大将の一人の一人じゃないか!」


『いや、気にするのは、そこじゃないだろ?』


「そ、そうだった…。お前!」


『ウホ?』


ビシッ!と、ボスを指差し、白蓮は大声で宣う


「求婚するなら、服くらい着てから、来いよ!」


『ウホー…!?(ガーン…!?)』


『白蓮!?そこ、もっと違うところでしょ!!?』


「あ、すまない。なにぶん、求婚なんて、初めての経験なもんで、気が動転してた」


『動転し過ぎだよ!?気にするのは、相手の種類でしょ!?猿だよ!?人間じゃないんだよ!?見てよ!あの顔!あの体毛!種類が明らかに違うでしょ!?』


「そ、そうだった…。おい、お前!なんだ、その全身の毛は!?毛の処理は大事だぞ!?身なりを整え、出直せよ!」


『ウホー…!?(が、がーん!?)』


『もう黙ってよ…白蓮…』


先生はシクシクと泣きながら、自分の修行がいけなかったのかと、後悔し始めた


調子にのって、色んな場所で修行をさせたのが拙かったか…


それとも、人の居ない環境が拙かったのか、先生には全く分からない


『だいたい、あんた、何でウチの弟子に惚れたの?もっと、いい奴は群れにいるでしょう?』


『ウホ!ウホホ…!ウホー!』


『ふむ…ふむふむ…』


「師匠?猿の言葉が分かるの?」


『いや?全く、分からん…。でも、諦める気は無いみたいだね?』


「じゃあ、どうすれば…。やっぱり、求婚を受けるしか…」


『あんた、人外堕ちの願望者?まぁ、人の趣味に口は出したくないけどさ』


「ううぅ…ならばいっそ、アンタも巻き添えに…」


『ふっ…。私は幽霊だよ?いくら、イヤらしい服を着ていようが、触れることが出来なければ、犯される心配などないよ』


師はニカッ!と笑い、その胸元をチラリと見せ付ける


「くっ…イヤらしい自覚があったのか…」


『無論だね。それより、このままじゃ、連れ去りそうな勢いだ。どうする?』


「要は、倒せばいいんじゃない?」


『だね。モンスターは弱肉強食。相手が自分より強いと分かれば、諦めるだろ』


「そうと決まれば、おい!お前!勝負だ!私が勝ったら、諦めろよ!」


『…フンフン!…ブオオォォ~~!!!』


言葉は通じなくとも雰囲気で理解したのか、ボス猿は声を上げる、胸を叩き始めた


『学説的に、あれはドラミングというらしい。同種のゴリラに見られる威嚇行為だね』


「つまり、敵と見なしてくれたわけか…」


『そういうこと。さぁ、来るよ!構えな!』


「あぁ!」


『ブオオォォー!!!』


人間としての尊厳と清き乙女の純血を守るため、白蓮の大勝負が今、始まる!




次回に…続く!!!

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