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今日の華琳さん家  作者: 黒崎黒子
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To the next step.

「もう、動いて大丈夫なんか?」


「ん…大丈夫だよ!みんなのお陰で完治したから」


服をめくると、完全に塞がった傷口を叩きながら、笑顔で頷く


傷口再度爆発事件から一月の間、俺は軟禁状態にされた


それこそ、修業はハブられ、私生活でも二十四時間の監視付き…


一切の無理や無茶は許されず、皆様、ご丁寧に腫れ物扱い


何が酷いって、傷口の負担になるからと


夜の営みすら禁止…


引き金になるからと…


キスも禁止…


手を繋ぐことも禁止…


指一本、肌一つ触れることすら禁止…


禁止禁欲禁止禁欲禁止禁欲……!!!


「ふっ…気が狂いそうだったぜ…」


偽物の太陽を見上げながら、俺は遠い笑顔で微笑みを浮かべる


でも、それも今日で終わりだ…

そう…終わりなんだー!!!


「ヒャッホ~!ザ・フリーダム!イッツ・ア・ビューティフル・ワールド!!!イエス!イエス!イエ~ス!」


「御主人様…乱心?」


「恋…見るな。御主人様は少し、病気にかかってらっしゃるのだ」


「でも、治った?」


「恋。指を差しちゃダメよ~?一刀の病気、移っちゃうから」


「だーれが、世界を滅びに向かわせるほどの踊りを踊る貂蝉病の感染者か!」


「「「そこまで言ってない」」」


「あはは…!いやー!久々の開放感!監視もない!腫れ物扱いもない!病人扱いもない!最高だねー!」


俺は嬉しさのあまり、武器を手に取るとブンブン振り回し、終いにと地面に振り下ろした


「「「くっ!?」」」


「あはは…!嬉しさの余り、手加減し忘れた!あははは……!」


気付くと、俺を中心に隕石が落下したかのようなクレーターが出来ている


はっ!?なぜ、こんなことに?

って、犯人、俺しかいないやーん!

まぁ、快気祝と思って、許してくれるだろう


その皆さんはといえば、ギリギリのところで避けたのか、冷や汗を拭いながら、穴を覗き込んでくる


「一月、離れていただけで、忘れていたわ…。一刀の異常さ」


「おいおい、いくらなんでも、この穴はないだろう?北郷のヤツ、どれだけ力を込めたんだ?」


「たぶん…御主人様、力、入れてなかった」


「それで、これかいな!?ウチらとの試合の時と雲泥の差やないかい!」


「(手加減しているのは知っていたが、まさか、ここまでとは…。御主人様…いったい、あなたの本気はどれくらいなのですか…?)」


皆に動揺が走るなか、当の本人である俺は嬉々として準備運動を行っていた


その間も、少女たちのワクワクコソコソなお話は続く…


「さ、さて!準備運動完了!みんなには心配かけました!それじゃあー、修業を再開しようか!」


「「「おおー!!!」」」


少女たちの好奇心丸出しの視線に耐えかねた俺は、わざと明るく振る舞うと、皆に笑顔で修業再開を宣言した


歴史に名だたる武人でもやっぱり、女の子


女性独特の集団の視線や雰囲気は、男の俺にはかなり痛いんだよね~


「まぁ、いいや…」


「「「?」」」


「いや、本当に何でもないよ。それより、俺が休んでる間、修業に進展はあった?」

何せ、修業への関与は全面的に禁止されてたんだ。その後、彼女たちに何があったのか、俺には全然、分からない


「そうねー。一月、ずっと、稽古だったわよ?師範たちは、各自の持ち場を離れられなかったから」


「せや。毎日、試合してたわ」



雪蓮と霞はここ一月の流れを、ざっと思い出すと確認するように、周りを見回した


皆も武器を手に笑顔で頷く


「んじゃ、お手並み…拝見といきますか!」


俺も笑顔で頷くと、例の如く、正方形の線を引き、武器を構える


皆、久々の修業に嬉々として微笑むと、誰ともなく、挑み掛かっていった




「くっ…!さすがですね…。やはり、御主人は手強い」


「病み上がりとは、到底思えへん動きをしよるわ」


「でも、動きは確かに鈍っているわ!大丈夫!やれるわよ!」


「当たり前だ!ここで、北郷などに手間取っていては、国を守るなど、民を守るなど出来はしないのだからな!」


「そう…みんな、強くなる!」


ひとり、また一人と挑んでは、息を切らせて立ち止まる

しかし、すぐに武器を構え直すと、すぐに切り結び始めた


対する俺はというと…


「(ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!)」


かなり、焦っていた…それも、本気で!


だって、みんな、ヤリヨルよ!?


あれか?一月の間に、体力が落ちたのか!?


それとも、技術が落ちたのか!?


いや…違うな…


「「「はああぁぁー!!!」」」


「ふっ!」


全力で打ち込んでくる少女たちに、俺は微笑みを浮かべると、太刀を横一線に凪払う


「「「っ!…はっ!」」」


それを軽々と避けると、距離を置いて武器を構え直した


皆、集中を切ることなく、四方八方からジリジリと皮膚を焼くような殺気を放ち続けている


素晴らしい成長だ…

俺がいない一月、彼女たちは真剣に切磋琢磨してきたのだろう

技術も、体力も、心眼も…全てが比べ物にならないほど上がっている


「本当に…強くなったね…」


「「「っ…」」」


俺は微笑みを浮かべると、武器を下ろし、周囲を取り囲む少女を見回した


「本当に、頑張ったんだね」


我ながら、落ち着いた声色をしていると思う


そう、言い表すなら、我が子の成長を見守る父のような気持ち


幸せと寂しさ、何よりも俺を超えんとする成長の断片を垣間見れたことが、何より嬉しかった


この世界にある万物は、俺、北郷一刀から生まれたものだと、いつか、言われたことがある


正確には、"起点の北郷一刀"だが…


どちらにしても、"この世界"の万物は"俺"が起点であろう


なら、目の前の少女たちは、俺の娘たちと言っても過言ではないはずだ


「本当に…本当に強くなったな…」


「「「え?か、一刀!?」」」


つい感極まって、目尻に涙が浮かんでしまう

それを見た皆が、オロオロと心配そうに見つめてきた


いかんいかん…。まだ、修業は終えていないというのに…俺は何をしてるんだよ…


「ぐっ…!!!よし!最後だ!俺を、超えてみせな!」


少女たちを手で制すると、涙を拭い、太刀の切っ先を向けて微笑んでみせる


「涙など流して…そんな調子で大丈夫か?」


「大丈夫だ。問題ない」


春蘭が苦笑しながら、見上げてくる


どうやら、俺の心象を読み取り、理解してくれたようだ

だったら、むしろ、触れないでほしいところだが、春蘭に求めるのは苦かな?


「まぁ、いいわ!さぁ、一刀!覚悟して!」


「せや、ここらで次の段階、行かせてもらうで!」


「ふむ…。つまり、俺に一太刀浴びせて、仕上げと言うわけね。オーケー、面白い!なら、その大言壮語!現実にしてみればいいだろう!」


「「「ふ…。いざ!尋常に勝負!」」」


俺は武器を担ぐと、口元を吊り上げ挑発する


皆も、一瞬の微笑みを浮かべると、武器を構えて駆け出した


「はっ!」


最初に仕掛けて来たのは、雪蓮

南海覇王を上手く使いながら、俺の隙を産まんと果敢に挑んできた


俺の日本刀よりリーチは短いものの、攻撃の手数を増やすことで、上手く立ち回っている


「しかし、それでは、攻撃に重さが欠けるね!そんなもの、軽く弾き返して…っ!?」


「ふん!」


太刀を弾き返された雪蓮の隙を埋めるように、斬りつけて来たのは春蘭


得意の大振りで切り返しの出鼻を挫いてくれる


その重みのある太刀が俺の身スレスレを通過していった


受け止めることは簡単だが、それでは隙が出来てしまう


その隙を突き、雪蓮が横から斬りつけてくることは裕に予想できた


「ふ!せい!やぁ!」


「はっ!そこ!まだだ!」


「っ…」


息のあった二人の連携プレーを凌ぎながら、改めて感心する


一月前までは、俺の目の前で口喧嘩を始めた二人が、今では戦陣を切って俺を倒さんと挑んでくるのだ


それも、互いの足を引っ張ることはなく、まるで最初からそうであるように、自然と互いの隙を埋め合い、一糸乱れぬ動きで俺を翻弄する


(凄いな…。本当に頑張ったんだな、二人とも…。しかし…)


俺は苦笑すると、二人の後方に目を移した


「「「……」」」


(どういうつもりだ?何故、攻撃をして来ない?)


槍を持つ三人は静かに武器を構え、俺を見つめている


(試しに、斬りつけて見るか…?)


「「させないっ!」」


「ちっ…無理か…」


一瞬、こちらから行こうかと考えたが、それも前衛に阻まれ断念する


全く…ヤキモキさせてくれるなぁ…


「ならば!」


「っ!?」


「させんと言って…くっ!?」


雪蓮の太刀を弾き上げると、春蘭の太刀をかわし、その腹に掌手を当てる


これ好機!と春蘭が怯んだ隙を突いて、雪蓮を斬りつけた


「ふっ…甘いで?」


「だよな?」


振り下ろされる太刀を、霞は余裕で防ぐと雪蓮を庇うように間に身を滑らせる


ならばと、春蘭に狙いを変えようとすると、脇から光が走ってきた


身体を捻り、慌てて避けると、その正体を見据える


「…外しましたか」


光の正体は、堰月刀愛紗は外したことを意にも介さず、再び堰月刀を構え直した


「ヒュー!今のは、マジでヤバかった!」


「…そのわりには、余裕そうに笑ってらっしゃいますね。ですが、それもここまでですよ…!破っ!!!」


愛紗は苦笑すると、表情を引き締めて堰月刀を突き出してくる

その早さは、今までの比ではない


まるで光の如きそれは、俺の首を斬り取らんと、音もなく近付く!


「っ!?」


何とか、堰月刀の刃を流す…が!?


「刺っ!」


光が頭を掠めて行く後ろから、黒き影が後を追うように、腹を狙って突き出された


「くっ!?危っ!」


身体を捻り、何とか紙一重で避けると、腹を掠った正体を確かめる


「惜っしぃなぁー!」


黒龍の装飾がされし堰月刀…

迅速の張遼…霞の愛刀だった…


「まだだ!霞!」


「当然や!」


光と影を纏いし双振りの堰月刀が、俺の意識を刈り取らんと頭や腹、脚や肩を狙って振り抜かれて行く


(この二人もまた、速さも威力も上がっている。よくここまで、高めたもんだね…)


""シュッ!""


息のあった二人の攻撃に素直に感心していると、再び、風を斬る音が両横から聞こえてくる


「っ!?とっ!」


「「ちっ!」」


完全な奇襲…二つの太刀が頭と脚を狙って、振り抜かれた


軽く飛び上がり、空中で丸まると、春蘭と雪蓮の太刀が、掠めていく


無事に着地すると、四方から槍と刀が突き出された


こりゃ…あの時と同じ流れだな…はぁ…


俺は苦笑すると、雪蓮に太刀を突き出すために空中で構える


あとは、太刀に怯んだ雪蓮が武器を引っ込めて、着地…後は、太刀で周りを牽制して、一旦区切りを…


そこまでイメージした時…


「ぐはっ!!?」


肩に痛みを感じて、地面に叩き付けられた


「な、なにが…っ!?そ、そうか…」


突然の痛みと衝撃に混乱する頭で、背後を振り返ると、次の瞬間、俺は苦笑を浮かべることしかできなかった


「恋…」


「ん…一本…」


俺の視線の先では、嬉しそうに微笑みを浮かべる少女が、愛刀である方天画戟を担いで立っている…


三国の武の象徴と謳われる者…呂布奉先


完全に、忘れていた!

いや…忘れ"させられた"の間違いか…


「「「ふふ…」」」


周りを見渡すと、恋と同じように満足げな微笑みを浮かべる少女たちが立っている


彼女たちが全力で、尚且つ、勇猛果敢に打ち込んで来た理由は全て、この一撃のためであることは、その表情から簡単に読み取れた


「ははは…いや、参ったよ。本当に…」


俺はゆっくりと立ち上がると、打たれた肩を撫でながら、満足げに頷く


「今の一本…認めるよ…。皆の勝ちだ…」


「「「やったー!」」」


俺の頷きに、その日一番の歓声が、修業部屋に響く


「御主人様…痛い…?」


「恋か…。いや?大丈夫だよ。明日には、治るから」


「ん…良かった…」


心配そうにのぞき込んでくる恋の頭を、優しく撫でると、俺は周りを見渡した


(本当に皆、強くなったなぁ)


たった一月で、ここまで強くなるとは予想だにしていなかった


この分なら、最後の修業も早く片が付きそうだ


「おめでとう、みんな」


「一刀のお陰よ?本当に、ありがとう」


「そうですよ。今なら、分かります。自分の力がどれくらいなのか。また…」


「そやな。同時に一刀の力が底知れんってことも、よう分かるわ」


「北郷。お前、まだ、力を隠しているな?」


「ん…。御主人様、最後まで闘気が薄かった」


皆は、満面の笑顔から一転、少し不服そうに俺を見つめ返した


「はは…まさか、見抜かれてたとはね?正直、驚いたよ」


俺は首肯すると、静かに上着を脱ぎ捨てた


「「「やっぱり…」」」


俺の格好を目の当たりにした皆は、納得したように頷くと、近付いて手を伸ばした


「北郷…これは、重石か?」


「うん。空のお手製のね」


小さな鎖で編まれた服を纏っていた

西洋の鎧『チェーンメイル』だ


更に、その強度を増す為に、至る所にプレートを縫い付けてあるため、防御は万全


実際、恋の渾身の一撃も軽度の打撲で済んでいるのは、この防具のお陰とも言える


まぁ、弱点は…言わずもがな、重さと全身を覆っている鎖の非伸縮性だよね


つまり、機動性が低い…残念!


「それを取ったら、どうなんねん?」


「ふっ…」


俺はニヒルに笑うと、首を振るしかなかった


「「「……」」」


皆も遠い目で、薄い微笑みを浮かべると、何事も無かったかのように、武器を片付け帰宅の準備を始めた


そうだ…それでいいんだよ…みんな…

本当…心まで強くなったね…


ちくしょー…


「まぁ、今日で基礎は終わりだね。明日から、最後の行程に移るから気を引き締めて行こう!」


「最後の行程…?まだ、何かあるのか?」


春蘭を筆頭に首を傾げる皆に頷くと、俺は静かに、恋へ向き直る


「ん…御主人様…?」


「お待たせ、恋…」


「っ!」


俺の言葉に恋は目を丸めると、自身の愛刀と俺を交互に見比べ、深く頷くのだった

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