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今日の華琳さん家  作者: 黒崎黒子
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北郷的、男の哲学

「大丈夫か?」


「んー…あぁ、大丈夫かな?」


腹の包帯を叩きながら、俺は苦笑してみせる

対する左慈は呆れたように首を竦めると、現代でもよく見るカルテを手にして説明を始めた


「傷は見た目だけだ、中の損傷は一切なし。動脈一本、斬れていない。」


「奇跡だね!」


「全くだ。俺の心配を返せ、バカオヤジ」


「いや~、すまんね!心配かけた、悪い!今度、ご飯奢るよ!」


「はぁ…軽い」


何かに耐えるように、左慈は頭を押さえると、深いため息を吐いて周りを見渡した


周りには、心配そうに見守る衛生兵の姿がある

さらには、扉を開いて沢山の一般兵の姿…


さらにさらに、窓の外にも一般兵…


さらにさらにさらに…その後ろには心配そうに見守る民衆の姿があった


「はぁ…お前たち、戻っていいぞ?」


『は、はぁ…、本当に大丈夫ですか?』


「あぁ。全く、全然、問題ない。健康体だ」


「だそうだ!あはは!心配かけたね!ごめん!」


『ほっ…そうですか。良かった…』


皆は胸をなで下ろすと、静かに部屋を退室していった


誰一人、居なくなったところで、二人はぐるりと周りを見回す


注意深く気配を探り、誰も居なくなったことを確認すると、二人声を殺して話を始めた


「さぁ、早く戻って手術をしよう」


「うん。ご迷惑をお掛けします。…ありがとう、左慈」


「はは…仕方ないだろう?心配かけまいとする気持ちは理解できる。しかし、よく耐えたな」


「正直、のた打ち回りたいくらい痛い…」


「くく…そうか。どれどれ?」


「む゛ぐっっっ…!!?」


左慈は黒い笑いを浮かべると、俺の脇をつついてくる

激痛に耐え、口を真一字に結ぶと地面に突っ伏した


「わ、悪い!そこまで酷いとは…!は、早く戻ろう!すぐに、扉を出す!」


「(ブンブン!!!)」


「は!?えっ?なんだ!?」


「…お、おつかいが…」


「そんなものは、後でいい!」


「いや…持って帰らないと…怪しまれる…」


「えぇい!くそっ!厄介な!分かった、揃えて来るから待っていろ!絶対安静にな!」

「ぐっ…確かにヤバい…。少し横に…」


左慈は苦虫を噛み潰したような顔をすると、叫びを上げて部屋を飛び出して行った


待つこと数秒…


「揃えたぞって!?えっ!?はぁ!?」


部屋の扉をけたたましく開きながら、左慈が飛び込んできた


早かった…確かに早かったよ?


でも、勢い余って転がり込んで来るもんだから、山積みの荷物も一緒に飛んで来るだもん


「ぐっ!?△○□×◎~~~…!!?」


荷物の鉄鍋が空を待って、傷口のある横腹に激突する


俺は布団に顔を埋め、声にならない声を上げながら、悶え苦しむ


「す、すまん!」


「すまんじゃねぇよ!危うく、死にかけたよ!横腹、グリッ!ってなったよ!鉄鍋が最強の武器に見えたよ!」


「元気だな…」


「必死なんだよ!!!」


「へぇ…しかし、あんまり叫ぶと傷口に…」


「っ~~~!!?」


「手遅れか。早く、いくぞ!」


「足!足を掴むな!背負えよ!引きずるなよ!」


「黙れ、病人が!最近の俺の扱いの悪さに対する、復讐という名のクレームだ!」


「えぇーー!?まさかの公私混同!?」


「ほら、お喋りはいいから、いくぞ!」


「あ、待った。マジで立っていくよ。無傷を装わなきゃ」


「ふむ…仕方ない。ただ、荷物は持つぞ?いいな?」


「すまん、頼む」


左慈に荷物を預け、身なりを確認すると、扉をくぐる


大丈夫…手術までの辛抱だ

正直、フラフラだが、何とか行けるさ

大丈夫…扉をくぐって、医務室へ向かうだけだ

すぐ、そこさ。それまで悟られなければ…


「ただいまー!」


「あ!一刀~!」


「え?ぐはっ!?ん゛~~~!!!」


「ほ、北郷!!?」


「ま゛、まっで…」


扉を開けた瞬間、桃色髪の可愛い女の子が飛び込んでくる


真っ青になって駆け寄ろうとする左慈を手で制すると、俺は腹にすがりつくシャオの頭を優しく撫でる


流石は、蓮の娘にして、雪蓮の妹…攻撃力が凄まじい…


「一刀~!遅いよ~!」


「あ、あぁ。ごめんね?準備に少し、戸惑ってね…待った?」


「待ったよー!沢山、待った!」


「あー!!!お兄ちゃん、帰って来たのだー!?」


「へっ?ぐはっ!!?」


「ほ、ホンゴー!!?」


「ぐっ!よ、余裕だ…」


「(か、顔が引きツってるー!?)」


手で左慈を制しながら、また飛び込んできた少女の頭を撫でる

蜀の元気娘、張飛ちゃんだった…


「あーっ!!!兄ちゃんに何、抱き付いてんだよ!チビッコ!兄ちゃんはボクのだぞ!」


「違うでしょ、季衣!兄様はみんなのモノだよ!」


「がはっ!!?」


季衣…流琉…まさかの君たちまで…


「(シんだ…絶対シんだよ…北郷…)」


ガクガクと震える左慈を横目に俺は微笑みを浮かべると、腰の周りで揉み合う少女たちの頭を優しく撫でる


「ただいま…みんな…」


「「「お帰りなさい!」」」


みんな、笑顔で頷き、頬を擦り寄せてきた



その様子を左慈は半ば引き気味で見ていた

「な、何とか…行けたのか…?」


普通なら今頃は、腹を押さえてのた打ち回って…否。卒倒してもおかしくない衝撃を傷口に受けているのだから


左慈は冷や汗を拭い、一刀を救い出さんと静かに歩み寄る


「ほ、北郷…そろそろ…んっ!?逃げろ!」


「へ?」


すでにフラフラの一刀


風前の灯火である彼の命を刈り取らんとする悪魔が、近付いていたことに気付いた左慈が叫びを上げる


「北郷ー!貴様ー!季衣と流琉に何をする気だー!」


「へっ?ダバッ!!?」


魏の愛すべきバカ娘…夏侯敦…真名を春蘭


彼女は今日も元気に一刀を殴る!殴る!殴る!


「いやあぁー!もうやめて!一刀のライフはもうゼロよ!」


たまらず、左慈は叫びを上げるが、誰も聞く耳持たず


ある者はパンチ、ある者はキック、ある者は跳び蹴り、そして、ある者は斬りつける


それでも、彼は…微笑み続けた…


状態は悪化の一歩を辿っているというのに…


しかし、左慈が駆け寄ろうとするたび、男・北郷一刀は静かに笑い、手で制する


「な、なぜそこまで…」


「左慈…女の子はね…大切に扱わないといけないんだ…。どんなに苦しくても、どんなにつらくても、女の子を泣かせちゃいけない。女の子の笑顔を守れるのは、俺たち…男だけなんだよ…」


一刀はそう、小さく呟くと静かに皆の頭を撫でる


「シクシク…意味が分からないよ…オヤジ…」


「お前にも、いつか大切な人が出来る…。きっと、分かる日がくるさ…」


「お、オヤジ…。はっ!?逃げ…」


そのとき、微笑みを浮かべる一刀の後ろに立つ悪鬼を見た


「にこー…」


「か、華琳…(ガクガクブルブル…!!)」


「こ、この…浮気者ー!!!!」


「……!?」


覇王曹操の覇王拳…通称嫉妬パンチをその腹に受け、一刀は言葉すらなく、地に伏すのだった…

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